私が地下アイドルのオタクになるまで

私は1年ほど前から、アイドルグループ「じゅじゅ」のファンになり、ライブに足繁く通っている。
いわゆる地下アイドルと呼ばれる、ライブ活動を中心にするグループで、ライブ後には「特典会」と呼ばれるチェキを撮る時間が設けられており、おどろくほど近い距離感で接することができる。

現在、NGT48の山口真帆さんに関する事件で、アイドル現場やそのファンについて、さまざまな議論がなされている。
けれど、独特な世界なので、実際の現場の空気は行かなければ分からないし、外野が想像だけで論じるのは早計だなと思う(もちろん、犯罪であり逮捕はされているので、内々だけで解決する問題ではないとは思うが。)
私だってNGTの現場の場合はどうか、と聞かれても、なにひとつ確かなことは言えない。
なぜなら、ユニットごと、界隈ごとに事情や常識はだいぶ異なるからだ。

そのため、「地下アイドル」を論じるのではなく、あくまで個人的な体験を書いていこうと思う。
まずは、私がいかにして地下アイドルにハマっていったか書くことにする。



◆「接触」への後悔

はじめてライブに足を運んだのは、2017年の11月。そのころの私は、精神状態があまりいいとは言えなかった。

理由のひとつは、好きなゲームの2.5次元舞台を見に行ったことだ。
2.5次元舞台を見に行くのは2度目にもかかわらず、最前席を当ててしまい、上演中至近距離で見つづけることになった。
半端な覚悟で行けねえ……と思った私は、劇中のライブシーンで掲げることが許されてるアイドルうちわを2週間くらいかけて作り、胃をキリキリさせながら当日を迎えた。


始まってみると、舞台と近すぎて、役者さんの顔から滴り落ちた汗が地面に落ちるまで見えるほどで、それだけで私のキャパシティを超えていた。

事件が起きたのは、最後の曲のラストの部分。
推しキャラを演じる役者さんが私の目を見ながら微笑みかけたのち、うしろへ捌ける、というファンサービスをしてくれた。

「ヤバイ!しあわせすぎ!もう死んでもいい!」

みたいに喜べればよかったのだが、役者さんの圧に根負けしてしまった私は

「ファンサしてくれたのに、いっぱいいっぱいすぎてぎこちない反応しかできなかった……もうこれ以上いい席なんて存在しないし、そんな座席が当たるのなんでもう一生なさそうなのに……もう一度あの瞬間をやり直したいし死にたい……」

と、おそらく二度とない体験であるうえ、俳優さんからしっかりと見られているにもかかわらず、ぎこちない反応しかできず、100%の感謝や喜びが伝えられなかった、という俳優さんに対する申し訳なさと、自分の行いへの後悔に苛まれていた。
嘘みたいな話だが、2週間ほど食事が喉を通らなかったのだ。
他人からすれば「そんなことで……」と思うだろうが、そのときの私にとっては一大事だった。



◆はじめての地下アイドル現場

そんなとき、たまたまTwitterで写真を見かけて一目惚れしていたちゅんちゃんが所属するグループ「じゅじゅ」が、入場無料のライブをすることを知った。
入場無料で、しかも単独ライブなら行きやすい、ということで、はじめてライブに足を運んだ。

場所は歌舞伎町のちいさなライブハウス。
もともとバンドが好きなので、ライブハウスには行き慣れていたが、ZEPPやBLITZ、LIQUIDROOMなどのおおきな箱しか知らなかったため、100人入れるかどうか、という箱に来たのははじめてだった。

ライブがはじまると、クラシカルな丈の長い衣装を着て、ハードロック調の 曲で激しいパフォーマンスする姿に、一気に魅了された。
ヴィジュアル系バンドに近いものを感じていたので、ファンがヘドバンしたりするのかと思っていたが、がっつりとアイドルのコールをするところに驚いたけれど、見ていくなかで順応し、拳を掲げて声を上げた。ひさびさに生きている心地がしたのだ。



◆はじめての「接触」

こんなに楽しい思いをさせてもらったのに、タダなのは申し訳ない、とよく分からないまま物販列に並びながら、たまたま前に並んでいた女の子にいろいろと教えてもらった。
物販、とはいってもバンドのそれとは異なり、グッツの販売よりもチェキ券の販売が主であること。物販でチェキ券を買ったのちに、各メンバーごとに列に並び、2ショットチェキを撮れること。

そうしてずっと写真で見ているだけだったちゅんちゃんと、はじめて顔をあわせ、あわあわとしながらライブの感想を伝え、ライブのさいごにあっかんべーとしながら捌けていった姿に胸を鷲掴みにされたので、ふたりでそのポーズをしながらチェキを撮ってもらった。


私は自分の顔が好きではないし、写真を見るのも嫌だったはずなのに、そのチェキに写る私はとても楽しそうで、何度も何度も見返したし、母や友達にも見せびらかした。
そこから私のアイドルオタク生活がはじまったのだった。


◆親や友達よりも会うことになったアイドル

地下アイドルはとにかくライブの頻度が高い。
それから一週間おきに、ライブを観に行くようになった。

3度目のライブで、顔を見るなり名前を呼んでくれるようになった。
「接触」というものにまだ不慣れだった私は毎回わたわたしていたけれど、毎回気さくに話しかけてくれるし、私がいちばん好きなバンドをちゅんちゃんも好きなことを教えてくれた。
今日言えなかったことがあれば、数日後に伝えられるよう心がけたらいい。
そのことによって、2.5次元舞台への後悔は浄化されたのだった。

くわえて、これは地下アイドル全般に言えるのだが、ファンのツイッターをよく見ている。
自分のファンをリストに入れて、ライブの感想から日常ツイートまで、気に入ったものにはいいねを押してくれるのである。
ツイッターでの発言が、次のチェキのときの話のネタになったりもする。
毎週会って話し、くわえてSNSもお互いに見ている関係、なんて社会に出てからは非常に稀有だ。

こうして、「アイドルとそのファン」というだけでなく、徐々に「よく会う友達」のような関係性へとなっていったのだった。

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