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ケンカしない夫婦なんて

たぶん、私と彼はまもなく結婚する。
先日、不器用な彼はプロポーズしようとして失敗した。盛大に噛んだのだ。
かなりショックを受けた様子だったが、さすがにもう一度仕切り直してくるだろう。

ここでひとつ、私たちには問題がある。
私たちは「ケンカをしない」のである。
ケンカをしない、というのはラブラブ仲良し最強バカップルということではなく、私たちにケンカをする、という能力が備わっていないことを意味する。

特に私は、両親とも兄弟ともかつての恋人たちとも一度もケンカというものをしたことがない。
自分の意見が相手と食い違った時、攻撃的に声を荒げるという手段を取ったことがない。

友人にこの事を話すと、大抵自慢か嘘だと思われる。
そこで、Xで「ケンカしない夫婦」と検索してみた。「ケンカしない夫婦なんて、所詮上辺だけの関係。言いたいことも言い合えない関係はすぐに崩壊する。」と出てくる。
なるほど、と思った。
「言いたいことも言い合えない関係」
ケンカをしない、ということは、言いたいことが言い合えていない、ということになるのか。

私は確かに言いたいことを言えていないかもしれない。
それは、私にとっての優先順位の話だ。
自分の主張を通したい、という感情よりも、声を荒げたくない、という感情の方が重いのだ。

さらには、私にとっての優しさとは何か、という話にもなってくる。
きっと私は、普通の人よりも他人との境界線を重んじる傾向にある。
そもそも他人というのはこちらの要望通りには動かない。
気が利かない人に「気を利かせろ!」と言ったからと言って気が利いた人になるわけがないし、自分のことを尊重しない人に「私を尊重しろ!」と言ったところで尊重してくれるわけがない。
もししてくれたとしても有効期限はせいぜい1ヶ月。
その人の根本に染み付いたことをこちらの都合で捻じ曲げることはそうそう出来ない。
出来ないし、そうしようとすること自体が傲慢で失礼な行為だと考えている。
優しさとは尊重のことでは無かったのだろうか。

それから、ケンカをしたいほど気に食わないことが無い。
前の恋人と付き合っていた5年間も、彼と付き合ってきた6年間も、怒鳴り合うほどのことが起きない。
だからこそ仲が悪くなることもなく長い間付き合って来たし、前の恋人との別れも「土日にまた会おうね」と言い合った後かのようなさっぱりとしたものだった。
本当に好きだったの?と聞かれるかもしれないが、本当に好きだったのだ。
逆に、なにをどうすれば怒鳴り合うようなことが起こるのだろうか。
煽っているわけではなく、本当に気になる。
この歳になって友達や親とはケンカしないのに、なぜ恋人や夫婦には汚い言葉で怒鳴り散らすのか。本当にわからない。

でも、私は理解したいのだ。
友人たちはみな熾烈な闘いを繰り広げている。
「クソ女」「出て行け」「稼げもしないくせに」などと言われた友人は、「◯ね」「汚ねえ顔しやがって」「低収入の役立たずが」などと返したそうだ。

本当に夫婦なんだよね?
うん。
それで、今日はどこに帰るの?
え?家だよ?
その人がいる家に?
うん、もう仲直りしたよ!
仲直りしたの!?
うん。

許せたんだ...…
雷の如き衝撃。
なぜ許せたのか、本当に分からなかった。
もしかして、この「許し」が愛なのだろうか。
だとしたら、私ははじめから誰も愛せていないのだろうか…

私と彼は、まもなく「ケンカしない夫婦」になる。
いつかケンカをしてしまった時のために、私は「ケンカしても仲直りできる夫婦」のやり方も知っておきたいと思っている。


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