まみ

美大生 美術展の感想やエッセイ、短編など

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美大生 美術展の感想やエッセイ、短編など

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青と軋轢

まだ午前9時なのに、日差しは鋭い。汗で張り付いたワイシャツの中を風が通るように、自転車に乗りながら体の角度を調整する。校庭の脇の道路を通ると、野球部はもう既に練習を始めていた。グラウンドの白い砂と青空の対比が眩しい8月。 中庭に自転車を止めて新校舎の中に入ると、目の前がぶわっと緑一色に染まった。太陽光の残像が消えるのを待ち、息を整えてから階段を上がる。 美術室に入ると、やはり先客がいた。いや、というかそれを目当てに早く来たのだ。 「おはようございます、すずみ先輩。今日も早いで

    • おわり

      匂いというのは私たちの感覚を敏感にさせる。時に、不必要なまでに。昔のくだらない喧嘩やどうしようもない苦痛までもが、その時嗅いだ匂いとともに蘇る。要らないはずのエモーショナルな感傷とともに。 そう、匂いというのは私たちを敏感にさせるが、感傷というのは私たちを鈍感にさせるのだ。 3年前の春、私は当時別れたばかりの元彼の事が忘れられなかった。彼は無口で感情をあまり表に出さない人だった。彼の家で、私と2人きりになった時だけよく笑った。好きな理由なんて、それだけで十分だった。 彼は洗

      • ボーナスタイム

        朝起きてすぐ、布団の中でスマホをいじるのが習慣になってしまった。Twitterのトレンドをひとしきり見たあと、LINEを開く。通知は6件。うち4件は公式アカウントからで、残りの2件は桧山野々花からだった。 「綾子、お疲れ様〜 おとといはありがとう!ひさびさに会えてよかった〜」 「また飲みに行けたらうれしいな」 わざわざ2日後の朝に連絡を寄越すあたりが律儀なのかなんなのかよくわからない。本当に、あの子は昔と何にも変わっていない。 野々花とは、高校1年から3年の間ずっと

        • 架空ニュース 文字起こし

          ニュースをお伝えします。 二ルカがWIOから正式に離脱しました。 現地時間きょう午前0時、二ルカが世界共通通貨連合・WIOから正式に離脱しました。 二ルカ議会では今年9月頃からWIO離脱について議論されてきましたが、今月26日、二ルカ大統領・エビデ氏の署名をもって正式にWIOを離脱しました。 エビデ氏は記者会見にて ー映像 「WIOは小さな世界にすぎない。自らに自信のある国は今すぐおままごとを辞めるべきだ」 このコメントを受け、アビリ派の市民が議会前でデモを結構。多くの人

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        青と軋轢

          架空クイズ

          Q.経典『マル・ネ・リン』を著した詩人・コルボボの「この世の全ては物語である」という思想から、現在も信者によって新たな神話が紡がれ続けている、ミネバ族が伝統的に信仰する宗教は何でしょう? A.ネ教 Q.毎年11月にダヌ神殿で行われる、ネ教の信者が自ら作った神話を発表し、それを文筆団体・シネカルが経典に加えるか否かを審査する祭典は何でしょう? A.ネ・ネ・ダラサ Q.元はビキラ教の信徒であったが、ネ教の経典『マル・ネ・リン』に感銘を受けて回心したというエピソードがある、

          架空クイズ

          よしきくん

          小学校の同級生によしきくんという男の子がいた。彼とは小学校1年生から6年生までずっと同じクラスだった。すごく色白で、顔立ちの整った男の子だった。 よしきくんは、全然喋らない。無口とかではなく、国語の時間の音読とかどうしても喋らなきゃいけない時以外は、文字通り全く喋らないのである。 よしきくんは、絵が上手かった。彼は全然喋らないけれど、休み時間に自由帳を広げて絵を描く彼の机のまわりにはいつも男の子たちが集まっていた。男の子たちがよしきくんに話しかけると彼は自由帳に文字を書いて返

          よしきくん

          舞台「ねじまき鳥クロニクル」見た(ネタバレあり)

          先輩に誘ってもらって舞台「ねじまき鳥クロニクル」を見に行った。舞台を見るのは初めて。場所は東京芸術劇場。 ねじまき鳥クロニクルは3年前に1度読んだことがある。浪人生の頃の私は電車の中で村上春樹をハードカバーで読むのがかっけえと思っていた。家から予備校まで2駅なのに。歩け。 内容は程よく忘れた状態で観劇した。公演時間は3時間で、原作は分厚いハードカバーで3冊分のシリーズなのでどうまとめるんだろう…と思っていたが、すごく面白かった。あの、しっかり本を読んでも全容を把握できかね

          舞台「ねじまき鳥クロニクル」見た(ネタバレあり)

          おじいちゃんおばあちゃんち

          小学生の頃いちばん仲よしだった友達は、おじいちゃんちが会津若松にあった。だから夏休みや冬休みの度に、会津若松のご当地キティちゃんのお土産をくれた。キラキラの、表紙の角度を変えると絵柄が変わるノートとか。こないだ実家に帰ったらなぜかリビングのカウンターにそれが置いてあった。 私には「おじいちゃんおばあちゃんち」というものがない。今唯一生きているおばあちゃん:父方の祖母とは、私が生まれた時から実家で一緒に暮らしていたから。 父方の祖父と母方の祖母は私が生まれる前に無くなっているし

