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川崎ゆきお
2015年4月29日 09:24
様変わりした街並みを歩いていると、自分ももう過去と共に取り残されたのではないかと高中は感じた。背景もまた自分の一部、拡大された何か、拠り所のような何かだったのかもしれない。 よく晴れた日で、足の向くまま昔暮らしていた町を訪ねたのだが、来なかった方がよかったのではないかと後悔した。あの店をもう一度見たい。それは豆腐屋だが、子供の頃何度か使いで買いにやらされた。鍋を持って。あの頃は何だったの
2015年4月13日 10:14
下田が子供の頃見えていた神秘が、大人になると消えている。知ってしまったからだ。分かってしまうと何でもないことで、神秘事は去ってしまう。ただ、そのときの印象が残っており、これがなかなか消えない。 例えば祖父が御所大事にしていた神棚がある。仏壇より立派で、奥まった暗い座敷にあった。これは座敷の床の間を改良したものだと、あとで分かった。奥の壁に仁王さんのように髪の毛を逆立てた神様が立っている絵
2015年4月11日 10:47
「今の村と違い、昔の村は今よりも色々なものがありましたのですよ」 と屋敷の庭の桜の木の下で姥桜が語り始める。桜の木が話しているのではない。年配の女性、もう既に十分老婆だろう。「今はもう村には何もないけどね、昔は色々あったのさ」「本家の村でしょ」「今は廃村、昔は寒村。山ん中の字だね」「何々郡、字何々の、あの字ですか」「そうそう、大きい村は大字さ」「今は一つの町として合