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[Side Story] 西暦2047年の夏③

■宇宙巡光艦ノースポール
[Side Story]
西暦2047年の夏③

みなさま、
はとばみなとです。

その日曜日、吹奏楽部の練習は午前中で終わりました。不動さんと遙奈さんは学校から駅へと向かう商店街を歩きました。

不動さんが気付きました。

「あれ、前歩いてるのって、」
「Saxの3兄弟だね。みんな楽器持ってるし。」
「3人揃って帰るところなのかな。」

ちなみに、サックスパートのパートリーダーは不動さん達と同じ3年生でアルトサックス担当の芝ゆかりさんです。3年生は芝さんが一人だけです。この芝さんの下に2年生の男子が3人いて、『Sax3兄弟』と呼ばれているのです。

もちろん、実際には兄弟などではなくて、3人で仲良くやっているのが微笑ましくて、『3兄弟』と呼ばれるようになったのです。

アルトサックスの熊川君、テナーサックスの梁川君、バリトンサックスの黒川君ですね。なお、この3兄弟の下には、今年の新入生も2人入っていますが、今はいないようです。

「あっ、お店に入った。」

前を歩いていた3兄弟が、ぞろぞろと左手の店に入っていきます。

「チャンプ、だね。2年の男の子達、良く来てるらしいよ。どうしようか、あたし達も食べてく?」
「渋谷に行ってからだとだいぶ遅くなるよね。食べてこうか? ラーメン。」

不動さんと遙菜さんは、このあと渋谷に出ることにしていたのです。まあ、金曜日の帰り道で、遙奈さんが強引に決めてしまった予定なんですけどね。

「よし、入ろ。」

遙菜さんが入口の引き戸を開けました。

「いらっしゃいませ。」

店員の元気な声が響きます。

店は込んでいましたが、ちょうど、壁際の2人用のテーブル席がひとつ空いたようです。店員さんがドンブリを片づけて、テーブルを拭いています。不動さん達2人は迷わずその席に座りました。

「ご注文は?」
「ラーメン、お願いします。」
「あ、あたしも。」
「はい、ラーメン2つ!」

すぐ横のカウンターにSax3兄弟が並んで座っています。

「おーい。」

遙菜さんが3人に声をかけると、3人は驚いたような表情で振り返りました。

「あ、広尾さんと不動さん。」
「お疲れさまです!」
「お昼ご飯ですか?」
「うん、お腹空いたし、食べてこうって。」

3兄弟は顔を見合わせました。そして遙菜さんに尋ねました。

「もしかして、芝さんも来たりします?」

遙菜さんは思い出すような表情です。

「んーと、ゆかりは1人で帰ったんじゃないのかなあ。」
「誘ってあげれば良かったのに。」

不動さんがにこやかな表情で言うと3人の表情が変わりました。

「いえいえ、とても僕らじゃ相手がつとまらないですよ。」
「グズっ、とか怒られちゃうし。」

サックスパートで良く見かける光景です。

「そういえば、今日も言われてなかった?」
「ええ、一年生が動くのが遅いって、僕らが怒られちゃって。」
「とんだ災難だったみたいね。」

話を聞いていた不動さんが3兄弟に言いました。

「でも、1年生にはちゃんと教えてあげないと。まだわからないんじゃないのかな。」
「そうですよね。」

3人は自嘲気味である。もちろん、わかってはいるのだ。ただ、うまく気を回すことができないだけなのだ。

「ところで、3人で楽器持って路上ライブでもやるの?」
「あはは、出来たらいいですね。」

確かに、楽器の入ったソフトケースを肩に掛けた3人組はプロのミュージシャンにも見えなくもありません。

「それで本当はどこにいくの?」
「楽器屋さんです。演奏会も近いしメンテしてもらおうかって。」
「へー、大変だね。」

渋谷にある大きな楽器店に行くようです。

「へい、お待ち。ラーメン大盛3つと、こちらは普通盛2つね。」
「お、来た来た。」

5人はそれぞれラーメンを啜った。食べ終わると5人は店を出て駅から電車で渋谷へ向かった。

天気は快晴。電車はすぐに鉄橋を渡り始めました。河川敷では野球やらサッカーやらの試合が行われているようです。バーベキューが行われている一角もありました。

多摩川ですね。この多摩川を渡り終えると東京都大田区。あまり意識したことはありませんが、ここから先が東京都なのです。

電車が地下へと下り始めました。間もなく、渋谷駅です。

「それじゃ、また明日!」
「迷子にならないようにね!」

渋谷駅の地上に出たところで不動さんと遙菜さんはSax3兄弟とは別れました。ここからしばらくは遙菜さんの独壇場なのです。不動さんは何件かの店に連れていかれて、洋服を探しました。

「これ、いいんじゃない?」
「うーん、色がちょっとくすんでるかな。」
「じゃあ、これは?」
「うん・・・、丈が少し短いかも。」

一見、遙菜さんは強引なのですが、不動さんはそうして自分のために付き合ってくれる遙菜さんには感謝の気持ちでいっぱいなのでした。

結局、5件の店を回りましたが、3件目で見た服が良いと言うことになって戻って購入しました。

「あー、だいぶ歩いたねえ。」
「うん、おかげで服も見つかったし、ありがとう。」
「いえいえ、どういたしまして。」

渋谷の町の賑わいは、不動さんと遙奈さんの住む地元の商店街の比ではありません。どこに行っても人、人、人。人の波です。不動さんも遙菜さんもそう頻繁に渋谷に来るわけではなかったので、人の多さにはいつも驚くばかりです。

「あれっ?」

おしゃれなヘアスタジオの角を曲がった途端、不動さんが驚いたように声を上げました。

(つづく)

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作者のnoteサイトです。
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2024/03/12
はとばみなと

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