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トロレバ刺しと歯型

「羊たちの沈黙」という映画は、主人公が食人嗜好だそうです。今日1日生肉のことを考えていたわたしにはピッタリの作品だなと、初めて猟奇的な映画に興味を持ちました。

美味しいレバーを知ってから、わたしの食の世界は広がりました。美味しいレバーは臭みもなく、何よりモサモサしていません。半生で柔らかい、でも内臓特有の歯ごたえがあるレバーは今となってはわたしの好物です。
レバーが好きになるのと同時進行で、その他の内臓も好きになりました。焼き鳥屋にいけばレバーとハツ、カシラ。冬の居酒屋と寿司屋ではあん肝を探し、何かあれば1人でホルモン屋に飛び込みます。

千早茜の「男ともだち」という小説の中にあった、「ぐろいものは美味しいの」というセリフをたびたび借用するまでになったわたしですが、こと内臓に関しては、「美味しいから」以外の喜びがあるような気がしなくもないのです。


手をつないだりハグといったスキンシップが好きなのですが、それだけでは足りなくて、人に噛みつきたいと思うことが度々あります。白い首に、節くれだった手首に、つるりとした肩に、やわらかい二の腕の裏側に。噛みつきたい、歯型を赤く残して、ついた唾液はなめとりたい。
別に人肉を食べたいなんて思っていません。
でも、噛みつきたい衝動と、内臓を食べるときの恍惚さの裏側にあるほの暗さはどこか似ています。


内臓がもつ特有の生々しさは食べられ、消化した後でさえも身体の中に残り続けるんじゃないだろうか。そして、食べられた生き物を少しずつ内臓が内側から浸食するんじゃないだろうか。そんな妄想ができるくらい、内臓は死んでもなお、生き物としての気配が濃いのです。

リストカットはしたことはないですが、自分の腕を噛むことはあります。噛んで、痛みを感じて残った歯型を見ると形の間抜けさに呆れながら、噛み跡が薄れていくことが少し、悲しい。

昨日食べた絶品のトロレバ刺しは、赤ちゃんの舌みたいにキレイなピンク色をしていました。
トロレバ刺しよりも赤黒いわたしの舌に乗せて、噛み、飲み込んだレバーは、今もわたしの身体の中で復讐の機会を伺っているのかもしれません。


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