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ミュージカル映画が好きなんです。

2015年夏、灼熱の渋谷はみやしたこうえんで開催された第1回の「渋谷ズンチャカ!」で、音楽偏愛トーク「わたしの好きな音楽を、あなたはよく知らない。」に参加したときのおしゃべりゲンコー(一部加筆)…よく残ってたな、コレ。https://shibuya-zunchaka.com/2015/contents/talkmusic.php

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【前置き】
ボクはミュージカル映画が好きです。もちろん舞台のミュージカルも好きだけど、ミュージカル映画のほうが好き。
理由は至極単純「気持ちよく英語で歌ってくれて字幕で話が理解できる」から。

おそらく日本一有名な「ミュージカル嫌い」のタモリさんの言葉、「死にそうになっている人間が、なぜ急に元気に歌いだすんだ?!」とか「普通に会話してて、突然脈絡もなくいきなり歌いだす奴いるか?」みたいな演出的なサブイボ感。
これがたぶん日本人がミュージカルを敬遠する理由の大きいところなのでしょう…で、それにちゃんと形を与えてしまったタモリさんは、きっと浅利さんに恨まれていると思うのです。

ボクには「いきなり歌いだすのが恥ずかしくい」って感覚はないけどまあ、ちょっと覚悟はいるわよね、翻訳ミュージカルって。…日本語の歌詞がものすごくダサい、とかね。

【事例】
その点、ミュージカル映画は違います。ここで実際の事例を見てみましょう。
ご用意しましたのはミュージカル映画の金字塔、「ウエストサイドストーリー」から「トゥナイト」。古い映画ではありますが、会話シーンから歌に入る流れの自然さがピカイチです。

1)West Side Story-Tonight 0:00-1:54
https://www.youtube.com/watch?v=XJ_Q9hzHML4

つぎにこちらの作品を劇団四季の名演でご覧いただきましょう。
残念ながらフルサイズのものはみつからずダイジェスト版なのですが。

2)劇団四季『ウェストサイド物語』メドレー集Vol.1 01:21-02:00
https://www.nicovideo.jp/watch/sm8530713

…ね?。お分かりいただけましたでしょうか。あまり露骨なことは言いたくないのですが映画ならではの映像構成で演出の不自然さをうまくカバーしてくれる、そしてなにより英語(原語)で歌ってくれる。ほら、なんて安心なんでしょう!

【リアル路線とエンタメ路線】
でね、ミュージカル映画って、ボクは2つに分かれると思うのですよ。
ひとつはオペラ座の怪人、レ・ミゼラブル、ドリームガールズ、とか。 王様と私やサウンドオブミュージックもこっちかな。あとウエスト・サイドストーリーも。
もうひとつはマンマ・ミーアやヘアスプレー、プロデューサーズにスウィニー・トッド、あとシカゴ。 チキチキバンバンはこっちだろうな。メリー・ポピンズとマイ・フェア・レディもこっち。
一言で言えばリアル路線かエンタメ路線かっていうコトで、ミュージカル映画の場合は画面の演出や効果もそうですがやっぱり音響演出がその決め手です。

リアル路線の参考として「オペラ座の怪人」からクリスティーヌのデビューシーンでの「シンクオブミー」をご覧ください。舞台袖からステージ上に変化する映像の変化とそれを強調するサウンドデザインが秀逸です。リハ舞台の奥で歌い始めて、舞台上に進み、歌うままに舞台は本番へと変化、万雷の拍手とともに地下のファントムに届く歌声。ビジュアルだけでなく「音の空間表現を変える」ことでリアリティを描き出していきます。できればこちらはブルーレイディスクやDVDなど(や、いまならNetflixとかAmazon Prime Videoとか)で5.1chサラウンドで観てほしい作品です。

3)オペラ座の怪人~シンクオブミー(Think of Me) 0:00-1:40
https://www.youtube.com/watch?v=t0lzT6Ph0IE

エンタメ路線としてご紹介するのは「マンマ・ミーア」からハニハニ。舞台となるカロカイリ島(ロケ地は地中海の「恋人たちの聖地」サントリーニ島)の自然と爽快感を背景に「ミュージカルだから歌ったらOK」みたいな力押しが逆に功を奏していたというか、もとの舞台のゆるさをうまく利用して、あきらかにBGVとして機能するナイスな映画。内容はいろいろと微妙なんだけど、メリル・ストリープとピアース・ブロスナンのダブル主演でミュージカルっていう無茶さ加減も楽しい作品です。

