先輩が老害に変わるとき

ある酒場であった経験から学びがあった。
そんな事はよくある話なんだけど、あんまり「学び」とか「気付き」とか言ってると意識高いっぽくてしゃらくせえ感じなんだけど、まぁそういう話である。

その日は深夜一時を過ぎた頃、行きつけのあるDJブースのあるバーに、自分の出演する別のイベントを終えて、一杯やりに戻った時のことだった。
そのお店はお客さんが居なくなるまで営業してくれるという大変やさしい店だが、たまたま俺が店に到着した時、店のマスターの先輩が来店していて、カウンターにいた。

その先輩というのは、ダンサー界では名のある人だそうだが、俺は直接御活躍をしているところを見たことがないので詳しい事は知らないが、本人やマスターの口から聞くに、相当の「伝説」を持っている先輩のようで、自分もたまにお店で同席する時には年齢も10くらい上であることもあって、当然ながら敬意を払って接するようにしていた。
よく若い女連れで来ているのが印象的で酔っ払うと色々ダメ出しをしてくる、くらいな印象だった。

後輩の店だけに居心地がいいのだろう。たまに深夜の深い時間にやってきては明け方近くまでいる事があった。
その日は店でかかっている音楽についてマスターに説教するような形の話になった。
このお店は平日にDJブースを自由に使わせてくれるありがたい店で、俺もよくお邪魔してDJをやらせてもらっているんだが、

先輩曰く

「ここは初心者にDJブースを任せてるのはダメだ。初心者は自分のかけたい音楽しかかけない。いい店はイケてる音楽がかかってる。音楽のよさで酒の売り上げは左右される。だから普段ブースに入れるDJにも気を使え。」

という話で、まぁ確かにそれは納得できる部分もある話である。

しかし、地域、地元との密着性の高いこのお店では、地元の初心者のDJが練習できる環境を提供する事が良い点にもなっているので、俺はその方針については何も言わなかった。

「イケてる店ってのは、ちゃんとDJにも金を払って雇ってるわけだ。だからこの店は地元にしか拡がらないんだ。イケてる音楽がかかればいろんな場所から人が集まってくる。」

それもまぁ店の方針っちゃ方針の問題なので、あまり口出しする事ではないような気もしたが次にこんな事を言っていた。

「売れっ子のDJは自分のかけたい曲なんてかけない。みんなが好きな曲を感じ取ってかけるものだ。俺の先輩のDJ達もみんなそうだ。それが売れてるDJなんだ。」

と、何かDJ論めいた話になってきた。

まぁ確かにそれはそうだ。
フロアで求められてる者を察知して、自分の持っている引き出しから出していく、というのは大事だし、自分の趣味丸出しで選曲するDJがしょうもないのは俺も知っているし、そういうDJも何人も見てきた。黙って聞いていると

「ここで飲んでると日本語の曲とかかかるだろ?あれ寒いからやめろ。絶対俺はこの店は音楽目当てで来ることないから。」

とだんだんおかしな感じになって来た。日本語曲と店に対するディスがはじまった。

「日本語がダサい」と思うのは完全に個人の好みの話になっている。

だんだんこの辺から話に付き合うのがダルくなり、自分はDJブースに入ることにした。
ちなみにその時にはブースにはDJはおらず、R&BかなんかのMIX CDがかかっていた。

先輩がトイレに行ってる間にマスターが俺に耳打ちした。
「よくこのプレッシャーでDJに入れるね・・・」
しかし、別にプレッシャーでもなんでもなく、俺はこの先輩の好みは知っていた。
好みを知っていて自分のライブラリーにそういう楽曲があれば何も怖いことなどない。

90年代のウェストコーストヒップホップだ。Dr.DreとかSNOOPとか。
なので、まぁその辺を適当にかけはじめた。
分かりやすく上機嫌になる先輩。ブースに何度もハイタッチをしにくる。
ダンサーだけあって、キレのあるダンスで踊り始めた。
非常に楽しそうでだんだん調子が上がってきたのか、アップテンポな曲を要求してきたので、90年代のダンスミュージックを中心に選んでいく。
カウンターの前に呼ばれてさっき言った話をまた聞かされた。

「初心者の趣味DJは自分のかけたい曲しかかけない。こういう事だ。お前はいいDJだな。」
と持ち上げられた。

「そりゃあなたの好みは知ってるし、あなたの年代を考えたらこういう選曲しとけば間違いないでしょ。」

と思ったけれどもそこは黙って「ありがとうございます。」とだけ言っておいた、そのうちに曲が終わってしまった。

曲が終わってしまったのでブースに戻って「じゃ、ハウスとかもかけていいすか?」と一声かけて適当にハウスをかけたら、またカウンター前に呼び出しを喰らった。

「いや、分かるよ。若い奴はすぐアップテンポにしたがるんだ、ここはファンクとかかけてゆっくりのらせるべきだ。まぁこれはおじさんの意見だけどな。」といきなり説教モード。

