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about 2019.3.15〜3.16

※各バンドの音源に飛べるようにリンクを埋め込みました。ぜひご覧ください!

 manentのt(ツイッターのtかもしれない)と字間の余白を担当しています。ベースの藤井です。

 徒然なるままに由無しごとを書くのが好きなのですが、思うところがあって、今回、初めてnoteへ記事をあげてみることにしました。

 皆さんの記憶にあるのかどうかはわかりませんが、今回の企画に際しての企画として、「 L 」のライブレポートというものがあり、友人3名にライターを頼みました。
 その手前、企画した自分が何も書かないのはおかしいよな、という思いもあり、筆を執りました。

 勿論テーマは、3/15「 L 」at 大塚ハーツのことを、鮮明に書き出してみようと思って始めたものです。が、想定していたより異様に長文になってしまいました。ツイッターで5000字と言ったのですが、12000字になっていました。自分が書いてきた短編の平均的な分量を優に超えている……。
 それくらい大事な思い出になったので、誰もtに興味がないことはわかっているのですが、残したくなりました。時系列は常に前後する、エゴに過ぎない、内輪な話も含まれる、そんな文章ですが、もしよろしければご一読ください。


 
 朝、大塚ペンタにてリハーサル。
 その後やけに安い定食屋にいき、それから大塚ハーツにイン。

 高畠が要望表に過去最多の9曲分書かないといけない、ということもあり取置きを書く役割を引き受けた。しばらくバンドのLINEにある取置きを用紙へと書き出す作業に追われる。これがなかなか終わらなくて困った。
「あ……い……う……え……え、いねえな、お……ぬ!? ぬ、は、いないだろう……」みたいな独り言をつぶやきながら画面をスクロールし、書き写していく。BGMは電気グルーヴ。この作業はリハーサルを挟み、その後も続いた。おそらく計45分くらいはかかってしまった。60人ちょっといたから仕方がない。そしてそのうち10人強は用事ができたのだろう、来なかった。
 この時、『取置きの名前の順番は、初めからあいうえお順に残しておくべし』と脳内の師範が絶叫した。今更だ、と笑ってくれて構わない。
 のちに、取り置きリストに書いてない人が来ているのに気づき、ハーツの田中さんの提案通り、取置き無しでも値段を同額にして正解だったと思った。ありがとうございました。

 取置き表を書いている途中で、友人が「今ライブハウスの前にいるから外出てきて」と電話してきて、階段を登り外に出ると差し入れにモンスターを三本、フードを出している宮田食堂にストロングゼロ、そして果汁グミのグレープを持ってきた。彼は音楽学科の生徒なのだが、教授にコンサート顔出さんと来年わかってんだろうな? という恐喝を受け(大変誇張した表現)急遽そちらに向かわなければならずライブに来れなくなった、と言うためにわざわざ来てくれた。最初なぜかチケット代を払おうとし(もちろん受け取らなかった)、物販を買った最初のお客様になってくれた上、なぜか500円多めにくれた。友人よ、その五百円はお酒好きなのにドリンクチケットを落としたヒッピー野郎に渡した。これで酒を飲めるって喜んでいた。これでよかったのかどうかはわからない。

 kasa.の皆さんが到着され挨拶した。オーラがあって話しかけづらかった。ほとんど会話せずに終わってしまった。
 向こう側もリハに間に合い、リハで聴こえてくる激しい低音に興奮して、絶対新曲だ! とフロアに行って聴いた。僕はただのファンである。
 シャトンの面々も到着した、しかしサポートの方が来られないこと、佐藤さんが風邪で発熱していることも聞きかなり心配した。

 どのバンドのリハもロビーから聞くと爆音で、特にベースが激しく聴こえ、最高だ/お客さん大丈夫かな? と思ったが、本番は全く、微塵も爆音じゃなかった気がする。僕はライブハウスに普段まったく来ない人にもだいぶ声をかけたので、結果オーライだった。が、終演後、僕たちに関していえばファズで音がでかくなり過ぎという意見はそこそこ頂いている。すこし申し訳なかった。

