マガジンのカバー画像

川崎ゆきお超短編小説 コレクション 2

82
運営しているクリエイター

2015年1月の記事一覧

少女と老龍



 他の少女とは少し様子が違っていた。何か特別な子供ではないかと思えるような節はあるが、それはただの外形だけかもしれない。髪の毛の色が他の村人とは少しだけ違い、青っぽい。また、瞳の色が黒ではなく、少し薄い。目が悪いわけではない。
 ただの村娘で、その両親もただの百姓だ。その少女、名をまゆと言い、親が適当に付けた名だ。
 まゆは特別な人間では

もっとみる

浮き世離れ



 浮田は名前通りではないが、まだ若いのに浮き世離れしたことに興味がある。浮き世とはこの世の俗事のようなもので、世間一般のことだ。世の中が浮いている。天空の町に住んでいるわけではないが、世間で暮らしていると浮き沈みが激しい。浮き世とは一般社会という意味だろうか。
 浮き世離れとは、一般社会から少しはずれたところ、世間から一寸浮いたところ。浮き世そのものは浮いているわけ

もっとみる

釣り落としたフク



 坂田はこの上着ではないかと思った。デパートの古着市で。
 寺や神社の大きな縁日のとき、古着の露天が出る。それを見ても何とも思わなかったのだが、都心のデパートで見ると新鮮だった。
 冬の終わり頃から春先に着るカジュアルなコートだ。そのタイプは余るほど持っている。だから着るものに困っているわけでもないし、また古着しか買えない経済状態でもない

もっとみる

黄昏の丘



 黄昏時、黄昏ている人がいる。その年齢も黄昏ている。だからミスマッチではなく、黄昏時には風景と同化している。
 そこへ年齢的には黄昏をとっくりに過ぎ、とっぷり夜に入っている老人が現れた。若い方の黄昏人よりも恰幅がよく、身なりも良い。
 道ばたでポツンと黄昏れているわけには行かないので、二人とも黄昏やすい黄昏の丘にいる。黄昏なので、朝日では

もっとみる