ピーナッツを巡る考察〜サカナクションの新曲より〜

あまり人に言ったことがないことがあります。

私、「ピーナッツ」が好きなんです。いえ、食べる方も好きなのですが、何より「語感」が好きなんです。

「ピ」という、なんとも間抜けでヘンテコな破裂音を伸ばして、「ナ」という柔らかい音にバトンタッチ。「ッツ」がドラムのハイハットのように単語を締め、単語ひとつでリズムが生まれています。楽団のパーカッションとして「ピーナッツ」って言う人を導入しても良いんじゃないでしょうか。

似ている単語に「ドーナッツ」がありますが、「ド」はどっしりとした安定感があって「ドー」と伸びても安心できます。しかし「ピ」は伸ばすとどういうわけだか「お前にはまだ早い」みたいな気持ちになるのです。

「ピーナッツ」の存在を人に例えるなら、同じ中学校の、いいヤツだけどドジでいじられキャラだった男子、みたいなかんじでしょうか。「ピーナッツ」は私にとって間抜けだけど憎めない存在なのです。

そんな私の愛すべき「ピーナッツ」が登場している曲が最近発表されました。サカナクションのニューアルバム「834.194」の2曲名に収録されている、「マッチとピーナッツ」という歌です。この曲には14回も「ピーナッツ」が登場します。かつてここまでピーナッツが歌詞に登場した曲があるでしょうか。しかも、サカナクションというカッコいい且つ私の好きなバンドの曲に登場するなんてピーナッツ史上初の快挙です。良かったなぁ、ピーナッツ…!例えるなら、ドジで間抜けなアイツが高校でいつのまにか彼女ができていて、「お、お前…!」という悔しくも羨ましい気持ちと、「幸せになれよ…」って見守りたくなる、そんな気持ちです。

この歌の優れているところは、なんといっても「言葉のリズム感」です。一番最初の歌詞を見てみましょう。

深夜に噛んだピーナッツ
湿気ってるような気がしたピーナッツ
あの子が先に嘘ついた

アルバム『834.194』、曲名『マッチとピーナッツ』より引用
作詞:Ichiro Yamaguchi 作曲:Ichiro Yamaguchi

 この部分だけで2回のピーナッツ、さらに「湿気ってる」と、3回も「ッツ」が登場しています。お子さんの撥音練習に良さそうな歌詞です(ちなみにわたしの撥音練習した時の単語はベッカム)。この「ッツ」が登場すること、さらに歌詞の一行の最後が「タ」行で終わっていることにより、曲に小気味よさが生まれています。
 
今度は別の歌詞に注目してみましょう。

深夜に噛んだピーナッツ
湿気ってるような気がしたピーナッツ
湯呑みに余った水が
また
こぼれた
心がこぼれた

アルバム『834.194』、曲名『マッチとピーナッツ』より引用
作詞:Ichiro Yamaguchi 作曲:Ichiro Yamaguchi

前半の3行は依然としてリズム感がある歌詞なのですが、後半の3行は撥音がなく、今までのようなリズム感が消えます。また、後半の3行は前半の3行よりも単語数が極端に減っていることがわかります。つまり、この曲には、単語数が多く、撥音によるリズム感がある「縦の音楽」と、単語数が少なく、撥音が無い「横の音楽」が共存しているのです。

この、撥音の有無による「縦」と「横」の2部構成によって、私たちは最後まで飽きることなく聴くことができます。まさに撥音に特化した曲です。その中でもやはり主役はピーナッツでしょう。この曲はピーナッツのための歌といっても過言ではありません。彼には主演男優賞を授与したい。 

皆さんもぜひ、ピーナッツ君の勇姿を聴いてやってください。いい味出してます、ピーナッツだけに。

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