 宮田食堂はというと、インの時間になっても来ないな、と思っていたら諸々のメニューを入れたカバンが移動中に壊れてしまったため、急遽バイト先からケースなどを借りて担いで持って来るとのことだった。対応があまりに柔軟でたくましい。技術や思想より人間性に「信じる」という気持ちは宿る。これは僕だけかもしれないが。「君となら間違いない」「信じられる」「信じたい」という思いはテクニックや思想に勝る。

 実のところ今回の企画は呼ぶバンドで相当話が進まなかった。僕は30バンドほど候補を出したが、そこで話が止まった。このバンドのラインナップをここに載せたいくらいだ。
 そんな中、今回の「 L 」に呼ぶことになった3組は、一様に「君となら間違いない」という縁によって揃ったな、と思う。そして、これはただの偶然だが、このリストに3組連続してメモされていた。「目に見えないエネルギーの流れ」はあるのだろう。

 今年1/8に渋谷LUSHで向こう側の企画に呼んでもらい出演した。その時点で自主企画のメンツはただのひとバンドも決まっていなかった。
 ただ、1年以上前初めて会った時から、正確にはシライさんのベースフレーズが三音くらい鳴ったときには、ルーツのバンドが同じであろうこと、そしてこの音楽は良いに違いない、ということを全身で聴きとっていた。だから呼びたいと思っていた。
 1/7、3回目の対バン、鳴らされたのは初めて観た時より格段に深い方向へ潜りながら、且つ光の届く場所へと拓けた楽曲たちだった。「いいよ」(「L」では2曲目だった)という新曲と、最後の「明かりを灯せば」のもつ光と、その他の沈み込んで抜け出せなくなるような楽曲を体感し、企画に呼ぶ決心がついた。その日のうちに声をかけたがナカさんは滅茶滅茶に酔っ払っていた。多分あの日彼らが感じたであろう幸せを、「 L 」の最中に僕らも感じたのだと思う。

 kasa.との出会いは渋谷club crawlで、彼らのリリースツアーにブッキングされトップバッターで出た。その日何故か僕は発熱しており、ドラムも体調不良でライブ後に割とすぐ帰ってしまい、高畠しか目撃していないがそのステージが凄まじかったようで、その後しきりにkasa.の話をしていた。しかも音源だけじゃ伝わらないと言われたので何がすごいのかわからないがすごいんだな、楽しみだな、という気持ちで本番に臨んだ。

 シャトンのことはこのブログを読むような人にわざわざ説明するまでもない気がするが、昨年、我々としては身に余る光栄であるRO JACKに入賞した時、同じ7月の入賞アーティストとしてChaton on the Note(綴りを覚えましょう、みなさん)がいた。嫌な顔をしないでほしいが、本当に最初聴いたときは、初期インディゴだ、と思った。歌詞にまでその影響を感じたので、これを初めて対バンした日に素直に伝えたが、今思うと失礼だったのでここで謝らせてください。(当時、そうか、ガリレオガリレイの焼き増しとインディゴの焼き増しが受賞するのか、とまで思っていた。前者は我々の曲のことである。だが本当のところ、ただの焼き増しではないから僕たちはこうやって共闘していられるんだろう。受賞した曲も、受賞したこと自体も、一つの側面に過ぎない。ただそこしか見られないのもまた必定である。)

