見出し画像

バイエル、旧モンサントの分離を先送り 4つの課題の対応を優先

ドイツ・バイエルのビル・アンダーソン最高経営責任者(CEO)は3月5日の決算発表会で、旧米モンサントの分離を含む組織改革について、「答えは今ではない」と述べ、結論を2年以上先送りする考えを表明しました。緊急に対応しなければならない4課題として、①医薬品開発の強化②米国のラウンドアップ訴訟への対応③負債の削減④官僚主義の打破ーを挙げ、まずはこれらの対策を優先させるということです。一方で、組織改革について「決して行わないというわけではなく、誤解しないでほしい」とも強調し、将来的な可能性を示唆しました。

アンダーソン氏は2023年11月、業績低迷に不満を示した上で、「現状維持という選択肢はない」と述べ、大幅な組織改革に乗り出す考えを表明しました。バイエルは現在、旧モンサントを引き継いだ「クロップサイエンス(農業)」、「医療用医薬品」、「コンシューマーヘルス(大衆薬)」の3部門を世界展開していますが、「3部門を維持するのではなく、大衆薬かクロップサイエンスのどちらかを分離することになるだろう」と述べていました。

同氏は3月5日の決算発表会で、多くの外部アドバイザーの意見も聞きながら、「会社の構造について真剣に検討した」と説明しました。欧米企業では、事業ごとに組織を分離する動きが広がっており、バイエルの株主からも農業と医療用医薬品、大衆薬の3部門を分離するよう求める声が出ていることを念頭に、「われわれの業界では(特定の製品やサービスに特化した)ピュアプレー構造が一般的になっている。それが最も簡単なアプローチであり、誰もがその主張を完全に理解できると思う」と語りました。

決算発表に臨むアンダーソンCEO(中央)ら(バイエルのウェブサイトより)

一方で、「新規株式公開(IPO)や(スピンオフやスピンアウトなど)事業の分離には、18~24カ月をかけて全力で取り組む必要がある」と述べ、緊急の4課題より優先順位は低いとの考えを示しました。事業の売却に関しては、大衆薬部門だけが対象になると明かす一方、「一時的な収入で負債を一部返済できるかもしれないが、大衆薬は素晴らしい事業で、素晴らしい業績を上げてきた」と慎重な姿勢を示しました。

分かりにくい言い訳を繰り返していますが、要するに、現時点では何も決められなかったため、結論を先送りするということのようです。農業部門については、IPOやスピンオフの可能性を示唆しつつ、売却の可能性は否定したため、買収に名乗りを挙げた企業やファンドがなかったのかもしれません。

アンダーソン氏は同じ決算発表会で、「ラウンドアップ」の商品名で知られる除草剤グリホサートについて、「安全で不可欠なものだ」と改めて強調しました。グリホサートについては、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)が2015年3月、「ヒトに対しておそらく発がん性がある」との評価を下したのをきっかけに、安全性論争が続いています。

米国では「グリホサートを使っていたらがんになった」として多くの訴訟が起こされ、2024年1月31日時点で16万7000件に達したことがこの日の決算発表資料の中で明かされました。バイエルは101億ドル以上を払って和解を進める方針を既に示しており、11万3000件については和解などで決着したということです。

アンダーソンCEOは、グリホサートが安全だとする根拠について、欧州連合(EU)が2023年11月、グリホサートの使用を10年延長すると決めたことを挙げました。同氏は「グリホサートは世界で最も使われている農薬だ。不利な評決には全て控訴する」と述べ、一部争っている訴訟については、対決姿勢を堅持する姿勢を示しました。

一方、この日発表された2023年12月通期決算は、売上高が前期比6.1%減の476億3700万ユーロ(1ユーロ=160円換算で約7.6兆円)、純損益が29億4100万ユーロの赤字(前期は41億5000万ユーロの黒字)に転落しました。グリホサートの売り上げ減少など、農業部門の不振が主因です。

バイエルが重視するEBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益)は、特殊要因を除くと、13.4%減の117億0600万ユーロとなりました。部門別では、農業が26.6%減の50億3800万ユーロと大きく落ち込み、医療用医薬品も11.6%減の51億8900万ユーロと振るわず、大衆薬は3.2%増の14億1100万ユーロと堅調でした。ラウンドアップ訴訟に直面する農業部門の不振が際立っており、訴訟への対応が最優先課題であることが分かります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?