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私の父は年下 4

…なんか騒がしい…
パタパタパタ、と…
誰かが走ってる…?

「…どうしよう…、お父さん…」

消え入りそうな震えた母の声で
一気に覚醒した。

ここは病室。
私は父の病室で寝ていた。

「〇〇さーん!」
カチャカチャとなにやら音が聞こえる中
女の人が
うちの苗字を呼ぶ。

時々、
鼻をすする音がする。

お父さんが危ないんだ、と感じた。

なぜかその時、
私は寝たふりを続けた。

そして、ひたすら祈った。

お願い!
お願いします!
連れてかないで!
お父さんは悪い人じゃない!
お母さんはお父さんがいないと!
頼りないお母さんだから!
お父さんがいないと!
お願いします!
連れてかないで!
ちゃんと言う事も聞くし、
勉強もする!
人にも優しくするし、
お母さんの手伝いもする!
お父さんを連れてかないで!

ひたすらに祈る。
それしかできなかった。

そんな中、
看護師さんが
「〇〇さん(母)…お家の方たちに連絡できる?」
と母に言った。

「…あぁ…」
母は震えた声で、
たぶん、小銭入れをカバンから取り出そうとした。(当時は携帯電話はなく公衆電話しか連絡手段はなかった)

「私が行く!」

祈りながら寝たふりをしていた私は
ガバ!っと突如体を起こし
母のカバンから小銭入れを取り出し
公衆電話へ走った。

そこからは無我夢中だった。

早く知らせないと!

おばあちゃん!
…電話に出ない!

なんど掛けても出ない!

その時の時間は朝方の4時台だった。
基本、みんな寝てる時間だ。

次に叔母に掛けた。

叔母はすぐに出てくれた。

「お父さんが!」

その一言だけでわかってくれた。

1番早く連絡したいおばあちゃんに
連絡が付かない。

焦る気持ちで
知らせるべき人に次々と連絡して行った。

恐る恐る病室へ帰る。

母は相変わらず
泣きながら震えていた。

どれくらい時間がたったか、
連絡した1人の叔母が駆けつけてくれて
真っ先に私の元へ来て抱きしめた。

私は、泣いていただろうか。
いまいち覚えていない。

その少しあと、

お医者さんが低い声で

「〇時〇分、…ご臨終です…」と言った。

母の喚き声が響いた…。


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