 下北沢近松にて、奇跡のブッキングでシャトンと(ついでに言うと僕ら以外に今回のRO JACK優勝バンドまでブッキングされていたのだが)そこで初めて出会った。対バン、なのでやっぱり斜に構えてみてしまったところはあった。その後、ノクターン、プールと銃口、シャトンのスリーマンを新宿で観たとき、あまりにこの3バンドが良過ぎて、ここに並んでmanentがやったとしても勝てやしないんじゃないか、と思った。あまりの衝撃に心は透き通ったようになり、拳を強く握り、感動していた。悔しかった。この日はお客さんに向こう側のオザワさん、ナカさん、宮田食堂の駿ちゃんもいた。みなさんに企画よろしくお願いします、と改めて挨拶した。
 シャトンはこの日かなりロングセットだったのでたくさんの曲をやっていて、レパートリーの多さとアレンジの引出しの多さ、様々なメロディラインを聴き、全くもってインディゴだけじゃない、もっといろいろなものが見えてくる、と思った。(youtubeでこの日の映像は見られます、チェックして下さい)たしか、雨の公園のメロディが変わったのがこの日だったような気がしている。そしてこの日から? 鍵盤とコーラスの女性がいて、楽曲のための盤石の態勢が整っており、僕たちは太刀打ちできるのか? と恐ろしい気持ちになった。
 書こうと思えばこの後のお客さんとして観に行ったyulavie企画、そして二月にライブホリックで対バンしたときの話も書けるが、長くなってきたので割愛する。

 3/15に話を戻す。

 取置きを書いてから物販を軽くセッティングし、顔合わせをしてからまた置き方を調節した。他にも何かやっていた気がするが、思い出せない。
 途中、シャトンの石丸さんのベースのネックが不調で僕のベースを貸してみたら、ネックの状態がほとんど大差なかった、という出来事があった。お互いメンテナンスに出さないと…。と苦笑いを交わした。

 メンバーとも何か話した気はするが、普通の会話の方が多かったのか内容は全く思い出せない。田中さんには長時間絡んであれこれ話しかけまくってしまい申し訳無かったな、と、思っています、ごめんなさい。それくらいテンションが変だった。

 18時、開場し、宮田食堂がとにかく美味しそうで食べるか迷いつつ、色々な人が最初から来てくれていることに驚きながら、シャトンを多くの人に観てもらえることが嬉しかった。ロビーにはすでに宮田食堂のメニューのにおいがひろがる。そんな中お品書きを書いてくれと駿ちゃんに頼まれたので書いた。

 ……そろそろ本番の話をしたほうがいいかもしれない。

 ちなみに開場後のBGMは全て高畠選曲でした。彼から貰った音源からもたくさん流れていて懐かしくなった。あとで一覧を出して欲しい。

1. Chaton on the Note

 さて、本番。トップバッター。
 「夏の恋人」とか「雨の公園」で始まると思っていたら、まさかの「lamp」始まり。2月にライブホリックで対バンしたとき最後にやっていて、光の爆発みたいな音が鳴っていた曲だ。サビのメロディラインにシガーロス(まったく詳しくないが)を感じたのを思い出した。エンドロール向けの楽曲を1曲目から披露した。
 演者内で口々に言われることになる「今日全バンドトリだったね」のきっかけを作ったのは間違いなくシャトンだった。
 2曲目、ベースに全編エンベロープフィルターというかワウ?が掛けっぱなしのシティポップ寄りの新曲「頼りない手」。もちろん新曲なので初めて聴いたが、曲調が、とかではなく音が想起させる光景が暗いけど心地よく躍らせる。まあシティポップよりだからそうなんだけど、ひと筋縄ではいかないアレンジは相変わらず。サポートの人のコーラスとキーボードが入ったら更にメロウになっていただろうと思う。
 3曲目「壊れた路地裏」。照明が可愛い、カラフルなのが拍子がセクションごとに切り替わるところに合わせてあって、ポップで少し狂っていた。この曲だけでもいかにこのバンドがアレンジに長けているのかを感じる。少なくともmanentには変拍子や奇数拍子はできない。というか、そもそも生まれてこない。
 そのあとMC、ギター2人とも4カポにしているな……というところからなんとなく察していたが「カバーをやります」とのMC後、manentの「soda girl」をカバー! 実はカバーをやってくれることは以前仄めかされていた。ここ最近ライブのセトリを考えているのだが、自分たちの曲でどう対バンを圧倒できるかを優先してしまうので、主催バンドのカバーをしよう、そしてライブで披露しよう、という風には考えたことがなかった。カバーされて相手が喜ばないわけはないし、バンドとしてもカバーすることには学びが多い。なんて健やかな心を持っているんだ……と感じ入ってしまった。
 シャトン版soda girlを前にして、僕はというと、シャトンのツイッターの動画を見たら分かるのだが、気持ち悪い小躍りをしてずっと縦に跳ねていた。嬉しすぎて。ドラミングの一発目から違うし(THE NOVEMBERSの「ewe」がオマージュ元だと教えてくれた)ギターはNUMBER GIRL「透明少女」のオマージュが入っていた。疾走感に振り切った演奏。manentではsoda girlを、車で海沿いをドライブするようなテンポ感で演奏したいという話はスタジオでよく出ていた。対してシャトンはドライブというよりも法定速度を少し越えて何かを追いかけるオープンカー、という感じだった。スーパーカーではない。元々誰もスーパーカーではないのだから当たり前だ。他には、ネツさんがリードギターで単音のフレーズを、音源と別の箇所で弾いていたのがすごくはまっていてかっこよかった。改めて、本当にありがとうございました。笑みが抑えきれませんでした。


