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志賀忠重北極ベースキャンプ日記

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1997年6月23日、山形県出身の冒険家大場満郎さんは、人類初・北極海単独徒歩横断の記録を樹立しました。ロシアからカナダへ凍結した北極海をわたる約2000キロの旅――。3か月に及… もっと読む
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42.旅の終わりに

・戻った強運と帽子 6月24日 北極海を1760kmひとりで歩ききった大場さんをピックアップした。 午前4時 カール機長の操縦するレゾリュートへ向う飛行機の中、大場さんが私に「帽子を持って来たよ」と突然話し出した。一瞬何の事かわからなかった。 「 前回の補給の時に空から帽子が落ちてきたんだ、帽子を無くして困っていたからずっとかぶっていた 」と言う。 飛行機から落とした私の帽子が偶然にも大場さんの近くに落ち、それがまた、ちょうど欲しかったタイミングだったことに大場さ

41.北極に咲く花

・ピックアップ 6月23日 オオー というどよめきの中、うつらうつらしていた私の目にワードハント島のとんがり山が飛び込んできた。ツインオッター機のコクピット正面に、炭鉱町にあるようなズリ山がポツンとあった。 その山は、ユーレイカかから来る途中で見た山肌が氷で光っているような山々とは全く違っており、真っ白い雪を背景にクッキリと浮かんで見えた。ツインオッター機がそのとんがり山を廻り込むとすぐ、大場さんとソリが確認できた。その山には雪は全くないが、麓にはまだ雪があり、そこにあ

40.6月23日、晴天の日に

・当たった予感12時5分前、ジョイさんの食事の合図「もんじゃもんじゃ」の声がインターフォンより流れる。 昼飯前の予感がし、私はガレージ2階に上り、無線機の前で大場さんの呼び出しを開始する。11時に集まった撮影スタッフも昨日の大場さんの状態から考え、7.2㎞を歩くのはまだだろうという感じを持っていたためか、無線機の前には私ひとりしかいない。 呼び出しを始めて3分位経過した時、かすかに大場さんの声が入ったような気がして再度「大場さん聞こえますか?レゾリュート志賀です」と呼び返

39.悲痛の声

・ワードハント島までわずか7.2kmなのに6月22日   大場さんのここ2~3日の歩いた距離を見ると、6月20日約10㎞,6月21日21.7㎞とリードがある場所を一歩一歩目的地に向かっているのがわかる。 今夕5時15分ワードハント島まで7.2㎞まで近づいている。その後のアルゴスデータが取得出来ない事から9時の交信時間まで期待と不安を持ちながら待つ。5時からの空白の時間にワードハント島まで到達しているのではないか。 そんな気持ちを持ちながらも出来るだけ普通に交信しようと努

38.最大の難所に臨む

・到着予定を6月23日に変更6月21日 アルゴスデータで大場さんの歩いた跡を見ると、今最大の難関に当たっているのがわかる。6月20日午前中までは、ワードハント島に向け一目散というような感じであり、心配していた乱氷もなく、スムーズに距離を稼いでいた。 ところが、6月20日午前10時50分からのアルゴスデータから、ほとんど南へ進まず、一時間ごとに見るデータの数字を図表にすると、西へ西へと動いている。10時間かかってようやく5km南下している。夜9時の無線交信で氷の状態を大場さ

37.ゴールが見えてきた!

・目標はワードハント島6月18日 6月18日、大場さんはレゾリュート時間で、6月17日午後10時には北緯84度を越え、目的地のワードハント島迄、90数㎞に迫った。その後、今日18日夜になっても大場さんの現在地を示すアルゴスのデーターが取れないのが気にかかる。18日にどの位の距離を歩いているのが分かると大場さんの到着日が予想出来るのだが、昨日までは1日20㎞以上歩いているので、そのペースで行けば4日後6月22日には到着する計算になる。 しかしながらワードハント島付近には乱氷

36.氷の融解に備える

・北極で2週間の予定が2か月に土谷様へ  6月11日   大場さんはゴール地点まで、残す所200kmのところまで来ています。明日6月12日午後9時に無線交信の予定です。土谷さんも個展に向けて忙しくやっているのではないかと想像しています。 大場さんの日記を読み返していたら、土谷さんが作ってくれたステッカーの事が書かれてありましたのでFAXします。前回の補給時に大場さんから、そのステッカーを預かってきています。 それは大場さんがダンボール箱からはがしたと見え、3分の1が無く

