時刻表
行先の2駅前で終点。乗り換えは同じホームです。
もう何度も同じ乗り換えをしているので、慌てず騒がず、電車を降りました。
と、おそらく同じ方向に行くのであろう男性が、近くの人に何やら話しかけています。身振りからするに、乗り換え方法について聞いていたようです。
スマホがあれば一瞬で乗り換えが調べられる時代です。現に男性もスマホを手にしていました。それでも訪ねていたのは、おそらく電光掲示板にまだ目的の電車が表示されていなかったから。
男性の様子を見ていると、なんだかわたしも落ち着かなくなって、時間つぶしも兼ねて時刻表でも確認しようと思い立ちます。
ところが、ホーム内のどこを見ても時刻表がないのです。おやと思いつつホームを歩いていると、QRコードと一緒に「時刻表はこちら」という張り紙がラミネートされて貼られていました。スマホを出してわざわざ確認するほど不安なわけでもありませんから、そのままQRコードを眺めます。電車は99%くるのですから。
大きな時刻表にダイヤを印刷して掲示するのは手間ですし、ダイヤ改正の度に張替が必要なので、スマホのQRコードに変えるのは間違いなく効率的です。そもそもスマホがあれば、時刻表など見る必要はないのですから。デメリットを挙げるとするなら、両手がふさがっているときにはスマホを出しにくいことくらいでしょうか。
そうとわかってはいても、あの文字と行先が書かれた独特の表がない駅とわかると、ほんの少しだけ心もとなさが強くなりました。
もう何度も同じ乗り換えをしているのに、本当はあの男性と同じで、このまま待っていれば電車がくるかどうか、信じきれない部分があるのです。
目的の電車が電光掲示板に表示されました。今度こそ安心して、ふと自販機のラインナップを見ると、独特な光沢の缶に貴婦人の線画が描かれていました。キャッチコピーから察するに、おそらくマリーアントワネットです。
時代に生き、新時代に淘汰された彼女の顔を、しばらく見つめていました。
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