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小説(SS) 「僕のゲーム機」@毎週ショートショートnote #着の身着のままゲーム機

お題// 着の身着のままゲーム機
 

 ゲームのセーブを終え、ヘッドホンを取ったときにようやく異変に気付いた。
 我が家の一階が火事になっている。少し前から臭いがおかしいと思っていたが、おばあちゃんが料理を焦がしたのだろうと思っていた。
 しかし部屋から降りようとしたときには、すでに火の手がそこへ迫っていた。煙で階段も見えなくなっている。ここからは逃げられないと思い、部屋に戻って窓を開けた。家の外に人だかりができている。道端の人がこちらに気付き、なにかを叫んでいるようだったが、倒壊する音で聞こえない。
 二階から飛び降りるかと考えていると、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。消防車と救急車がくる。こうしちゃいられないと思い、大事なゲーム機をバッグに急いで詰めはじめた。しかし、バッグに全然入らない。

 まもなくして救急隊が二階から入ってきた。僕は抱えられるようにして救出された。「あれも持っていく!」と叫んだが、命とどっちが大事だ、と天秤にかけられてしまい、諦めざるを得なかった。
 命は助かった。しかし、大切なゲーム機は炎の中にあった。
 ふと救急隊の話が聞こえてきた。どうやら、おばあちゃんはまだ家の中にいるらしい。いつも優しいおばあちゃんだった。学校から帰ると台所に立っていて、美味しい煮物を作ってくれていた。家に忘れ物をしたときには、通学路を走って届けにきてくれたこともあった。そんなおばあちゃんが大好きだった。だから、安否がわからないと聞いて、居ても立っても居られない気持ちになった。

 しばらくして、炎の中から人影が現れた。救急隊がおばあちゃんを背負って出てきたのだ。おばあちゃんは救急隊員の首に手を回していたが、その手には見覚えのあるものが抱えられていた。ゲーム機。着の身着のままのおばあちゃんは、意識を失いながらもがっちりとそれを離さないでいた。

「お孫さんですね。このおばあちゃん、孫の大事なものだからってゲーム機を取りに行ったんですよ。置いていけと言っても、この通りで」

 救急隊員の話を聞いて、おばあちゃんの優しさに触れたと同時に、ここまでのことをさせてしまったのは自分なんだと強く思った。
 それを知ったとき、僕の中からゲームへの興味が自然と薄れゆくのを感じた。そうだ、このままじゃいけない。

 後日、おばあちゃんが目を覚ましたという連絡があった。
 以来、僕はゲームをしなくなった。おばあちゃんが救出してくれたゲーム機は、家宝となっている。

〈了〉1,006字
 



滑り込ませていただきました。
体調はまだ完全じゃないですが、だんだんよくなってきました。なんだか弱っているせいか、らしくないものを書いたような気がします。

ではではまた〜

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