4)Honey, Honey - Amanda Seyfried 0:00-1:15
https://www.youtube.com/watch?v=XpX7LUQ-4JM

…ちなみにこの「マンマ・ミーア」でのアマンダ・セイフライドがワタシすごく好きなんですけど、結果として彼女がコゼットを演じた「レ・ミゼラブル」が個人的に大惨事ww。世界的「わたしの天使」のコゼット役にアマンダ・セイフライド…ごめん、この人が「天使」をやるとただの「バカ」、「考えなし」に見える。…というのはあきらかに偏見なのは認めるけどさ、コゼットがちゃんと「無垢で美しく」なきゃ、死んだエポニーヌが浮かばれないよな。

【ちょっと蘊蓄】
ここでちょっと蘊蓄バナシ。いまや台詞劇ばかりですが、そもそも演劇ってのは歴史的に見ても「歌うのが基本」だったんですよね。

ギリシャ悲劇を観てみると俳優は1~3人ですが、その背景としてコロスと呼ばれる合唱隊がいました。そう「コーラス」の語源ですね。コロスは合唱を通じて、その劇の背景を伝え、テーマについて説明し、観客の反応を誘導します。大衆の代弁者となったり登場人物が口に出せない恐怖や秘密を代弁したりもします。目を転じ、時代を下れば西洋のオペラや日本の能も、すべて唄と身体表現で構成されています。オペラを簡略化したオペレッタ、能の幕間のインターミッション的な狂言などで、はじめて「台詞」が取り入れられているようなのは、演劇史的な視点ではとても興味深いことですよね。

【映画としての楽しみ方】
さてさて、ミュージカル映画といえどもそれなりに社会派な作品もたくさんあります。ここで公民権運動吹き荒れるアメリカを描いた、リアル路線とエンタメ路線の2作品を観てみましょう。デトロイトを舞台に黒人視点で描かれている「ドリームガールズ」、ボルチモアを舞台に白人視点で描かれている「ヘアスプレー」。どちらも元々ブロードウエイミュージカルとして制作された作品です。

全米一の港湾都市として造船と鉄鋼で栄えたボルチモアと自動車産業の隆盛とともに大発展を遂げたデトロイト。その繁栄を支えたのは、南北戦争後に南部から移住してきたアフリカ系アメリカ人労働者。彼らの多くは低賃金の仕事のみを許され、スラムと認定された地域に押し込められていました。その黒人たちのソウルカルチャーである「リズム&ブルース」のサウンドに乗せて、同時代の公民権運動の高まりを描いた両作品。こういう視点で見比べるのも一興よ?

まずは「ドリームガールズ」よりファイナルソング。当時はまだまだ虐げられていた黒人社会のファミリー的な強い結束と、それゆえに起こるさまざまな悲哀を描いた同作品、全米でアイドル的な人気を誇った女性ソウルグループ、シュープリームスの伝記的な映画です。

5)Dreamgirls (9/9) Movie CLIP - The Final Song (2006) HD 0:00-2:10
https://www.youtube.com/watch?v=zZK_bkxhJes

つぎに「ヘアスプレー」よりユーキャンストップ ザ ビートをお届けしましょう。地方都市のテレビ局で放送されるダンス番組を軸に、若者たちの「(人種やルックス、性差など)あらゆる差別に反対する」機運を描いた爽やかでPOPな印象の中につよいリベラルさを感じる青春映画です。

6)You Can't Stop The Beat! (HQ) Full
https://www.youtube.com/watch?v=ovLKUoMqPSg

…いかがでしたでしょう。大迫力の大団円。ところでご存じの方も多いかもしれませんが、中盤で出てくる超ビックサイズのおねーさん、というか彼女は主人公の母親なんですが。あの役、ジョン・トラボルタなんです。そう「サタデーナイト・フィーバー」の。6時間の特殊メイクでこの役に望んだ彼ですが、全編通してすごくキュートなのでぜひ観てください。

【エンド】
というところで、そろそろお時間のようです。

ではまたどこかでお会いしましょう。さよなら、さよなら、さよなら。

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