見出し画像

範馬刃牙が痛みに耐えられる理由:学生の質問からの学び

九州歯科大学の1年生からメールで質問をもらった。刃牙が痛みに耐えられる理由を問うものだった。「こういう質問大歓迎です」の書き出しで回答した内容を書く。(吉野賢一)

学生からのメール:こんにちは。痛点などの神経について質問があります。たまにTVやバキなどで武道の達人が痛みに耐えているシーンを目にしますが、あれは鍛えたことにより痛点もしくは神経が障害を起こしているのでしょうか。それとも精神力で我慢しているのでしょうか。授業に直接関係ない質問だと思いますので、大変申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。(ほぼ原文のまま)

範馬刃牙:バキのフルネーム。「グラップラー刃牙」にはじまるシリーズ(原作:板垣恵介)の主人公。父・範馬勇次郎の息子で、母・朱沢江珠を殺害した勇次郎への復讐が動機となり格闘家の道を歩む。なんと宮本武蔵(クローン)とも闘ったこともある。

以下は「学生への回答」に若干の加筆・修正を加えたもの

肉体を鍛えても効果なし:慣れない(順応しない)あるいは極めて慣れにくい(順応しにくい)のが痛みです。刃牙がいくら肉体を鍛えても、いくら痛い思いをするトレーニングを受けても、痛みに耐えるという点では「効果なし」だと思います。

神経障害説:無理があると思います。痛みは生存に重要な感覚です。確かにロボトミー手術(脳にメスを入れる)などで、痛みを感じなくすることは可能です(倫理的には不可能)。でも長生きできません。病気やけがに対応できないためです。それに、痛みを含めた感覚に障害があると武術習得には不利だと思います。屈曲反射(侵害反射)などの素早い反応ができなくなるからです。

先天的に痛みに強い:神経障害ではなく先天的に(生まれながらに)痛みに対する閾値が高い(感受性が低い)可能性はあるかもしれませんね。父・勇次郎と母・江珠からそのような「痛みに強い・鈍い」形質(例えば、痛点が少ないとか)を受け継いだ可能性は否定できません。とくに「地上最強の生物」と呼ばれる父・勇次郎から。

痛みに強くする子育て:痛点(痛みを感じる感覚点)は全身に200万個くらいあります。痛点(侵害受容器)の形成には、成長の過程で侵害刺激を含めた適切な刺激が必要だと思われます。したがって、幼いころから「極端に刺激を抑制する」ことにより、痛点の数を正常範囲よりも少なくすることが可能性かもしれませんね(神経障害に含まれるかも)。ただし、刃牙の場合はかなりの痛み刺激を受けていたようなので該当しませんし、通常の子育てでもまず無理です。

下行性疼痛抑制系:刃牙の痛みに強い理由は「精神力で我慢」が有力だと思います(精神力 ≒ 脳の機能)。上級生になったら生理学(小野先生)や麻酔学の講義で下行性疼痛抑制系について学びます。これが「精神力で我慢」のメカニズムの一つです。簡単に言うと「抹消からの『痛み』情報を中枢からの情報で弱めること」です。ランナーズハイ(runner's high:マラソンなどの継続的な運動による苦痛を我慢し続けているとやがて恍惚感や多幸感を生じる現象)も、基本的なメカニズムは同じです。

心頭滅却:「精神力で我慢」をサポートするもう一つの理由が「心頭滅却すれば火もまた涼し」だからです。そもそも感覚が生じるためには注意(集中)が必要です。注意できなければ脳で処理できませんので、何も感じません。残念ながら?痛み刺激には自然と注意が払われるので、我々は無事?痛みを感じることができます。しかし、スポーツの試合中、骨折したけれどもそのままプレーを続行した(試合後に即入院)なんて聞くことがあります。試合に集中(心頭滅却)していたので、痛みを感じなかった(火もまた涼し)と言うことです。修行で精神力を鍛え、極限まで集中力を高められる刃牙であれば、闘いの最中に痛みを感じなくても不思議ではありません(試合後には刃牙も即入院)。

こういう質問大歓迎:彼から質問をもらうまで、刃牙をバと読んでいた。バだったのね、学ばせていただきました。そして小野先生からは、勇次郎と刃牙の「地上最強の親子喧嘩」がどのように決着したかを聞くことができた。学ばせていただきました。学術的なことでも、非学術的なことでも、何でも学ぶって楽し~い。

余談:吉野は「日本で一番、漫画に詳しい大学教員」を目指していました。しかし、小野先生には勝てそうにありませんので諦めました。

全記事を無料で公開しています。面白いと思っていただけた方は、サポートしていただけると嬉しいです。マナビ研究室の活動に使用させていただきます。