 みっくんが「こんなん無理だわ、原曲超えたわ」と言っていたので、「超えるんだよ」と返した。主語を省いたからなのか本当に伝わらなかったのか、soda girlの動画を載せた彼のツイートには書かれていなかったので追記しておく。


 そのあと、新曲2つ目。(タイトル長すぎる。とある場所の座標らしいのだが、コピペして検索しても該当しませんでしたと言われてしまい、結局どこなのだろう…と考えている )MCで今日のために2曲作ったと言っていて、多作っぷりが恐ろしいなあと思った。そしてこの曲には心底ヒヤッとさせられた。僕が今まで感性だけで作ってきたベースラインを噛み砕いて、よりスマートに演奏されているような感じがしたからだ。比較的ダウナーで、ゆっくり深い底へ向かっていくようなアレンジ。雨が降り注ぎ、最後に遠くから大きな光が瞬くタイプの曲や、霧が深い暗がりのような曲はあったが、今日の二曲は夜の海のようだった。「頼りない手」は海沿い、こちらは海に沈んでいくけれど沈み切らずたゆたっているような曲だった。
 開演前にハーツの田中さんと話していたら「マナンには朝焼けが合う」とmanentのことを表現してくれたが、その前に夜の海を用意してくれたのだとしたら、不思議な流れだ、と鳥肌が立った。とにかくこの曲が恐ろしく良くて、頭がおかしくなりそうだった。佐藤さんの機材が不調になったが、その状況に応じて楽器隊が何周も間奏をループする。意思を持ったなにかが海に沈んで揺蕩う様子を想起させる。もう一周、と、人差し指を立てて回す佐藤さんとそれに答える楽器隊、そのやりとりだけで少し涙が出た。ギターから音が出るようになり、ポエトリーリーディングが入り、轟音。この曲の完全版をできれば聴きたくない、負けたと思いそうだからだ。
 そしてラスト、僕が一番好きな楽曲「subside」が鳴った。その瞬間に泣くのを堪えた。やるのはわかっていたが忘れており、不意を突かれた。「今日を生きてるつもりで死んでないだけさ 今日も終わりを待ってる 息を潜めてさ」という歌詞がある。僕はこの歌詞の通りの人間であり、曲の良さと相待って胸をかき乱される。かなしくなる。(いつか、ここから先、どうしたらいいのか、最後に一筋光を見せてくれる曲も聴きたいと思っている)1番くらいまでは歌詞を耳コピしていたので歌っていた。けれど1番好きなフレーズのところでまた我慢できなくなって、とうとう泣いた。この曲はメインのリードギターのリフと、「通り過ぎる」という歌詞を囁くように切って歌うところ、そしてラストのギター二本が轟音でユニゾンする部分(表現がただしいのかはわからない)が特に好きだ。この曲をやると佐藤さんは記憶を飛ばしてしまうらしい。この曲には全霊が込められているのだ。

 シャトンの楽曲は、或る場があって、そこに雨や霧などの自然の水分、湿度が濃さ薄さのグラデーションを変えながら存在している曲と、ポップス寄りの曲はその場所の地面が乾いていたり湿ったりする、というイメージがある。今回のライブで光の音がほとんどない楽曲まで作れると知ってしまった。シャトンはすごく真摯に、ストイックに活動をしているから、どこまでも行ってしまうだろうな、と思っている。また会いましょう。

2.kasa.

