Jakob van Hoddis 詩5篇

表現主義の詩人、ヤーコプ・ファン・ホディス(Jakob van Hoddis)の黙示録的な詩を5篇、訳したものをまとめました。 

世界の終わり

市民の帽子が尖り頭から吹きとぶ、
宙のあらゆるところで悲鳴が響めく、
屋根大工が落下しまっぷたつに割れて
岸辺では──新聞によると──高浪が打ちあがっている。

嵐がきた、荒狂う海が飛びはねて
地上では、巨大な堤防が倒壊する。
多くの人々が鼻風邪を引いている。
数多の鉄道が橋から落ちる。 

夜の歌

夕暮れの茜色は蒼い空を引き裂く。
血が海に落ちた。火焔が燃え滾る。
燈火は若い夜を滲みわたる。
街路と白い部屋に灯を注ぐ。 

人類は光りを目前に痛々しく蠢く。
ちんぴらどもが叫ぶ。幼子たちが咽び泣く、
森を夢みる、悩ましく。ひとりの気狂いが
寝台に潜み蹲みこんでいる…ぼくは逃げだしたほうがよい? 

「ぼくらは子宮から這ってきた
そしてだれもが個々で在りたいのだ。
だれもがきみの双眸を劈き
図々しくきみの夢へと迫りきて
四肢がきみの骨に乗っかる
まるで空間が消失したように。 

人々はなおも死にたくないし
だれも月のように孤独で在りたくない。
月さえも腐爛を意味するだけだ。
その愛は死をもって報いられる… 

粛然とぼくのもとで病んだ夜が死ぬ。
残酷にも徐々に朝が昇ってくる。
たちまちそれは黒色を撃ち殺す。
昨日、夜を喰い殺した兄弟よりも
それがなした無惨なこととは一体?」 

呪われた山脈からトランペットの衝撃…
いつ地と海は神のもとに沈むのか?

死の天使

ドラムロールが花嫁行列に鳴りわたる、
絹の駕籠で花嫁が運ばれて、
白薔薇の銀翼が紅い雲を過ぎ、
焦れったく黄金の頭絡を咬む。
死の天使が天空の式場に佇み待っている
優雅な花嫁に憑く佗しい護衛として。
天使の荒んだ暗色の髪が落ちる、
朝が光り耀う前額が落ちる。
双眸を見開き、憐憫に眩き開く、
索漠な眼差し、新たな欲望に向けられて、
悲惨で、渇くことなき希望、
天使が知らなかった白昼夢。 

天使は洞穴からやってきた、そこではある少年から愛され晴れ晴れしく持て囃された。
天使は蝶のようにかれの夢を通りゆく。
海にふたり横たわり朝の贈りもののように想いを馳せる。
インド大陸の空気、熱い日々
齢を重ねた海は黄色の入江を走る。
寺院では司祭が銅拍子を鳴らす、
溶解炉を囲み踊り、そこではひとりの少女が燃えている。
彼女は静かに啜り泣く、群れが歌う
雲の玉座に就く偶像崇拝を彼女にしめす
死んだ頭蓋骨は転節のように強張り、
火焔の苛めは黒い口づけで報いる。
酔っぱらいらが裸で剣の合間を舞い、
ひとりが剣を胸に突き刺し崩れ落ちる。
血が飛び交うなか太腿が蠢き、
沈む、少年の寺院、夢、世界。 

そうして天使は飛んだ、ある老人のもとへ
緑色の鸚鵡のように寝台へやってきた。
かあかあと歌う「おお、情け無いスザンヌ!」
長いあいだ忘れられていた若々しい連禱。
それは天使をみつめる。双眸から滑らかな愚蒙。
煌めく光線がまたひとつ。邪悪で醜い最後の笑い
歯無しの口周りが痙攣する。荒れ野の部屋の。
突如として騒騒しい死の喘鳴が震撼する。 

花嫁は軽やかなドレスに包まれ静かに祝福をあげる。
天使は黙る。病煩のように宙が動く。
天使は膝の上に崩れ落ちた。両膝とも痙攣して。
空から注がれる愛の光線によって突き抜かれる。

天の蛇

太陽は耀き夜は沈黙している、
眩い窓窓からのぼりくる
幽霊たち、
不埒に駆りたてる
宙で。
そして街では
臭いが蔽う
かれらの酔っぱらい顔の。 

「魅惑の天空にある
大ホールをうねらせよう。
月はもうすでに遠くに。
星々の劇烈が死に絶える。
耀きなのか、暗闇なのか、
歌なのか、祈りか、噂か、
宮殿なのか、それとも瓦礫?
沈黙せよ、我々は不思議の国にいる」 

幾千もの兵士らが彷徨い続ける
雲の飛行機を通って。
幾千もの友たちが逃げ惑う
雲の隊商から。
ああ、思想家は暗然とする、
今日思案するべきなのに。
水桶にかれを突っこむ。
かれは素敵だ。 

雲は亜麻布のようにうねり蠢く、
空でぼくは醜怪な不品行を感じる
天使たちが神の呪いを畏れ
シガレットを咥えている。
 
ルシファーが今日召致され
ひとりできっと寝台へおもむく。
厚い雲のなかななつの天を過ぎゆく
煙草の煙と貧しき罪人の脂

朝に

強い風が巻きあがる。
鉄の空の流血する門が開かれる。
塔を打つ。
高々と鳴る音が軟らかに
あらがねの街の上空に響いている。
朝の太陽は煤けている。堤防に轟く列車。
雲を通って黄金の天使の犂が耕す。
蒼然とした街を強く風が吹く。
煙突と起重機が穢く流れる川のほとりで目醒める。
不愉快な鐘が風化した聖堂を叩く。
きみはみる、たくさんの女性や少女が仕事に出かける。
蒼白い光りのなかで。夜の放埒。スカートが波打つ。
四肢は愛のために創られた。
機械のために、満たされない労苦のために。
みよ、慈愛に満ちた光りがさしている。
樹々のなか温もりの緑。
ほら!雀が喚んでいる。
そして外では殺伐とした地上を
雲雀が歌いながら飛んでいる。 

オリジナル: https://gutenberg.spiegel.de/buch/gedichte-9707/1

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