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第7回 リソグラフ・バイヤーズ・ガイド

 前章で述べた通り、自分で印刷機を買わなくとも、さまざまな公共施設でリソグラフでの印刷は可能じゃないか、と思われるかもしれません。また、10年前は難しかったかもしれないけれど、最近では各所にスタジオもでき始めてると自ら言ってるわけで、自分専用のリソグラフなんて必要ないんじゃないか、と思われるのも、確かにその通りです。
 しかし、自分がやろうとしていたことは、フライヤーを500枚印刷することでも冊子を1冊だけ作ることでもなく、「D.I.Y.パブリッシング」であり、その目標として考えているのは、

「300〜500部程度の冊子をできる限り安く、かつ面白く作りたい」

からなのです。えー、そうやったの? 知らんかった〜。いや、ちょっと曖昧にしか書いてないですよね、すいません。でも、ま、そういう感じ。で、そのためには、施設のリソグラフを借りる形ではできないことがたくさんあり、かなり多くの制約が存在するのです。何よりも、手に入れると何ができるか、まずは少しお話できればと思います。

具体的な購入動機

① 印刷の試行錯誤をしたい
 外部の印刷機を使用する際、時間的な制限がある場合が多く、印刷の仕上がりや精度を追い込むことができないということ。もう少し時間があったらもっと綺麗に印刷できるのに、と悔しい思いをしつつ、「簡易印刷だから仕方ない」と諦めることも少なくありません。それ以上に、何度かリソグラフを使った方はわかるかもしれませんが、結構キレイに刷るのにコツが必要、ということ。特にアート系の印刷を行ないたいと思った場合、トライアル&エラーを続けることで、ようやく作品性が生まれて来ると思います。

② 紙を自由に選びたい
 公共施設のリソグラフにおいて、場所によっては紙を持ち込んで印刷することはできますが、機械自体が紙詰まりしやすいため、ちょっと厚めの用紙だったり、独特の風合いを持った質感の用紙を試すことは難しいのです。また、紙ってめちゃくちゃ重いわけで、どんなに斤量の小さい紙であったとしても、束になるとかなりの圧。ガラガラを使って持っていったとしても、大きめのダンボール一箱で2、3,000枚くらいしか一度に持ちこむことはできないのです。

③ PCから直接出力したい

 2000年くらいまでのリソグラフは、コンピュータやUSBを経由してのデータ製版ができなかったのですが、それ以降の機種のほとんどは、デジタル・データでの製版が可能になっています。しかし、基本、公共施設でのリソグラフ使用は、PCから直接出力できない場所がほとんどです。それは、データで出力する際には、PCにプリンタ・ドライバを入れなければならず、かつそのオペレーションを理解/説明に結構手間がかかる、という理由かと思われます。そのためほとんどの公共施設でのリソグラフは、いまだフラットベットスキャナーを介しての使用に限定されているのです。また、スキャニング製版とデータ製版の印刷精度の違いは明らかで、線もぼやけることなく、文字もかなり小さく出力できるようになっています。

④ 印刷コストをより安く

 多くの場所で、1枚1円とはいえ、冊子等を制作するには、数千枚単位で印刷をしなければならず、部数次第では、グラフィック等の印刷所を使って、オフセット/オンデマンドで作る方が安上がりだったりすることが判明。もちろん仕上がりに違いはあれど、「冊子を安く作る」という目的から離れてしまう。ただ、自身で機械を持つことにより、印刷代は、印刷面積にも依るが、公称で0.1〜0.2円/枚とのこと。つまり公共の場所で印刷するものの1/10でできてしまうということ。もちろん自宅のプリンタやコピー機と比べても破格の値段です。


⑤ 2色刷りを試したい

 公共施設のリソグラフは、ほぼ黒1色の単色刷り機しか用意されていません。それもそのはず、公共施設のリソグラフは、アート作品や雑誌を印刷するために設置されているのではなく、例えば「地元の夏祭り!」だの「バザー始めます」だの「インコのチロちゃんを探して!」といった類いの印刷や、大量の資料や情報を伝えるため用意されているわけで、多色刷りでグラフィカルに見せる必要はないのです。しかし、現在の2色刷りリソグラフは精度が高く、単に2色同時の印刷以上の面白い作業ができます。これを使わない手はありません。

⑥ 多色刷りを試したい

 この部分も大きかったと思われます。リソグラフは、元々開発者である理想科学がインクの会社、それも水性と油性を混ぜ合わせたエマルジョン・インクを得意としていることもあってか、基本色として17色を用意している上に、オーダーで50以上のカラーリングが可能とのこと。また、金や蛍光色等、普通の印刷ではできないカラーを試すこともできるのです。多くの方が「リソグラフっぽい」というのは、この蛍光色等々を指していると思いますが、黒一色しか用意されていない施設では、これらを楽しむことはできません。さまざまな用途/表現のために、より多くのカラーを使った印刷を試してみたかったこともありますし、ここにリソグラフの可能性のひとつがあるのではないかと今も感じています。現在、新たに始まったさまざまなスタジオが、さまざまなカラーを用意して、それぞれのスタジオの個性になっている部分もあると思います。