 ツイッターやnoteを見ればわかるが、高畠が敬愛しているバンドだ。幕が上がった瞬間、ステージに火の灯ったキャンドルが複数本あるのが目に入り、まずい、と思い慌てて自分たちの物販に設置していた小さいキャンドルを消した。
 kasa.は全国トップを取ったバンドで複数のフェス出演が決まっている。ひとつの基準の下では、僕たちより遥か前を行く存在。彼らのライブは、ステージで、ひとつの作品だった。
 曲ひとつひとつ、というよりは35分のステージだった。メンバー3人の白い佇まい。時にノイジーにギターフレーズを弾くこともあったが、総じてすごく静かだった。第四の壁、というのか、隔てた向こうで流れていく熱量のある静けさを、お客さんも全員固唾を飲んで見守っていた。
 3曲目が終わったあと諸用で最前からフロアを出て戻った。そのとき、微動だにしない沢山のお客さん一人一人も、総じてkasa.の用意した登場人物のように思えて恐ろしかった。そこからMVのあるリードトラック「夢現」、そしてmanentに捧げる、と告げて「ラブレター」が鳴った。

 先ほど全体でひとつのステージ、とは言ったが、ギターボーカルrui ogawaさんが一曲一曲を始める前にその曲について前説のようなポエトリーが挟んでいたのが印象的だった。manentは楽曲の解説をしてから演奏しない。ましてやタイトルすら言わない、MCをしない時もあった。人に音楽を伝えるために、他のバンドには見られない丁寧な導入を行ってから曲を鳴らす、その態度こそ舞台、ステージだと感じさせる所以でもあり、伝えることへの真摯さでもあった。
 リズム隊のお二人からは演奏することに対してのストイックさを強く感じた。技術の高さと、ステージを立てるための立ち居振る舞い。そして、真ん中から声とギターとメッセージが届けられる。終わった後の孤独を歌いながらも、誰も置いていかないようにする優しさがあったと感じた。だからこのバンドは強く美しく、多くの人に聴かれるのか、と思った。
 初めてライブを見たのもあって、楽曲以上それ自体以上に、音楽の説得力を支えるために磨き抜かれたそれ以外の表現に目が行ってしまった。強いオーラを持った素敵なバンドだった。

 kasa.の音楽はやはり人間が色濃く出ている。あの透明な壁の向こうから、あの白いステージから、kasa.はそこらじゅうにある孤独を救い上げようとしてくれているのだと思った。きっと彼らも、このまま遥か高みに昇っていってしまうだろう。僕らがまた会うときがあったら、僕らも表現を突き詰めて、認めてもらえるような演奏をしたい、と思った。

 (余談だが、たしかこの時間には宮田食堂名物角煮が売り切れていた。どれだけうまいんだろう。)

