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痛み(Pain)とは②中枢情報処理編 #00098

 末梢神経Aδ線維とC線維により脊髄・延髄に活動電位が伝導していきます。さて、侵害受容からの上行性伝導路について説明します。(小野堅太郎)

 侵害受容したAδ線維とC線維は脊髄に入ります。口腔顔面領域は脊髄ではなく、延髄に入ります。これらの線維の細胞体は、それぞれ後根神経節と三叉神経節にあります。活動電位は細胞体にも伝わりますが、基本、素通りして中枢神経系に入ります。

 感覚情報は脊髄・延髄の背側から入ります。この入力が入りシナプスを作る領域を「後角」といいます。一次感覚神経の中枢端では神経伝達物質としてグルタミン酸が放出され、痛覚経路ではP物質というペプチドも分泌されます。後角は層構造になっており、侵害情報は基本的にI層とII層に入ります。延髄は層構造に加えて吻尾方向に機能領域が分かれており、三叉神経脊髄路核の中でも侵害情報は主に尾側亜核に入ります。

 2次ニューロンの多くは抑制性であり、近傍のニューロンを抑制することで、より上位の神経核への出力を絞ることが知られています。これを側方抑制といい、刺激を最も強く受けた部位の信号を強調させます。これは「部位の識別」には効率的な仕組みです。ただし、末梢の炎症がひどくなると側方抑制があまり働かなくなり、炎症を起こしていない他の広い領域まで痛いと感じてしまいます。

 2次ニューロンの中でごく一部の神経軸索は一旦、反体側に軸索を伸ばしてから上向し、視床に入力します。軸索が交差しているのは謎であり、進化の過程でたまたまそうなったのか、何か意味があるのかはわかっていません。そのせいで、右半身は左脳が、左半身は右脳が感覚受容しています。視床では侵害情報は大きく外側系と内側系に分かれてシナプスしています。

 外側系の三次ニューロンは大脳皮質感覚野に入力します。感覚野は体部位局在が明らかで、脳の上から下の方に向かって逆立ちしたような感じで身体の領域が配置されています。ここで、侵害刺激の位置と強さを判別していると考えられています。一方、内側系の三次ニューロンは情動回路に入力します。これこそが痛みが不快感を伴う理由です。次の出力先として島皮質が挙げられており、現在、多くの研究が進められています。

 動画では「幻肢痛」と「幻歯痛」の話をしています。ない足やない歯が痛いという症状です。不思議な症状ですが、神経回路を知っていると不思議なことではありません。動画の方をみてください。

00:32 痛みの上行性伝導路
08:15 視床での外側系と内側系
11:26 痛みの定義
12:40 幻肢痛と幻歯痛
16:44 新規に開発した疼痛実験法

補足・訂正

 結局のところ、痛いと感じている脳部位はわかっていません。島皮質が有力候補ですが、結論はまだ出ていません。


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