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ドイツ農家が大規模デモ 農業支援の縮小に猛反発

ドイツの農家が農業支援策の縮小に猛反発し、2023年末から大規模な抗議行動を続けています。2024年1月15日には首都ベルリンのブランデンブルク門で1万人規模のデモを行いました。ドイツ政府は発端となった農業支援策の縮小を見直し、譲歩する姿勢を示しましたが、農家は「不十分だ」と主張しています。環境規制の強化や農業資材価格の高騰など、農家を取り巻く状況は厳しくなっており、これまでにたまった不満が一気に爆発した格好です。極右政党がデモをあおっているとの指摘も出ています。
 
1月15日のデモでは、ブランデンブルク門の周辺にトラクターが約3000台、トラックが約2000台も押し寄せたとみられています。12月中旬に続く第二弾のデモとして、1月8日に始まりました。参加者は「農家への宣戦布告だ」などと書かれたプラカードを掲げて、抗議行動を続けました。
 
デモに参加したドイツ農業協会のヨアヒム・ルクビート会長はAP通信に対し、「増税案を撤回すれば、われわれは撤退する。われわれはドイツの重要な一部であり、それを忘れないでほしい」と訴えました。極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」がデモをあおっているとも報じられており、農家への支援が政争の具となっている側面もあるようです。
 
デモ隊の前に現れたクリスチャン・リントナー財務相は、ブーイングを浴びせられた後、当初案は「過大で性急すぎた」との認識を示し、修正したことを改めて説明しました。その上で、「ドイツの財政再建のため、農家が特別な犠牲を払う必要はない。あなた方の抗議行動は既に成功した」と語り、デモをやめるよう求めました。ドイツ農家には既に年90億ユーロの補助金が支払われているということです。
 
ドイツ憲法裁判所は2023年11月15日、新型コロナウイルス対策で使い残した600億ユーロの予算について、使途を変更して後の予算で使おうとした政府の対応を認めない決定を下しました。社会民主党(SPD)と緑の党、自由民主党によるショルツ連立政権が2021年12月にこうした方針を決めましたが、野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が不当だとして提訴していました。
 
裁判所の決定を受け、2024年度予算が170億ユーロの歳入不足に陥り、ドイツ政府は対応を迫られることになりました。そこでショルツ政権は12月13日、農業用ディーゼルや農業用車両の購入に対する優遇税制の削減を含んだ予算削減策を決めました。優遇税制がなくなれば、農家の税負担が増えることになります。
 
ドイツの農家は猛反発し、12月18日にトラクターなどでブランデンブルク門に押し寄せ、最初のデモを行いました。農家支援策の縮小には連立政権内でも異論があったようで、緑の党のジェム・オズミデル農業相もデモに参加しました。
 
オズミデル氏は、地元テレビに対し、「農家にはディーゼルに代わるものはない」と述べ、政権の対応を批判しました。さらに、「農家はわれわれに食料を供給してくれる。こうした削減はこのセクターに過度な負担を強いることになる」と訴えました。
 
予想以上の農家の反発を受け、ドイツ政府は2024年1月4日、農業支援策の縮小について、当初案を見直すと表明しました。農業用車両の購入を支援する優遇税制は現状を維持し、農業用ディーゼルに関する優遇税制は削減ペースを遅らせるという内容です。ディーゼル優遇税制は当初は2024年に撤廃する計画でしたが、24年は40%の削減にとどめ、25、26年に30%ずつ削減するということです。
 
オズミデル農業相は「われわれは、農業への過度な負担を回避する良い解決策を見つけた」とアピールし、理解を求めました。
 
しかし、ドイツ農業協会のルクビート会長は声明で「これは最初の一歩に過ぎない。われわれの立場は変わらない。両方の削減案を撤回しなければならない」と主張しました。ディーゼル優遇税制の削減は、延期ではなく、白紙に戻せということです。そうしない限り、デモを続けるということです。
 
若手農家の団体のトップを務めるテレサ・シュミット氏は1月15日のデモの集会で、「われわれは農業用ディーゼルの削減のためだけにここに来ているのではない」と述べた上で、「この数年や数十年、われわれは際限なくたたかれ続けてきた。ますます多くのことを要求され、厳しいルールや規制を課されてきた」と訴えました。
 
欧州連合(EU)の「ファーム・トゥー・フォーク(農場から食卓まで)戦略をはじめ、農業に対する環境規制の強化などに強い不満があることをシュミット氏はにじませています。別の農家は「われわれはますます多くのことを要求される一方、緩い基準で生産された外国の食料が大量に流入している」と指摘しました。
 
農業団体の代表者はこの日、与党3党の幹部と会って打開策を探りましたが、ディーゼル優遇税制の扱いをめぐって合意には至りませんでした。このため、要求が受け入れられるまでデモを続ける方針が確認されました。

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