このてのひらに-blue

そういえばさ、海行ったね。

あん時は、ぜんぜんバレなくてさ、
すげー自由だった。


釣りにもハマってない頃でさ。


きみは…うっすい水色で、白い小さな花柄のワンピースで。
肩がやけに開いてたから、どっきどきした。


まだキスとかもしてなかったよね?
え?
してたっけ。
ごめん…覚えてないや…
でもさ、あの夜は…



▤▤▤▤▤



連絡が来たのは、昨日の夜だった。


きみがなくなったって。


同級生から電話なんて、めったにないことで。


実家に電話をして、うちの番号を聞いたらしい。


『智くん、あの娘のこと好きだったじゃん?』


その言葉で、いたずらやなりすましじゃないってわかったんだ。


おれがきみを好きだって知ってたのは、一人しかいなかったから。



『病気だったんだ。ずっと。おれもビックリした。お袋さんから連絡が来た時は、もう…末期の状態で…』

▤▤▤▤▤

中学時代、ずっと同じクラスだった。
想いを告げることなく卒業して、おれはこの世界に入って。

もう、限界かなって思ってた時に…
きみと再会したんだ。
偶然じゃないような気がしてた。
また巡り逢うために…
神様が用意してくれたような。



『テレビ付けたら、智くんが踊ってるの偶然見たの!ビックリしちゃった。』

『え?おれのこと、わかったの?あんなにチラッとしか写つんなかったのに!』

『わかるよー!不機嫌そうでさぁ。どうして?好きで入ったんでしょ?』

『そうだけど…』



久しぶりに会った初恋の人に愚痴なんて言いたくなかった。


『それよりさ、おまえ、彼氏は?』

『いるわけないじゃない…女子大なのよ…?』

『女子大生なんて、遊びまくりなんだろ?』

『あのね。一緒にしないで?わたしは毎日論文と研究で忙しくて…』

『あ。言い訳してる…』

『どうせ智くんだって、げーのーかいで綺麗な人に囲まれて…遊んでるんでしょ?』

『あのなぁ…おれなんて相手にしてくれる人なんていねーよ。それに今は毎日毎日京都だし…』

『そうなの?観に行ってもいい?』

▤▤▤▤▤

それから、何度か観に来てくれて。

何度目かに告白…して。


夢ばっか話してたな。
これからの。

おれはもう…辞めようと思ってたし。


そんな時


きみが『海に行こう?』って誘ったんだ。



『見て!砂がさらさら!』


まだ夏には早い7月。


砂浜には誰もいなくて。



流木の欠片で絵を描いて。


『すごい!上手いのね!』

ってきみが誉めるから舞い上がって。


真っ暗になるまで話してた。



『智くんの背中…すき』


なりゆきでそうなった、朝。


先に起きてたきみが、背を向けて寝てたおれの背中にぴたりとくっついて。
小さく呟いた声。



『ずっと一緒にいような』


『うん』

『生まれ変わっても』

『うん』



あんな儚い約束。


きみは覚えてる?



おれは…悔やんでるよ。



もっともっと、きみのこと抱き締めていればよかった。


今さらこんなこと思い出して泣くくらいなら、もっと一緒にいればよかった。


▤▤▤▤▤



『大丈夫?智くん』


『あ、あぁ。おぅ。ちょっと、ビックリして』

『だろうね。でさ、告別式…なんだけど…来られないよな?』

『うん…明日も仕事で…』

『わかってるよ、大丈夫。とりあえず知らせておいたほうが、いいだろうと思って。』

『ありがと』

『仕事、頑張れよ。いつも応援してる』

『うん。あ、今度さ、飲みに行こうぜ』

『そうだな!智くんがいいなら、連絡待ってるよ。』



▤▤▤▤▤


あれからおれは
デビューが決まって。
慌ただしい日々のなかで。
きみと段々会えなくなってく時間を追いもしないで。

きみと話した素朴な夢はひとつも叶えられてない。

ねぇ、きみの話してた夢は
ひとつは叶った?


叶っていたことを…
願ってるよ。

そんで…
もし生まれ変わって
おれと出逢ったら。
また恋してくれるか?
今度は…
中学で。
な。

END

※京都時代にこのような暇はあったのでしょうか??笑

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