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小説を書き続けた先に何があるのか

ここ 10 年くらいだろうか、春と秋に小説を完成させて文芸誌に応募し、それぞれ半年間じっとその結果を待つ日々を過ごした。応募した次の瞬間にはもう待つ体勢に入るから、ほとんど 1 年の間ただひたすら待ち続ける。最終選考に残った連絡が出版社の編集から入るのであろう日を、音沙汰なければ次は予選通過者が文芸誌に発表される日を。そして落選が決まれば絶望感が押し寄せる。穴に落ち、しばし沈黙。そのうちひと筋の光が射してくればふと顔をあげ、ふたたび何とかそれに向かってよじのぼる。次の公募の締め切りをめざしてまた考え、書く、考え、書く……そうして今年の春に書き上げたリアリズム小説は、あっけなく選に漏れた。orz。。。

ほぼ4半世紀近く、小説を書くことに意欲的に向かい続けてきた。でもここ数年はとてもつらかった。つらいと吐露するのはタブーと思っていた。小説を書くと決めたのは自分自身だから。たったひとりの世界で生きぬかなければならない。でもつい最近、ある方とお会いして思わず口から出ちゃった「つらいですよ~!!!」
インディーズとして精力的に作品を発表していながらも、公募生活継続中のその方に「つらいですよね」と声をかけられたからだった。実感が伴った共感、吐き出したらとても気持ちがよかった。実は、「つらい」と素直に口にできたのは、もうひとり別のある方の予選通過作品を読んだことも影響していた……

2019年の新潮新人賞で2次通過(最終まであと 1 歩!)した私の小説はメタフィクションをよそおったものだった。その後数回、不完全なメタフィクションを公募に送り、予選通過することはできなかった。やっぱり幻想はカテゴリーエラーかも知れない、これを突き詰めるなら違うジャンルに応募しなければいけないのだろう、そう勝手に結論づけ、今年の春に書いた応募作品はリアリズム小説だった。いつも幻想に逃げていた私は初めてリアリズムで書き通せたことにある達成感はあったものの、その出来栄えには満足できなかった。予選に残らなかったのは妥当な評価をして頂いたと思う。

私はその賞の選に漏れたが、予選通過していた方の作品を読む機会があった。メタフィクションだった。読みながら、私の中に急激な心境の変化が起きた。ほんとうに音を立てて何かが弾けた。そして、ここ数年悩まされていたモヤモヤから突然抜け出すことができたのだった。すごいものは掬い上げられる。面白い(広い意味で)ものを書けば、メタフィクションであっても純文学で受け入れられる! 確信したら俄然やる気が出てきた。

「書きたい(期待や欲望)ものと、書けるものは違う(能力やキャパの限界)」これはよく言われることだ。でも最近の自分は、書きたくないのに書いていたものを、自分に書ける(能力の届く範囲)ものと思い込み、本当に書きたいもののイメージに理想というレッテルを貼り、胸の奥に仕舞い込んでしまっていた。とても自分には到達できないと決めつけた。書きたいものととことん向きあわず、ただ予選通過したいと願い、賞を獲りたいと傲慢になり、「時代を切り取る」ことだけを考え世の中を観察した。リアル、リアリズムしかない。そう決めつけていた。そんなとき、ある方の予選通過作品を読ませて頂き、吹っ切れた。私もまたメタフィクションを書きたい!

その前に。往生際が悪いかもしれないが、とても気に入っている小説たちを1 冊の本にまとめたいと思った。冒頭でつらさを共有した方がキンドルダイレクト出版から素敵な本を出版されていたので、私もぜひ自分の作品を形にしたいと欲望が湧いたのだった。

2019 年に書きあげた都市伝説のような幻想小説が、群像新人文学賞で3次通過し、そのあと挑戦したメタフィクションが新潮新人賞の2次を通過した。このふたつを書いているとき、本当に楽しかった。いつのまにか筆が走り、気づかないうちに不敵な笑みを浮かべていた、と思う。結果もそこそこついてきたから非常に達成感も得られた。しばらくこの 2 作品に執着し構成を変えたりして他の賞にも応募したが、予選通過さえ叶わなかった。自分にはこの 2 作品を超えるものはもう書けないのかも知れないと不安になった。小説を納めた墓標のような、パソコン画面のアイコンを目にするたび、心が痛んだ。だからひとつの区切りをつけることにした。1 冊の本にまとめることで。

ふいに思いついて漕ぎだした舟だが、なかなかの荒波に耐えなければならなかった。このところ毎日本作りに没頭し、ようやくゴールが見えてきた。私のお気に入りの大切な 2 作品を本にしてあげるのだ。苦しいことも何のその、目がしょぼしょぼしても多摩川の悠々とした流れと緑を眺めて、なんとか前進している。本作りにのめりこんでいると、不思議と公募のことを忘れた。どうして賞を獲ることに固執してきたのかと思ったりして、妙に解放感をおぼえた。のぼせていた自分を客観視できるようになった。完成したら、売れるかどうかは二の次に、読みたいと思ってくれる方の元に届けばいいなと思う。10 月中の発売開始(できるかな?)と、来年 5 月の文学フリマへの出店(チキンだから、この試みは非常にハードルが高いけれど)を予定している。万条由衣のひとつの到達点として示し、次のフェーズに進みたいものだ。

ここまで書いてきて、まるで公募生活に見切りをつけるかのような流れになっているが、そうではない。来年春の完成をめざし応募する予定の新たなメタフィクションを書いている。まだ全体像がおぼろげに見えてきた段階だが、思う存分自分の好きな世界に浸ろうと決めたので、乞うご期待!(いったい誰に対して?笑)

KDPから校正刷りが送られてくるのを待っている今、心境を書き留めておきたいと思った。さらに改善をして無事に発売に至ったら旧 Twitter やinstagram、こちらでお知らせしようと思う。

(最後に。チキンの私がもし 11 月の文フリに出かけるようなことがあったら、きっと人混みに紛れてうろうろしているだろうから、そんなおばあちゃんを見かけたら私だと思って、やさしくしてくださいな。)


万条由衣




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