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2019.3.15「 L 」ライブレポート by 岡嶋夏子

(manent初の自主企画「 L 」のライブレポートの二本目です。今回の執筆者は岡嶋夏子さんです。滅多にライブに足を運ばない方の視点で、3月15日を総括したレポートになっていますので、読んでみてください!)

 ライブハウスに来たのは今回で三度目になる。ライブレポートを書かないかと誘われた時、嬉しさ反面、ほんとうに私で大丈夫か、と尋ねたがったがけっきょく聞けなかった。
「思ったこと、感じたことを書いて欲しい」
 今回の企画主催者であるmanentベースの藤井くんが言った言葉だ。きっと私ほどライブや音楽を知らない人間も少ないだろう。だから、ライブを聴いて楽しんだ後のまとめとしてライブレポートを書くことにする。

 ライブハウスは地下にあり、ドリンクをオーダーする横に角煮などの食べ物を販売している机が置かれていた。後で食べようと思い、けっきょく食べないまま帰ってしまった。後で聞いた話だがかなり大盛況の角煮だったらしい。惜しいことをした。せめて味玉子くらい食べて帰ればよかったと心の底から後悔している。
 ドリンクは二回オーダーできるので、最初はシークワーサーの果実酒を頼んだ。ほどよく甘くてアルコールを感じない味だった。ライブを観に来たお客らしき人たちは、皆おしゃれだった。ジーンズではなくスカートを履いてもよかったかもしれない。緊張を紛らわせるために、私はまた果実酒を飲んだ。

 白い幕が静かに上がる。舞台には人が立っていた。
 当たり前のことだが、私にとっては驚きだ。舞台にはギターを背負ったボーカリストらしき男性が立っていた。場の熱が頭の中に流れ込み、耳が熱くなった。地響きがする。一つしかない防音扉を閉め切って、暗闇のなか私たちは立ち、演奏を聴いた。

 不思議な空間だ。スポットライトだけが明るくて、それが曲を余計に切なくさせることもあれば、明るく前向きな気持ちにもさせてくれる。体の中にある感情が溢れだしそうだ。私の頭では情報量が多すぎて処理しきれなくなってきていた。ぐるぐると視界が回る。ちゃんと立っていられない。きっとシークワーサーの果実酒のせいだ。喉が渇いていたのと、あまり来ない場所だったこともあり緊張と興奮から酒を煽ってしまった。
 やがて悪酔いしてしまい、立っていられなくなったので、しゃがみ込んだ。すると周りの音が小さくはなったが、相変わらず足元から来る振動は変わらない。スポットライトの青い光が見ている人の地面と足元を点滅させている。気持ち悪さはすぐに治った。海へ潜った時のようにすべての音が遠い。けれど目に入るものは鮮やかな色をつけ私の視界へと入ってきた。

 ライブ会場は島だ。
 manentの自主企画のタイトルは「 L 」だった。きっと私には想像もつかないような意味や願いが込められているのだろう。けれど一個人として感じたのは「島」というイメージだった。
 私は海が怖い。けれど南国には憧れている。熱い太陽の下には無人島のビーチにパラソルを立てる。そして夜にはキャンプファイヤーをしたい。想像するのは好きだ。でも実際にやりたいか、と言われたら私はきっと行けない。体験してしまったら私の知る形ではなくなってしまいそうで怖いのだ。
 一歩を踏み出すには勇気がいる。私の持つ「島」のイメージは危うさと高揚感をはらんでいる。今回のライブにも似たような印象を受けた。それぞれのバンドが歌い、私たちは聴く。渡す側と受け取る側の距離がとても近い。一歩まちがえれば危うい行為だ。けれども、ずっとこの空間に浸っていたくなる。体の筋肉はこわばっているのに、いつまでもスポットライトの下で歌っている姿を眺めていたくなる。

 受け取る情報量はとても多く、聴くたびに感情や色や考えが変化していく。好意を寄せている人、遠い街、一人だけの世界、イメージが頭のなかから溢れた。夕暮れに路地の奥を抜ければ、知らない街に着いたり、友人とも恋人とも言い難い者と行き当たりばったりの旅に行くような、高揚感と不安感に胸を覆われる。ライブは知らない場所へと私を誘っていく。ギターを弾きながら歌う者たちから紡がれる言葉には重みがあった。
 歌詞を聞いた人々の数だけ、歌の後にたどり着く場所は異なるだろう。知らない街へ行く者もいれば、自身の部屋へ戻る者だっているはずだ。自由、という言葉は難しい。どうやって行くか、道が定まっていなければ、人はただ漂いどこへも行けない生き物だ。歌というのは聞く側に地図を与えてくれるものなのかもしれない。
 私は歌詞から自分と重なるものを探してしまう。同じだ、と思うことはどんなことであれ、大変おこがましいことだとわかってはいるけれど、誰かと共感したい、という欲求は自分の中にずっとある。水の中をひたすら底へと潜って行いくように、感情の赴くまま歌と自身の立ち位置を探していく。ライブには聞いている歌詞やライト、全てが聞いている者の記憶へと共鳴していく作用があるのかもしれない。歌の中の言葉を聞き、私は歌う者たちとは別の場所で、自信の経験を追体験しているのだ。

 ライブは「島」だ。自分が行きたい場所の地図を見せてもらうことができた。人と人がぶつかるような衝撃と高揚感と寂しさがないまぜになったような不思議な場所だ。無人島にパラソルを持って日光浴をする日はきっと来ないけれど、私はまた、どこか知らないライブハウスへ足を向けたいと思う。
 余談だが二回目のドリンク券で私は梅昆布茶を頼んだ。これからはライブ時にアルコール摂取をしないよう気をつけることにしようと思った。


writer……岡嶋夏子(Twitter @natsukokajima)



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