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          キュビスム展行った

          こないだの土曜日にキュビスム展に行った。 他の20世紀美術の運動と比べると、私はキュビスムについてあまり多くを知らないし、興味が薄い。正直、ピカソの他の作風は好きだけどキュビスムはあんまり好きではなかった。だってピカソだかブラックだかよくわからない時期の作品って、なんだか色がくすんでいてつまらないし、代替可能な感じがどうなの?とか思っていた。しかし今回の展示で私の中のキュビスムへのイメージは覆されることとなる。 まずエントランスのキャプションにて「50年ぶりの大規模なキュビ

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          ナラッキー行った

          クソ長文(5673文字)、ネタバレ、脱線を含む 17:04 見たものの記憶はすぐに逃げていくので、帰りの電車の中で書き留めておく。沢山歩いたので、タイツの圧でつま先が痛い。 15:17 新宿駅に到着。東口から1回外に出てトイレを探そうとするが、出てすぐに歌舞伎町だったので引き返してLUMINE ESTのトイレに入る。用を足し、すっぴんだったのでパウダールームで化粧をする。背後のギャルからの圧が怖い。 化粧を終え、緊張しながら歌舞伎町を歩く。誰か他の人を誘っても良

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          ホックニ-展行った

          2023.9.22 昨日はホックニー展を見に行った。作品タイトルなどはうろ覚え。 版画っていいな。リトグラフってどういう技法かあんまり知らないけど、アクリル絵の具でのぺっと塗ったような面とか、鉛筆でさっと描いた線とか、色んな表現ができるんだって感動した。私もやってみたい。来年お金はらって大学の技法講座取ろうかしら。 色んな技法を使っているのが面白い。 昔のホックニ-は、ピカソのパピエコレに影響を受けて、ひとつの絵画に色んな様式を入れ込むのがマイブームだったらしい。たとえば

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          さよなら天使ちゃん2

          そのおじさんは15分以上うずくまって泣いていた。なんかだんだんおもしろくなってきたな。青椒肉絲、食べてみるか。たけのこを手でつまんで口に運ぶ。あ、これ、たけのこじゃなくて細切りのじゃがいもだ。 「ねえ、あなたのことずっと見てたんだよ」 「そりゃ怖いね」咀嚼しながら答える。 「私が誰だか、ほんとうにわかってないの?」 「わかってないね」 「私ね、ある朝起きたら急におじさんになってたの」 「これまでもおじさんだったんじゃなくて?」 「違うよ!私ね、りなだよ」 「どのりな?」 「ど

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          夏の短歌

          夏は干ぬ 溶けた口紅薫る汗 私を貫く思い出の槍 伏線回収上手だね ロマンスのエンドロールに君の名が浮く ねえあのさ、ジャムと写真は似ているね、ずっと変わらないものは嘘だよ。 私はね、生の果実が好きなんだ すぐ腐るでしょ?そういうことよ。 あなたはさ、すぐに写真を撮るでしょう?だから、ほんとに、そういうとこよ。 花火とか絵とか空とか撮ってもさ、全部取っとけるわけないでしょ。 メモリとかそういう話じゃないんだよ。ほんとに情緒のない男だね。 わからないならこの話はも

          夏の短歌

          げっぷ

          昔、よく家にげっぷをする女の人が来ていた。 げっぷが他の人より多いとかではなく、ずっと止まらないのである。立て続けに「げえっげえっ」とやり続ける。それでいて嘔吐する訳でもない。 その人はよくうちの母や祖母から浄霊をもらっていた。浄霊というのは文字通り霊を清める行為のことだ。宗教的行為であり、かつ医療行為であるともされている。患部に手のひらをかざすことで、聖なる光によって体の中の毒素が清められるのである。毒素が清められる過程で「浄化」が起こる。この浄化というのは時に病気などの症

          架空日記

          勢いで髪の毛を坊主にしたのですが全く似合わなくて絶望しています。 見切り発車でやってしまったので、坊主の時にボディソープで頭を洗えばいいのかシャンプーで頭を洗えばいいのかわかりません。 ボディソープで洗ったとして、どれくらい髪が伸びたタイミングでシャンプーに切り替えればいいのでしょうか。これが坊主のパラドクスか〜 冗談はさておき、最近流行っていますよね、仏像。インテリア感覚で部屋に置くのってどうなんでしょうか。まあ古代から偶像というのはビジネスとして消費されてきたわけですし、

          架空日記

          マティス展行った

          美術展行ってもすぐ内容を忘れてしまうので書き留めておこうと思う。特に印象に残った作品だけ。 ・『豪奢、静寂、逸楽』 本物を見られて1番嬉しかったかもしれない。 新印象派の点描は細かい書き込みとして機能して見えるけど、マティスのはあんまり機能してないっぽいのがいいなと思った。あくまで絵の具として、色として見える感じがよい。 あと額のチョイスが凄く好きだった。シンプルな彩色してない木の額が映えていた。金のごてごての額だったらだいぶ見え方が変わっていたと思う。 ・『豪奢Ⅰ』 こ

          マティス展行った