35.感謝の気持ち

・縁の下の力持ち6月10日   夕べの大場さんとの無線交信状態は悪く、大場さんの「ラジャーラジャー」の声しか聞き取れず、残念でした。しかし、アルゴスデータを見ると、昨日1日で約22km歩いているのが判り、安心しています。このアルゴスデータは、カナダにあるバンフという町からFAXでレゾリュートに届いています。アルゴスデータは、日本事務局とCRV社の両方で取れるようになっており、随時入手できます。 CRVはカナディアンロッキービデオといます。社長は蓮見さんといい、私と同じ47

34.大切な友人

・ピーターさんのこと6月9日 私がレゾリュートの空港に着いた時、迎えに来てくれたのがピーターさんだった。背が高く、飾り気のない印象がした。それに余計な事を話しかけられないのにホッとした。英語の苦手な私にとっては、軽やかに話しかけられるのが一番困る。何を話したいかをお互いに認識しあった上で話を始めないと、お互いにくたびれる。そういう意味ではピーターさんは最高だった。 ピーターさんと話をしているのには、言葉が不自由と感じたことは全くないし、2人でよく笑った。ピーターさんは長い

33.北極、ときどき仕事

・会社へあてたFAX6月9日   ■古川君へ FAX届きました。近頃仕事の方が気になっていたところでしたので順調に進んでいるようすで安心しました。又テレビの取材もよくわかりました。FAXの内容を見ると中身が濃いようで帰ってから見るのを楽しみにしています。野林さんからのFAXも届きました。FAXを読んで私のいない所で頑張ってくれている事が感じられうれしく思いました。 ひとつ感じた事は現在、車が売れないので売り上げが伸びないという感じが伝わってきましたが、車が売れないという

32.残り250km

・日本の香り  6月9日   PM9:00 レゾリュートにある一軒だけの店「COAP」へ煙草を買いに行った。その中にある郵便局に行くと私宛の荷物が届いていた。かなりの重さがあったが、その重さは嬉しさに比例して苦にはならなかった。ワクワクしながら担いできた。私が頼んだ物以外にもいろいろ入っていそうな感じだ。 部屋に戻り荷物を開けると、タバコ・ビデオ・雑誌・新聞・小説(『竜馬が行く』)等が入っていてうれしくなった。その外に日本で毎週読んでいた漫画の本まで入っている。私の会社(

31.レゾリュートで会った人々

・大場さんへの手紙   ポーラフリーのメンバーが6月2日の夜中、レゾリュートに帰ってきて、私のところへ遊びに来てくれました。日本人の成田君と宮川君、2人とも好青年という感じでした。成田君は、前に大場さんに電話をして「あいさつに行きたい」と言ったら大場さんに「来なくていいよ」と言われたと話していました。彼は大場さんに会いたかったのだそうです。「言い方を間違えてしまったんです」とも言っていました。 私が大場さんの事や今回の補給の事などをいろいろ話すとすごく興味を持ち、話を聞い

30.補給後の反省

6月7日 6月5日に大場さんへの補給をしてから2日目になる。私がレゾリュートに来てすでに2ヶ月と2日が経つ。日本での仕事も気になるが、今は目の前にある大場さんへの補給に集中しようと考えている。これまで予測できる事、やれる事にベストを尽くしたいと思い、そのようにしたつもりだったが、今日大場さんの日記を読み返し、前回の補給にいくつかの間違いがあったことに気づいた。 それは、今回の補給品の中にカロリーメイトを40箱しか入れなかった事だった。私が読んだ大場さんの日記の中に、前回に

29.ドロップオフ

・帽子が空を飛ぶ■6月5日 ◎午前4:00 激しく叩くドアの音で目が覚める。「はい」と言って飛び起きる。ラス機長が起こしてくれたのだった。この瞬聞から「補給」という現実が始まる。楽しい夢を気持ちよく見ていたような気がするが思い出せない。 ◎午前5:15 副操縦士のマイクが後ろを振り向き、親指を上げ、「行くぞ」の合図をする。離陸。雲はあるが視界は良好。風は昨日ほどでないがかなりある。ツインオッター機は1分間に150mずつ上昇、1200mの高さに雲がある。可変ピッチのプロペラ