3.向こう側

僕がどれだけ向こう側を好きかはもう書いてきたから伝わっているだろう。そしてどの曲もベースが完璧なことはツイッターにも書いた。だから言及は最小限に抑える。
 一曲目は「インソムニア」。静かなまま、ひっそりと展開していく曲。途中ダイナミックに音が大きくなるところもあるが、最後にまた静かになる。余計なことを気にしたらこういう展開の曲はやらないだろう。1曲目から、向こう側は向こう側のライブをすると暗に宣誓している、と思った。ナカさんがハンドマイクで歌う曲なので、動き回りジェスチャーを交えながら歌っていた。美声がまず、彼らの一番の武器だ。そういえばリハーサルの時にステージの広さを喜んでいたな、というのを思い出し、すぐさまちゃんと活かしていることに驚いた。
 2曲目は、本編最後かその前だと思っていた「いいよ」という曲が演奏された。自主企画のときに曲の成り立ちを聴いていたこともあって、強く印象に残っていた。すごくポップな方向にアレンジされている曲で、ダウナーだと表現されがちな彼らの中では異質かもしれない。(が、そもそも僕はダウナーだという印象はあまりなかった。暗がりでぼんやり光はともり続けている、という曲の方が多い。シンセやドラムパッドの音が煌びやかさを持っているからだ)この曲のおかげでお客さんは比較的彼らの世界へ入りやすくなったのではないか。
 そして3曲目は新曲。「無題」というタイトルだと言っていた。ナカさんがボーカルにがっつりエフェクターを掛け、シンセを弾く。この曲はリハの時思わずフロアに駆け込んで聴いた曲。ノリズム隊の作るビートに踊らされ、シンセの波で頭がおかしくなった。トリップ系のドラムンベースのような楽曲。他の曲にない激しさ、凶暴性が表出していた。(ここまで書くのにかなり日数をかけてしまい、セットリストが曖昧になってきてしまった。合ってますかね、向こう側の皆さん)
 4曲目が「消えないように」だったと思う。RO JACKの予選はこの曲で通過しているが、当然余裕で予選くらいは通るレベルの曲だ。(検索したら出てくるからそこから聞くこう)ベースのリフが凄いからである。向こう側というバンドの代名詞ともいえる楽曲だと思う。暗いなかに小さな光が点々と灯ってはいるが、ぼやけている。最後に転調するから明かりの方向へ進んでいく。
そして、本編最後が「明かりを灯せば」。心地よく眠れそうな鍵盤の音から始まる。繊細な音から、サビに入るとグッとその安らぎをこじ開けて広いところへ出ていく。独特のタメが何度もあり、バンドのグルーヴを極限まで高めて鳴らされていることがわかる。静と動のバランスの良さはどの曲も持っているが、ひときわ動の力が強く祈るより願う音になっていた。このとき、ここに来るまで何度か思ったが「本当にこの後自分たちが演奏するのか? 必要ありますか?」という気持ちにさせられた。自主企画を準備した自分と演奏する自分は離れていたので、もう目いっぱいの感動は頂いていたので実感がわかなかった。

 絶対的な歌唱、削ぎ落とされ完成されたベースのフレーズ、刻みの鮮やかさとダイナミックさを兼ね備えたドラムのフレーズ(と『This is 向井秀徳』のTシャツとドラミングしながらの楽しそうな笑顔)、キーボードとシンセの生み出す心地よく時に危うさを孕む波。これがオリジナルでなくて何だろうか。彼らを、僕らを観に来た人に半ば無理やり見せつけられたのが個人的に最高だった。

4.manent

 僕たちは、皆さんからみてどうでしたか?

 予定より時間がかなり押していて、本来なら22時までに音を止める約束だったので、アンコールやれるかどうかわからないな、と思いながらも、尚更本編でやり切るぞ、という気持ちで臨んだ。まずステージについた時点で愛用の柔らかいピックをどこかに忘れてきたと気づいたが、探すのも怖いので固めのピック(ひなっちモデル)で弾き切ると決めた。

 本編では、必要以上に力んだり脱力が上手くいきすぎて力がなくなってしまったり、激しくパフォーマンスしたつもりがシカワさんから後々いただいた映像でみると普段とほとんど変わらなかったり、ステージから思っていた2倍以上の人がいるのをみて驚いたり、ベースアンプから出る轟音に大してアアアと叫びかえしたり、した。
 スタジオでリハーサルしている時から「宇宙の中で手をふって」の4曲「soda girl」「予感」「水際の夢」「白い日」は一瞬で演奏が終わる感覚があった。「done/はなして」の二曲と体感時間はイコールくらいだ。本当に激しくパフォーマンスした(つもりだった)ので、そこまで色々なことは覚えていないが、高畠が歌い方で格好つけていて面白いなーと思ったところがいくつかあった。もう少し普通に歌って欲しかった。けれど、3バンドが用意してくれたプレッシャーと感動に飲み込まれていたのは僕も同じだった。「 L 」が作り出した大きな流れに呑まれながらも、普段より自分をコントロールできていることが嬉しく、成長できたかもしれないと思えた。

