第18話:交際半年でフランス人彼氏の実家に宿泊した結果
北海道政府観光局の5日間の撮影ツアーを終えて、シンガポールへ戻り、
そのまま息つく間もなく、翌日、東京へと飛び立った。
これから一緒に暮らすことになる
東京港区の最寄り駅で
仕事を終えた彼と待ち合わせをし
見慣れぬ風景にキョロキョロしながら「自宅」へと向う。
日本での新しい生活、
新しい人生が、ここから始まるんだ。
なんて
新生活のときめきに浸る間もなく
スーツケースの荷物を詰め直し
その翌日にはフランスに発つという
とんでもないスケジュールだった。
パリに降り立つのは、
大学の卒業旅行以来、二度目の訪問。
当たり前なのだが、フランス語を流暢に話し
慣れた様子で案内してくれる彼が
いつもの3割り増しで頼もしく感じられた。
数日間のパリに滞在したのち
今度は列車を乗り継ぎ2時間半、
パリの南西に位置する
フランスの小さな田舎町へと移動する。
そう、今回の旅の目的は
彼のご両親に会いに行くことなのだ。
プロポーズの「プ」の字も聞かないまま
交際3ヶ月のフランス人の彼を追いかけ
日本への帰国を決めたのだけれど
なかなか悪くないスタートなのではないか。
と内心思いつつ
フランス人の結婚観
パートナーシップ観は
永遠の謎である。
古びた小さな田舎町の駅まで車で迎えに来てくれた
初めて対面する彼のパパ。
「Bonjour(ボンジュー)
Je m'appelle Mana(ジュマペールまな)
Enchantée(アシャンテ)」
緊張を隠せぬまま
機内で唯一覚えたフランス語で挨拶をする私を
Bisousビズ( 頬へのキス)で温かく迎えてくれた。
彼が生まれ育った小さな田舎町は
初めて訪れたはずなのに、どこか懐かしく
子どもの頃から憧れていた「外国」がそこにあった。
名前も聞いたことのない町なのに
不思議なくらい懐かしい。
案内された彼の実家は、平屋の二階建てで
レンガ造りの家の中には大きな暖炉と
その周りで恰幅のいい猫が2匹くつろいでいて
奥から出てきた彼のママは、愛息と同じように
「おかえり」と言わんばかりに
初めて会う私を大きなハグと温かいBisousで迎えてくれたのだった。
窓から外を眺めると、広々とした庭の隣にサラサラと小川が流れ
家の斜め向かいには、小さな教会が見える。
私はきっと、ここに来たかったんだ。
懐かしさの正体と同時に、彼が日本へ発つ前日、
シンガポール最終日の Farewell Partyで交わした
あるフランス人女性との会話を思い出していた。
「あなたも一緒に日本についていくの?」
「うん、そのつもり。
でも4年半も暮らしたシンガポールを離れて日本に帰るなんて
ちっとも実感がわかなくて…」
「きっとあなたは彼と出会うためにシンガポールにやってきた。
そして、その目的を果たしたから日本に帰るのね。」
フランス人という生き物は、
どこまでもロマンチックである。
でも、そんな彼女の粋な考え方に、妙に納得していたんだよね。
もしも、あの時
失業せずに広告会社で正社員として勤めていたら…
もしも、あの時
大好きだった彼氏にフラれず、あのまま付き合い続けていたら…
もしも、あの時
仕事の取材で、インドネシア人の友人と出会っていなければ…
もしも、あの瞬間
YouTube婚活だなんて、突拍子もない企画に乗っかっていなければ…
少しでもタイミングがズレていたら
一つでもピースが足りなかったら
日本の田舎とフランスの田舎
遠く離れた場所に生まれ落ちた私たちの人生は
一生交わることがなかったと思う。
そう思うと
あのときの失恋も
あのときの失業も
夢に手を伸ばそうとすらしなかった
過去の至らぬ自分さえ
全てが計算され尽くした奇跡のように感じられた。
彼女が冗談めいて放った言葉が
もし真実だとしたら…
運命の人を引き寄せたのではなく
運命に引き寄せられたのは、私の方だったのかもしれない。
なんて
フランスとは、人をロマンチックにさせる
不思議な魅力をもつ国だ。
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