 リソグラフ印刷が「D.I.Y.パブリッシング」の必須なわけではありません。当然ですが自宅のプリンタを使って行なうこともできるし、コピー機/複合機をベースにして作業を行なうこともできます(このあと、自宅プリンタやコンビニ・プリントで何ができるかもためしてみたいとも思っています)。ただ印刷枚数が500〜2,000枚程度におけるコスト面を鑑みると、圧倒的にこの印刷機に軍配が上がる、ということです。そして、それにかなうものは、現時点ではありません。
 ただリソグラフ印刷が安いのには理由があります。普通コピー機やプリンタを使う場合には、特別なオペレーションやテクニックを要しません。PCにドライバさえ入れれば、(ほぼ)思った通りの印刷物がそこに現れるのです。しかし、先に述べた通り、リソグラフは「印刷」でありながら「版画」でもあるため、1枚1枚刷り出しの仕上がりが異なると同時に、ちょこちょこと「わ、紙詰まりだ!」だの「ゲゲッ! インクが漏れてる!」だの「インクが掠れてる!」といった問題が起きやすい特性を持っています。「仕事で使うのにそれはないだろ!」と思わずにはいられないわけですが、だからこそ愛らしい……か? とにかく、こまめなメンテとある程度の経験で仕上がりが大きく違ってくるのです。

リソグラフを手に入れる方法① 【NEW】

 リソグラフを実際に手に入れる方法はいろいろあります。

 予算が潤沢にあれば、メーカーから最新機種を正規価格で購入するわけですが、新製品を正規で購入すると、スタジオを始める上でとんでもない初期投資になってきます。正直、機械はあくまでも道具、できるだけコストをかけずして本を作ろうとしているのに、ここですべてを費やすわけにはいきません。現在(2023年)の最新最上位機種のMH-935だと約190万円。確かに高額、しかし考えてみれば、それでも数冊本を作ってしまえば元は取れるし、印刷の真似事を始められるのですから、決して高くない金額でもあります。かつてのオフセット印刷や軽印刷でさえ、その何十倍もかけなければ、印刷の入り口にさえ立てなかったわけですから。
 ここ数年、リソグラフ・スタジオがたくさん産まれた理由のひとつに、コロナ禍の助成金や新規事業支援があります。自分はその恩恵にあずかってはいないのですが、新規事業を始めるにあたって、ちょうどいい経済規模なのではないかと思っています。その結果、スタジオが増えたり、多くの場所で機材が充実したことを思うとただただ良かったなぁ、と思わざるを得ません。また、ちゃんとした事業計画を立てられるのであれば、クラウドファンディングするにもちょうどいいかも。まぁ、お恥ずかしいことに、自分はそういう計画をなかなか立てられない&大きな責任を負うのが怖いというのもあります。なによりも「自分のできる範囲で、できることを」がモットーです。
 ま、自分たちも理想科学さんに「次こそは最新機種を買えるように頑張ります!」とは伝えてはいるものの、これまで手に入れてきた6〜7台ほどのリソグラフ、すべて中古で購入するという形を取らせていただいております。ホンットーに申し訳ありません!

 よく聞かれる話ですが、リソグラフはデジタル複合機等の低価格化もあり、一時期ほどの数ではないのですが、いまだ現役でしっかりと販売サポートされており、4年に一度くらいのペースでモデル・チェンジをしている堂々たる現行品です。それゆえに、製造国の日本においてはメーカー・サポートがしっかりとなされているので、さまざまな意味で安心です。また、それゆえにさまざまなOA機器の代理店がリソグラフを扱っています。

 実際、このようなOA機器において、「リース」という方式を用いるのが王道かもしれません。「リース」というシステム、今風に言えば「割賦制度」と呼ぶ方が親しみがあるかもしれませんが、高額の商品を期限付きで分割して支払いを行なうこと。「リース」のシステムに関しては、詳しくは知りませんが、途中で解約する場合に残債すべてを支払わなければならない「ファイナンス・リース」と、中途解約が可能でレンタルに近いシステムの「オペレーティング・リース」があります。これまで日本では「ファイナンス・リース」というリースとは名ばかりのローン・システムがメインでしたが、2008年の新リース会計基準適用改正により、ここ最近は「オペレーティング・リース」を導入しているOAリース会社が増えているようです。これに関して条件等がそれぞれのリース会社によって違うので、いろいろと話を聞いて判断スべきと思われます。現時点で先程のMH-935を6年契約でリースする場合は、ひと月30,000円以下でリースが可能なようです。最終的には6年後までに約216万で購入する、と考えれば、そんなに悪い契約ではないように思えます。