 実際観にきてくださったすべての人がどう感じてくれたのか、わからない。でも多分、僕たちが楽しそうに演奏しているようには見えたかな、と思う。

 本編6曲を終え、早々に控え室に戻った。すると田中さんがいて、「思う存分、悔いのないようにやってきていいよ」と言ってくれたので、それがまたグッときてしまった。それもあって人生初のアンコールだったのに拍手が盛り上がり始める前にはステージへ戻ってしまった。ライブ後色々な人に「戻ってくるのは早すぎ」と言われた。数えてみたら約35秒でステージに帰ってきていた。早すぎた。

「ここが最高です」

と、高畠は三回も同じことを言った。鈴木奈々になったのかと思った。

 そこからは、本編には入りきらなかったが、やっておきたかった2曲「おとしび」と「散弾が外れたら」、最後におそらく、みっくんが1番気持ちよく叩いてきたであろう曲をやった。とにかく演奏を気持ちよくできていたのだが、そのせいで普段しないミスをした。一番の失態は「散弾が外れたら」でルートを一音思いきりはずしたことと、四弦だけ半音下げるのだがラストの「赤と青」に入る前にノーマルに戻すのを忘れたことだ。なんとなくペグの方向は覚えていたのですぐに直せたが、少なくとも僕は他のメンバーに比べてまだまだだな、と思った。
 けれど、爽やかに最後の曲を駆け抜け、気づいたら、僕らの演奏はすべて、終わってしまっていた。アンコールまで終わって、
「この後物販やります、そこで」
と最後に高畠がMCしたのに謎の面白さがあって笑ってしまった。笑った僕の方が謎だ。

 終演後。ご来場のみなさんに(友人がほとんどだったが、ノクターンのお二人をはじめ、いくつかのバンドから観に来てくださった方にも)挨拶したりしながら、角煮以外のメニューも順調に売れているのをみて嬉しくなりながら、お話をしたり物販を売ったりした。
 この頃には、多幸感と疲労によってかなりふわふわとしてしまって、細かいことはほとんど覚えていない。みんなが、見た感じは楽しそうだからよかったな、と思っていた。挨拶しなければ、と思ってたくさんのお客さんと話したけれど正直話した内容は忘れてしまった。

 結構遅くまでお客さんが残っていて、宮田食堂のメニューを食べてくれた。そして最後のお客さんを見送り、乾杯をすることになった。
「後で同じことを言うんですけど」と前置きしてから、

「このライブハウスで、この4バンドで、この出演順で本当によかった。ここが最高でした。」

と、高畠が1回目の乾杯の前に言った。たしか複数回言った。鈴木奈々じゃないか? と思った。kasa.の面々が戻ってきてから2回目の乾杯をしたが、宣言通り同じことを言った。やっぱり鈴木奈々だと思った。

 僕は昼食以降ほとんど何も口にしていなかったので、乾杯のために頼んだお酒を飲み、それから僕がオーダーした「わさび菜の夢」を食べた。非常においしいサラダ、和え物だった。他のメニューに比べ「わさび菜の夢」の売れ行きが微妙なのは「わさび菜の夢」というメニュー名が悪いのでは、と友達に言われた。確かにそうかもしれない。「わさび菜の夢」は、間違いなくおいしかった。畳みかけるようにメニュー名を読みまくればハマると思うのだが……。

