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川崎ゆきお超短編小説 コレクション 2

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2015年2月の記事一覧

迷路抜け



 日常の中に地形的な迷路はないが、頭の中での迷路はある。迷路は迷い込んで、何処にいるのかが分からなくなり、道に迷うことになる。これが町中では抜けられないような道を指すのだろうか。そこに住んでいる人はそれを知っているので、通り抜けようとはしない。

 頭の中の迷路は思い迷うようなこと。話の道筋が見えないとか、よく分からないまま彷徨っているような。

「迷ったときはどうしますかな」

「何処で迷っ

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円墳の怪



 平地にある城下町だが、町そのものが一種の要塞のようになっている。といっても少し地面が盛り上がったところに限られる。城下まで攻め込まれれば、それで終わりだろう。結局城を裸にするため、燃やしてしまう。その岡の外れに古墳がある。岡の端、城下町の入り口付近だ。岡の上にさらに岡がある感じだが、それほど背の高い古墳ではなく、ただの円墳だ。その規模の古墳なら日本中至る所にあるだろう。

 この古墳は人の家

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胡乱堂奇談



 大きな里の一番賑やかな通りに寝間着にどてらを羽織った男が歩いている。冬だが温泉地ではない。商人宿が一軒があるが、その浴衣ではない。その宿屋の二階から宿泊客が、その男を見ていた。

 宿泊客は旅人で、田島と宿帳には書いている。本名かどうかは分からないが、町から来た紳士だ。

 田島は急いで階段を下り、通り過ぎたその男の後を追った。

「胡乱堂様ですね」

「はあ」

「胡乱堂様ですね。お探しし

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付喪神



 神にも色々あるが、特定の形のある神として付喪神がいる。しかし形を表した神は俗っぽい。付喪神、喪に付くと書く。喪に付くのか、喪が付くのか、どちらかだろう。喪に服すとか喪中などと言うように、亡くなったあとの行事のようなもの。ここで死んでいる。または消えているが、ここでは喪を忌みと捉えると分かりやすい。忌みが付くのだ。忌み嫌うの忌みであり、神と言うより縁起でもないバケモノに近くなる。実際には付喪で

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山寺の暮らし



 静かな山寺、里からはかなり離れている。当然俗事とは関わらない場所で、西洋で言えば修道院のようなものだろうか。坊主になるということは世俗から離れることでもあるのだが、特にやることはない。あるとすれば悟ることだ。しかし、今はそんなことをやっている坊主は希だろう。

 そこに徳が高いと言われている坊主がいる。長髪で髭も剃っていないが、たまには切るようだ。鼻の下の髭が伸びすぎると唇にかかり、食べたも

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百を一にする



「何もないところから、何かを作る。ゼロから一を作り、二にし、やがて十にし、百にする」
「それがコツですか」
「ところが、そうではないという言う人もいる」
「そうなんですか」
「百を一にする」
「その百は何処から出てきたのですか」
「いろいろと下拵えをしていたのだろうねえ。準備だ」
「その準備が百ですか」
「百を知っているが、使うのは一つか二つ程度。また使えるのもその程度とか」
「その百も一の集

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忌み地



 怪しい場所には怪しい人が来る。まるで吸い寄せられるように。しかし最近出歩く人が減ったのか、ただの寂しい場所になっている。そこは聖地的な密度の高い一角で、聖なる空気が流れている場所だとされているが、これは最近言い出したことで、一時は訪れる人が多くいたが、そのブームもすんだようだ。そこは町の谷間のような場所で、実際高低差がある。岡と岡とに挟まれたような場所で、渓谷と言うほどの高さはないが、細く狭

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