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ウクライナ産農産物の流入で東欧の農家が苦境 EUが1億ユーロの追加支援策

欧州連合(EU)の欧州委員会は2023年5月3日、安価なウクライナ産農産物の流入で打撃を受けているポーランドなど5カ国の農家に対し、総額1億ユーロの追加の支援策を行うと表明しました。ロシア侵攻の影響でウクライナ産農産物の黒海からの輸出が滞ったため、EUは陸続きの東欧諸国を経由して陸路での輸出を後押ししてきました。しかし、トラックでの輸送が思うように進まず、予定された第三国に運ばれないまま東欧諸国で低価格で販売され、現地の農家を苦しめることになってしまいました。ウクライナ支援がEUの農家に悪影響を及ぼすという思いがけない展開となり、EUは難しい対応を迫られています。

EUによる支援額の内訳は、ポーランドが3933万ユーロ、ルーマニアが2973万ユーロ、ハンガリーが1593万ユーロ、ブルガリアが977万ユーロ、スロバキアが524万ユーロとなりました。EUの共通農業政策(CAP)での直接支払い額を基に配分を決めたということです。各国はEUからの支援に加え、支援額の最大2倍の金額を自ら拠出し、最大で総額3億ユーロの支援を行うことになります。小麦やトウモロコシ、ヒマワリなどの農家が対象です。

欧州委員会は2022年5月、ロシアによる侵攻の影響で低迷しているウクライナ産農産物の輸出促進を目的に、「連帯レーン」(Solidarity Lanes)を設けることを決めました。ウクライナは小麦やトウモロコシなど穀物の主要輸出国ですが、主要輸出ルートである黒海からの船舶での輸送が滞り、輸出先のアフリカなどで食料安全保障への懸念が高まったことから、代替ルートとして東欧諸国を通じて陸路で輸送しようというものです。海路での輸出促進に関しては、国連とトルコの仲介により、ロシアとウクライナの間で「黒海穀物イニシアチブ」が2022年7月に合意されています。

ウクライナから東欧諸国に陸路で輸送しようとすると、鉄道のレールの幅が異なるため、国境まで鉄道で運んできた後、トラックや別の貨物車両に積み替えなければならないといった手間がかかる上、通関手続きにも時間がかかっていました。昨年5月時点では国境での待ち時間が平均で16日に上り、中には30日も待たされたケースもあったそうです。さすがにこれはひどいということで、ウクライナ産農産物を積み替えるトラックや貨物車両を各国が多く用意するなど、ウクライナ産農産物の迅速な輸送を優先的に取り組むことになりました。

もともとは東欧諸国を通じ、最終目的地としてアフリカなどへの輸出を目指しましたが、輸送がうまく進まず、結果として東欧諸国に滞留し、現地で販売されるケースが出てきました。ウクライナ産農産物は安価で価格競争力が強いため、現地の農産物を押しのけてしまうことになります。このため、東欧諸国の農家の不満が募っていました。

こうした現状に対応し、欧州委員会は2023年3月20日、東欧諸国の農家に対する支援策の第一弾として、5630万ユーロの拠出を発表しました。この時の対象は3カ国で、ポーランドが2950万ユーロ、ブルガリアが1675万ユーロ、ルーマニアが1005万ユーロでした。3カ国は最大でEUの支援額と同額を自ら拠出し、最大で1億1260万ユーロを各国の農家に支払うことになりました。

しかし、各国はこの支援策には不満だったようです。欧州からの報道によると、ポーランドとハンガリーが4月15日にウクライナ産農産物の輸入禁止を決め、スロバキアやブルガリアも追随しました。ウクライナと東欧の貿易紛争に発展しかけましたが、EUが第二弾の支援策を打ち出したことで、東欧諸国は取りあえず矛を収めることになりました。欧州委員会の説明によると、4月28日に支援策で合意すると同時に、各国は禁輸措置の撤回を約束したということです。

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