 打ち上げの時もぼーっとしてしまい、ゆっくりゆっくり物販を整理しているときには、他のバンドはみんな撤収を終えていた。あとから対バンの人もCDを買ってくれるので嬉しくなって、また多幸感に酔い、作業がより遅くなった。その怠惰すら心地よかった。気づいたらmanentの僕以外がどこかに消えていたりした、多分kasa.を見送っていたのだと思う。

 対バンした皆さんは、終電や翌日の予定のために帰っていった。もっと話したかった。どうやら大学の追いコンライブがあったり、翌日仕事だったり、何よりkasa.は三重から遥々いらっしゃったので、仕方がなかった。

 挨拶できなかった人や、友人たちからLINEで感想が送られてきたのを読んで、それに返信するだけで充たされたような気分になっていた。律儀に連絡してきてくれるのが嬉しかった。

 ライブハウスをクローズした後に残っていたのは宮田食堂の駿ちゃん、シャトンのベース石丸さん、マナン、ハーツの田中さんだった。流れで二次会は駿ちゃんの自宅にて開催されることとなった。結局朝、帰りの電車の中まで僕は眠らなかった。
 移動に使ったタクシーで酔った。後ろでみっくんと石丸さんが好きな女優は? と聞かれたとき、それは彼女にしたい女優なのか、顔が好きな女優なのかで答えが変わるよね、という話をしていた。最後はモーニング娘。の話になっていた。僕は車酔いをしていたのでほとんど黙っていた。車内からビルの合間を縫って時折現れる大きな月が、少し不気味な黄色に光っていた。

 宮田食堂の駿ちゃんの家についてからは、特に高畠と石丸さんと、わりと真剣な音楽の話をし、個人的には本当に楽しかった。田中さんにもうちょっとこうだったらよかった、というのも言ってもらえて良かった。実のところ車酔いが3時半くらいまで抜けず、話しているのが一番楽だった。だが眠りたい人を巻き込んで起こしていた可能性も感じていたので、もし眠りたかったならみんなに申し訳なかったな、と思っている。
 話の中で、宮田食堂をブッキングしたことが成功の鍵だった、とかここ数年でも良い日だったとか、とにかく「 L 」自体を褒めてもらい、本当に嬉しかった。manentの曲を褒めてもらったり、僕もシャトンを褒めたり、逆に今後のお互いのバンドの課題のようなことも話した。未来の話。そんな話をしながら明け方、目白駅に向かって石丸さんと二人で15分ほど歩いてから、山手線で逆方向に分かれた。さびしかった。

 軽い気持ちで引用したのだが、ほんとうに、谷川俊太郎作詞の「春に」の歌詞のような日になった。「見えないエネルギーの流れ」によって、言い得ぬ高揚感の中で「込みあげるこの気持ちはなんだろう」と思わされた。まだ春は来ていない。暗い時間や場所においては、まだまだ、耐えきれないほど冷える。けれど春の気配だけはすでに色濃くなってきている。

 3.15は、たくさんの人の前で僕たちが音楽をやっていることを証明した日になった。抱えきれないほどの幸福をくださって、ほんとうにありがとうございました。演奏で少しでも恩返しできていたら幸いです。

 よくわからないうちに20日になっていて、5日も過ぎたのか? と心が追いつきません。 時間とともに失われていく美しい、かけがえのない記憶。どんなに忘れたくなくても、書けば書くほど遠のいていく3.15。途中からは高揚感よりも喪失感の方が上回り、寂寥感やネガティブな郷愁の感が胸に詰まるようになっていました。

 manentは残る、という意味らしいですが、我々が鳴らした音やその姿が、音源という形でもライブという形でも、たまたま何かの縁で目撃したあなたの頭や心のどこかに留まり、残り続けたらいいな、と思っています。誰かの中に残っている限り、manentは終わらないはず。

 以上で、ライターでもなんでもない、メンバーでありながら最も身近なただのmanentファンである僕が、内側からみた「 L 」はこのような感じでした。身内の表現でしかないところもたくさんありますが、どうか大目に見てください。表現の拙いところや乱文などはお許しください、教えてください。

 manentのベース 藤井でした。


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