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嫌いな外食

仕事帰り、最寄り駅に行くと運転見合わせをしていた。近くまで行けなくもなさそうだが、そこから先の足がない。歩くと2時間以上かかることは確実なので、翌日休みのわたしは早々に諦めて再び外へ出た。


LINEを開いてみたものの、夜の19時過ぎに呼ぶにはやや遠すぎる友人ばかり。世間的には明日も平日なので連絡するのは憚られた。

しかし、困った。わたしはひとりで食べる意味のない外食は嫌いなのだ。

欲望のままに食べるときは他人の存在など気にもならないし、むしろ好んでひとりで食べたい。
朝活と称してオシャレなモーニングカフェに行き、量が足りない不満から無性に蕎麦が食べたくなり開店したばかりの蕎麦屋に駆け込んだこともある。そんな時のひとり飯は至高の時間である。誰にも邪魔されたくない。


だが、今日はそんな欲求も沸き立たず、かといって空腹で買い物なんてなんにも楽しくない。腹が減っては戦どころか散歩だってできやしない。

残っていた会社のメンバーを思い浮かべるが、ご飯に誘えるような人もいない。仕方無しに来週の出張でジャケットが必要だからと奮い立たせてUNIQLOを覗いてみるも、こだわったディスプレイに目がチカチカして早々に退散した。

結局、スタバで適当なパンと柚子ストラスティーを買って時間をつぶすことにした。幸い手元には2冊の本が入っている。

もう何度も読んでいる、千早茜の「わるい食べもの」というエッセイを読みふける。食の欲望を蠱惑的に書き出すことにおいて、千早茜に並ぶものはいない。

しばらく読み進め、小一時間ほど経っただろうか。運行状況を確認すると今だ見合わせ中だ。

こうなると、最初にダメ元でも誰かに声をかけなかったことを後悔してしまう。運良く誰か捕まれば移動に時間がかかったとしても今頃は会えていただろうに。
店内は冷房が効いていて、1日ずっと座りっぱなしだった足がむくんで痛い。頭上で流れる洋楽のBGMがうっとおしい。


悲しくなってしまう。しかし同時に、無性に書きたいと思った。

手元にペンとノートがほしい。スマホで打ったら消えてしまう言葉が今この身の中にあるとわかる。
電車が止まっているとわかった時の気持ちも、連絡できる人が誰もいないと確認したときの気持ちも、その瞬間にしかつかめない言葉が身の内にあった。

そんなときに限ってペンもノートもない。気が付き、さらに悲しくなってしまう。仕方無しにスマホでこの文章を打つも、すでに身のうちにあった言葉は霞の向こうに再び隠れてしまった。
こういうことが起こるから、ひとりの外食は嫌いだ。

未だに電車は動かない。悲しい心は変わりないが、せめて店内が暖かい喫茶店でケーキでも食べようか迷っている。



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