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「すいません、ポイント貯まったんですけど」

思いがけず、古いに友人に会った。

「いやあ、まさかこんなところで会うとは。15年ぶりくらいかな」

などと言いながらしばし旧交を温めていると、彼女はふいに笑いだし、「コーヒーのポイントのこと思い出しました」と言う。

はじめは何のことかわからなかったが、すぐに思い出した。

当時、僕は毎日のように、某チェーン店のカフェに通っていた。

いつもテイクアウト用のカップに入れてもらっていて、その飲み口のところに、コーヒーがもれないよう楕円形の小さなシールが貼ってあった。

僕はそのシールを、社員証か何かのカードの裏に貼って、なんとなく集めていたのだ。

そしてカードの面がシールでいっぱいになったとき、カフェの店員さんにそのカードを見せて、こう言ってみた。

「すいません、ポイント貯まったんですけど」

もちろんそんなポイント制度はない(笑)。ちなみに一応常連なので、店員さんとは顔馴染みではある。「申し訳ございません、ポイントは取り扱っておりませんで……」「あ、それは失礼しました(笑)」くらいのやりとりで終わるだろう、と思っていた。ちょっとした冗談である。

僕に「ポイントカード」を見せられた店員さんは一瞬驚いていたが、すぐニヤリと笑い、「少々お待ちください」と言って、奥のスタッフルームに入っていった。おそらく店長さんがいらっしゃるのだろう。

予想外の展開にドキドキしながら待っていると、店員さんはすぐ戻ってきて、こう言った。

「では、サイズアップさせていただきます」

SサイズがMサイズになった。

チェーン店にしてこの対応。「世の中まだまだ捨てたもんじゃないな」と思ったのだった。

そう、15年ほど前に一緒にカフェに入ったとき、その「ポイントカード」を彼女に見せたような気がする。「おれポイント貯めてんねん」とか言いながら(笑)。

チェーン店では四角四面な対応しかしてもらえない、と僕らは思いがちだけど、やっているのは結局人間である。マニュアルにないような「人間的な」対応をしてもらえたとき、人はその店のファンになってしまうのだろう。もちろん、お店に迷惑をかけるような、不当な要求などは言語道断である。

この社会はルールでがんじがらめになっている気がするし、それは一面においてその通りなのだけれど、案外、「ここでそんなことをしてはいけない」と自主規制してしまっているだけな場合も多いのかもしれない。良くも悪くも、「しょせんは人間がやってることでっせ」である。

15年ぶりの再会は、淡い青春の記憶とともに、僕にそんなことを思い出させてくれた。

ちなみに僕らが再会した場所は、東村山市にある、はかりうりのお店「lagi」。米粉を使ったグラノーラ、ナッツやドライフルーツなどのオーガニック食品、エシカルなグッズなどを扱う面白いお店。

実はこの日、同じ場所で、ほかにも思いがけない再会が2つほどあった。この店にはそういう不思議な磁力があるのかもしれない。

個人的には、お店のすぐ脇に流れている川に秘密があるのではないか、と思っているのだが、さてさて。素敵なお店なので、気になる方はぜひ遊びに行ってみてください。

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