迷ひと、恐れと

父と話しをして、間も無く、一週間になろふとしてゐます。

あれから、色々と考へました。

明確な答へらしひ物は、未だ、見つかりませぬ。


母が、父の顔も見れぬ程になつてしまつたのは、今回の父の狼藉だけが原因ではありませぬ。

以前より父は、わたくしたち家族と仲が良いやうでいて、何処か、何かが欠落してゐました。

母は、その欠落により起きた出来事の、一番の被害者。


先ず、父は以前より、人の悲しい気持ちや辛い気持ちに「共感」する力が、全くと言つて良いほど無ひ人でした。

母が大病をして落ち込んでゐたその年、父は酔つ払つて一言「いやあ、今年は最高の一年だなあ」と忌憚なく言つた事を、母は嘆ひてゐました。

他にも、わたくしのきょうだいが、幼き頃、不登校になつた時も、戸惑う母の相談には碌に乗る事もなく、

「あいつはもうダメだ」と、冷たく言い放つたと言ひます。


普段、父は明るひ人で、わたくしは幼き頃、そんな父の事が大好きでした。

さう、楽しき人に見へるのです。

社会人としても立派な人で、一時は長年勤め上げた会社で役員兼子会社の代表もしておりました。

魅力的で、人付き合ひは良く、権力もある。けれど、心根が何処か、冷たひ。

わたくしが子供の頃は、楽しき父親としての側面しか見へてゐなかったのでせう。

今は、何か、怪物めいて見へることすらあります。


そうした過去の累積と、今回の出来事を、織り交ぜて考へれば、

少なくとも、もう、母と父は永劫に切り離したほうが良ひのでは、と思ひます。

ですが、以前書きました通り、母は離婚は望んではゐませぬ。このまま、最期の時まで合わなければそれで良ひと。

父は、未だ多くを語らない口で、けれど饒舌に、元どおりになりたひ、などと申します。

二人の思ひを受け、わたくしに今出来る事と言へば、

父が母にうつかり逢いに行かぬやう、彼と母を隔てる壁になる事、くらいで。

(以前の話し合いでも、今後、もし母に言ひたい事があれば、わたくしを通すやうに、と伝へました)

子は鎹、と申します。

今のわたくしは、さながら、片側の金具が外れかけた鎹などと譬へられませうか。

間を持つとは言へど、やはり、わたくしは母の味方でありますから。


ただ、本当にこのままで良ひのか如何かは、未だ、悩んでおり。

もう一度くらい、父に逢おうか、逢つて父が変わるのを期待しやうかとも、思はなくもありませぬ。

怖ひのは、その期待を裏切られる事。

また、心無き行ひを繰り返される事。

嘘を吐かれる事。



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