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0008 《真夏の奇跡.》

 「マネージャーやってくれない?」
と突然声をかけられた。高校の廊下を歩いている時のこと。同級生の野球部員にそんなお願いをされたのは、もう15年以上も前だ。そこから私は野球の魅力にどっぷりとハマってしまうのだから、”縁”というのはある日思いもよらないところから降ってくるのだ、と想う。

 2019年の夏。ひょんなことからロサンゼルスで過ごすことになった。野球好きの私は、もちろん球場へ足を運ぶことを心待ちにしていた。
 そんなある朝。スマホの画面を見て震える。”Kikuchi, Yusei”の文字が表示されているのだ。今シーズンから海を渡り、メジャーリーガーとなった菊池雄星投手が登板する。アナハイムの球場で。そこは、あの大谷翔平選手が所属するロサンゼルス・エンジェルスの本拠地だ。岩手県にある花巻東高校出身の二人が顔を合わせる瞬間が間近に迫っている。
 慌ててエンジェル・スタジアムへ向かう。行きの車の中ですでに感極まってしまった。気持ちがはやり、試合開始の二時間前に到着。そのおかげで試合前の大谷選手、ピッチング練習をする菊池投手を目にすることになり、さらに緊張感が高まる。

 結果はフォアボールと三振。5回途中で降板した菊池投手の肩を落とす姿が目に焼きつく。日本から集まったファンももっと対戦を見たかったと思う。例外なく私もだ。

 30℃を超える、照りつける陽射しの中での観戦だった。でもそれ以上に熱いものが私の心を満たしていた。菊池投手のあの後ろ姿からも、大谷選手のフルスイングからも、溢れていた野球に対する一途な愛。本当にかっこいい生き様を見せてもらった。忘れることのできない夏の日。この奇跡の巡り合わせと、あの場所にいられた幸運に、乾杯しよう。

#あの夏に乾杯

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