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「GM作物でがんになる」論文のセラリーニ教授が敗訴

アライアンス・フォー・サイエンスによると、フランスの裁判所は2023年10月17日、フランス・カーン大学のジル・エリック・セラリ-ニ教授が自身の名誉を毀損されたとして3人のジャーナリストを相手に起こした訴訟で、セラリーニ氏の申し立てを退ける決定を下しました。

セラリーニ氏は、遺伝子組み換え(GM)作物による発がん性を指摘した論文で世界的に有名な研究者です。この論文については、是非をめぐって大きな論争が巻き起こり、最終的には問題が多いとして後に撤回されています。この論文が「詐欺的で誤解を招く」とするジャーナリストの主張を裁判所が支持したことで、論文の不当性が改めて指摘された格好です。「GM食品を食べたらがんになる」との主張が誤りであることが裁判によって裏付けられたことになります。

日本の食品安全委員会や農研機構などによると、セラリーニ氏は2012年9月、除草剤耐性を持たせたGMトウモロコシを2年間にわたってエサとしてラットに与え続けたところ、乳がんの発生などさまざまな悪影響が生じたとする論文を学術誌「Food and Chemical Toxicology (FCT)」に発表しました。これがいわゆる「セラリーニ論文」です。一部のメディアによって「GM食品を食べるとがんになる」と報じられたことで、反GM運動に火をつけました。

これに対し、食品安全委員会は同年11月、この論文について、「基本的な試験デザインを欠いており、結論を導くには不十分だ」との見解を公表しました。その理由として、試験に使ったネズミの数が少なかった点を指摘しています。国際機関からは、こうした試験を行う際には1群50匹以上のネズミを使うよう定められているのに10匹しか使わなかったということです。

さらに、比較のためにGMでないエサを与えたネズミが1群しか用意されなかったため、十分な比較ができないことも挙げています。もともと乳がんになりやすいネズミを使ったため、GMでないエサを与えた方にもがんになったネズミがあったということです。このため、GMトウモロコシが原因でがんになったかは分からないと指摘しています。

この学術誌には同年11月、セラリーニ論文の内容や結果の解釈が不適切だとする13本のコメントが掲載されました。欧州食品安全機関(EFSA)も日本の食品安全委員会と同様、「GMトウモロコシによる悪影響があるとは言えない」との見解を公表しました。こうした指摘を踏まえ、この学術誌は2013年12月、再めて検討した結果、同誌が求める科学的水準に達していなかったとして、この論文を取り下げました。

セラリーニ氏(本人のウェブサイトより)

これを受け、セラリーニ論文は「過去10年間で最悪の科学的欺瞞のひとつだ」とフランスのテレビ番組で酷評されるなど、厳しい批判を浴びました。セラリーニ氏はこうした報道によって名誉を傷つけられたとして、3人のジャーナリストにそれぞれ5万ユーロの損害賠償を求める訴えを2019年、パリの裁判所に起こしました。

これに対し裁判所は、ジャーナリストがセラリーニ論文を「詐欺的」と指弾したことについて、「多くの事実的根拠」に基づいていると指摘しました。その上で、ジャーナリストは誠実に行動しており、名誉棄損には当たらないとして、セラリーニ氏の訴えを退けました。

フランスの裁判所の決定を受け、米タスキーギ大学のチャンナ・プラカシュ教授(植物分子遺伝学)は「科学と言論の自由にとって素晴らしいニュースだ。詐欺のことは詐欺と呼ぼう」とツイートしました。プラカシュ氏はさらに、「GM作物が原因でネズミががんになったという詐欺論文は、ケニアやインドでGM作物を禁止することに利用された。セラリーニ氏は、これらの国の農家に生じた損害を賠償すべきだ」と厳しく批判しています。

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