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毒親 変な家③

父は週に一度お寺通いという高尚な事を言いながら実際は浮気をしていた。
お寺で昔の知り合いの女性と偶然再会し、付き合いが始まったらしい。
なんでもその女性の靴下が破れていて可哀想に思い情を持ってしまったとのこと。
父にそんな情感のあることも驚きだったが、それよりもお金もなくさしておしゃれでもない普通の中年の父に浮気相手ができるとは思っていなかった私と父はそもそも父に興味がないことも手伝って全く気づかなかった。
なぜ発覚したかと言えば浮気が終わった数年後、母に自分から言ってきたらしい。
それも、良心の呵責や謝罪などではなく笑いながら
「お前あの時は全然気づかなかったのか」
と嬉しそうに。

愛情など全くないと言っていた母ではあったが、そんな告白を何かのついでに聞かされた心境は如何なるものだったのか私には想像がつかない。
ただ、
「あの人は私を何も気づかない間抜けのように言って馬鹿にしている」
と言い、
「その女性に駆け落ちしてくれと言われて家族を捨てようか迷ったけど、遂には一緒に死んでくれと言い出したので怖くなって逃げ出したんだって。あんな怖がりは何もできない」
と馬鹿にし返していた。
私はただ、小学生の娘にこんな話をする母もどうかしていると思ったし、父もまた私を捨てようとしていたということがショックだった。

中学生になった頃、今度は母の浮気が始まった。
相手はパート先で知り合った若い留学生だった。
母もおしゃれなどしない、どこにでもいるパートの中年女性というタイプだったので相手ができたということにびっくりしたが、男性は許容範囲が広いのでそんなものかも知れない。

母の場合は相手のことを好きだったようだが、完全に遊びのようだった。
ただ父とうまくいっていない憂さを晴らしているだけで相手も本国に帰る予定があったので短期的な付き合いとしてパートの主婦がお手頃だったのだろう。
一度相手が明け方に酔っ払って家に電話してきたことがあって、
「どうしたの?酔っ払ってるの?もう切るよ」
という母の困ったような嬉しそうな声が狭い家に響いていたが父は何も言わなかった。

母の浮気はこれだけでは終わらず、その相手が帰国後も新しい相手を見つけては出歩いていた。
依存しやすい人なんだろうと思う。
そして、相手が変わるたびにわざわざ私に教えてくれた。
普通に今でいう「推し活」をしている主婦と話す内容は変わらない感じだった。
「すごく可愛い。まっくんって呼んでくださいって言ってきて」
母の機嫌が良さそうだったので私としてはどうでもよかった。
ただ、いつもの俯瞰的に見てしまう癖で中学生の娘によくこんなことが話せるもんだとその時も思っていた。

両親が二人とも浮気して、一人っ子の私は誰にも相談することなく淡々と日々を過ごしていたが中学生の頃不登校になった。
虐められたわけではない、ただ行きたくなかった。
夜な夜な家を抜け出しては同級生の彼氏と公園でタバコを吸うようになった。
敢えて仕返ししてやろうと思ったわけではないが、両親が二人とも好き勝手しているんだから許されるようにも思った。
父はコントローリングな人なので私が遅く帰ったり家を抜け出したことがバレたりすると烈火の如く怒った。
母は
「私たちが悪かったんじゃないの?こんな家に帰ってきたくないのは仕方がない」と自分に重ねての嫌味なのか何なのかなぜか宥めてくれた。

夜の公園で、彼の制服に染み付いたタバコの匂いを嗅いでいる時だけは自由になれた気がした。
私と一緒にいてくれる人。
彼の目的が他にあることもわかっていた。
「好きだ」
と言われても空虚な感じがしたが、私は初めてできた彼氏という存在がとにかく嬉しくてたまらなかった。
絶対的な味方ができたような繋がりがあるように感じた。
こんな思いのまま今に至れていればもう少し幸せになれたのかも知れない。

その彼とはしばらくして別れたがその後誰と付き合ってもうまくいかないことが多かった。
いつも愛情に飢えていて、100%愛があると思える行動をしてくれないと不安になる。
安定した関係が続くとそれはそれで不安になって、自分から喧嘩をふっかけるようなところさえある。
面倒臭いこと極まりない。
時々母に似ているんじゃないかと思うこともある。
母はそれでも我慢して父が亡くなるまで一応は添い遂げたが、多分私には無理だ。



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