これは俺も納得で、自分で思ったよりもテンポの速いハウスをかけてしまったので、その通りだな、と思い「勉強になります」と答えておいた。
しかし、こういう説教じみた会話に参加するのが面倒なのでブースに入ったんだけど、これじゃ本末転倒だな、と思った。

とはいえ、かける音楽をここまで真剣に聞いてくれるって事はありがたい事なのだとも思っていたのも事実である。

しばらくはマスターと先輩と俺の三人しか店にいなかったのだが、そのうちに、また女性の来客があった。

この女性も店の常連で、レゲエが好きであることはこちらも承知していた。
レゲエでも90年代後半から2000年代前半の特にジャパニーズレゲエが好きなのである。

「ああ、こういうタイミングか。」と思い、90年代のUKレゲエを何曲か挟んで日本語楽曲にシフトするとその女性は大喜び。それに反して、先輩の顔が一気にくもる。「日本語ないっしょ!ダメっしょ!」みたいな事を言ってきた。

え、さっき「DJは自分の好きな曲をかけるんじゃなくて、お客さんの好みに合わせてかけるもんだ」って言ってたでしょ。

それが対象が自分じゃなくなった瞬間に・・・!

別に俺も日本語のレゲエをかけたいわけではないが、今来たお客さんのために方針を変えたのだ。好きな曲を感じ取ってプレイしているのだ。

「いや、あの女性が日本語レゲエ好きなもんで。」

というと、何か言いたげな顔をしてブースから離れた。
その後、先輩はその女性客に「この曲とかアリなの?意味わかんないんだけど。」みたいな感じで、ちょっとうざい感じで絡みはじめたのが分かる。

「なんか面倒くさい感じになってきたな。」と思い、俺も気を遣って彼女も知っているし、先輩も知っているだろう90年代の洋楽レゲエヒット曲の方向に選曲をシフトした。

マスターがやってきて
「もう先輩に合わせる必要ないよ…」と耳打ち。
要するにこれは「もう帰らせよう」というサインだ。

合点承知。
と、ここから自分のペースでまくし立てて、DA PUMPのUSAのFUNKOT REMIXまで持ち込んだ。

https://www.youtube.com/watch?v=pdJEyweDlOc

その先輩はDA PUMPと過去に仕事をしていた経緯もあり、ちょうどそんなような話をしていたところだったのだ。

先輩の中ではこういう認識になっていたかもしれない。
日本語曲=ダサい
DA PUMP=仕事したことがあるし面識もある
U.S.A=もちろん知ってるがかかると予想すらしていない
FUNKOT REMIX=ワケがわからない。早すぎる。
女性客=盛り上がっている
マスター=盛り上がっている

多分、自分の好みと周りの状況が複雑になり、情報量過多で意味が分からなくなったのかと思う。

ブースに再びやってきて「お前、調子に乗りすぎだ。”俺”がいるんだぞ」と言ってきた。

「俺がいるんだぞ。」って凄い発言だ。

そんなことは知らんがな。

まるで先輩を中心に地球が廻っているとでも思っているんだろうか?

そこで自分はやっと言い返すことにした。

「先輩、欲しがりすぎなんですよ。この選曲は今、彼女が喜んでますよね?だからかけてるんですよ。あと、別に俺、お金もらってないんで!」(笑顔で)

俺は先輩の好みの選曲をやれと思えばできる。でも、お店という様々な人がいる空間の中で、あなたが他のお客さんの好みや自分が好きでないジャンルに対して排他的な態度を取っていいのか、という話とは別問題だ。

この瞬間、先輩が老害に変わったのを感じた。

俺はさっき先輩が言ったとおり、来たお客さんの好みに合わせてDJをしただけなのだ。それは俺がお店に来た人に平等におもてなしをするべきと考えているからだ。先輩を楽します時間はさっきたっぷりと作ったはずだった。

先輩は何か言いたげな不機嫌そうな顔になってトイレに行き、そのまま帰っていった。
だんだん先輩への対応が面倒になっていたマスターや女性客からは感謝され、その後に来店した男性客が日本語ラップが好きだという事で、その辺を中心にプレイして楽しい感じで朝を迎えることができた。

この一件で学んだことは、おじさんになって自分より若い世代の感覚や好みに共感できなくても、理解や尊重が出来なくなったら、いくら真っ当そうなことを言っていても嫌われてしまう、というのを身を持って教えてくれたということだ。あと「欲しがりすぎ」はダメよ!ってこと。

と、いうワケで俺も気をつけよーっと。

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