 また、これは裏技、というわけではないのですが、OAリース会社からのリースではなく、理想科学と直接相談することもできるかもしれません。現在いくつかのリソグラフ・スタジオは、理想科学と直接契約をしているとの話を聞きますが、その契約形態は、場所や担当者によってかなり異なるようです。また、学校等の公の施設であれば、特別の対応もあると思います。それゆえに、一度ダメ元で地元の理想科学の営業所と相談してみるのが一番良いのではないかと思います。僕が機械を購入した10年ほど前は、「アート仕様、セルフパブリッシング仕様のリソグラフ」と言ってもほぼ理解してもらえなかったのですが、今は結構興味を持ってくれる担当者の方もいると思いますので!

リソグラフを手に入れる方法② 【USED】

 中古のリソグラフは、日本国内であれば本当はめちゃくちゃあるはずです。ほとんどすべての学校や公の施設において設置されている(いた)ため、何万台という機材がリース期間終了によって中古機になるわけです。しかし、実際に出回っているものはかなり少ないのが現状で、その多くは、処分も含めてリースとセットになっているため、廃棄されるものが多数存在します。もしくは中古OA機器を取り扱っている場所において、ごく少量ですがメンテナンスを施した後販売される道を辿ります。最新機種を購入してほしいというメーカー側の気持ちも痛いほど分かるのですが、まだ十二分に使える機材をあえて廃棄する、というのは時代的にちょっと合わないのではないか……という綺麗事ではなく、棄てるなら安く売って欲しい、ただそれだけ望みます。

 リソグラフの中古は、さすがに何年間もガンガンに使っていたものはかなりへたってしまっているものもあります。ただ、今から15年以上前の機種であっても、細かなOSや印刷速度は違えども、基本的なシステムや印刷精度に関しては、現在の最新機種と大きくは違いません。いや、そんなことを言うと理想科学の方に怒られちゃうな。でも、本当にそう。MZシリーズ以前のインクドラムの形も大きく異なるRPシリーズ(2000年発売)でさえも、この機種からネットワーク・プリントに対応したこともあり、いまだ海外での多くのリソスタジオがこの機種を第一線で使っているのです。もちろん、それ以降の機種、MZ/RZ(2004年)→MD/SD(2010年)→ME/SE(2014年)に関しては、個体差は大きいのですが、能力的には十二分に印刷使用可能です。

 他の電子機材と同様に、中古の個体差に関して言えば、「これまでどの程度酷使してきたか」が一番のネックになります。前の使用者がどのような扱いをしてきたかは分からないのですが、特に中のインクドラムが回転して1枚1枚印刷するのですから、その駆動系の使用頻度に左右されます。どれだけ使ってきたかに関しては、筐体内にこれまで行なってきた印刷枚数のカウンターがありますので、これがひとつの基準となります。かつては200万回転(200万枚印刷)が限界と言われていましたが、自分が見てきた限りでは、丁寧に使用しているものであれば400万回転でも十分使えるようです。また、最近の機種に関しては、600万回転/7年で寿命とオフィシャルのQ&Aで伝えています。

 もう1点、中古を手に入れる際に注意したいのが、版を作る際に最も重要なパーツである「サーマルヘッド」の状態です。サーマルヘッドとは、マスターを製版する際に、デジタル・データからここで版に孔版印刷用の「孔」を開けます。この部分に関して、汚れている程度の場合は、アルコール等で拭き取れば問題はないのですが、時折残念ながらサーマルヘッドが傷ついてしまっていることがあります。このような状態では、版を作る際に縦にまっすぐ細い線(ブランク)ができてしまうため、思った通りの製版ができません。もちろんサーマルヘッドは交換が可能ですが、オフィシャルで交換してもらった場合、中古の購入価格と変わらないかそれ以上請求されるため、サーマルヘッドに傷が入っているリソグラフは購入しない方が良いと思われます。購入時に、一度完全ベタでの印刷をお願いしてみて丁寧に印刷をチェックしてみると、これらの傷が認識できる場合があります。お試しください。
 また、通常使用ではサーマルヘッドには傷がつくことはほぼないのですが、運送時にしっかりとこの製版部を固定せず搬送した場合、中で製版部が揺れて傷ついてしまうことが多発しています。リソグラフ専門の配送業者はこの固定方法を知っているため問題はないのですが、通常の宅配便や自分で車で運んだ場合には注意していただきたいところです。

 インクドラムに関しては、長期間放置されていたがゆえに、中でインクが完全に固着していることも少なくありません。このような状態に関して、メーカーにメンテナンスをお願いした場合は数万円の費用が求められます。ただ、多くの場合、一番外に取り付けられているスクリーン部は交換するしかない場合がありますが、それ以外に関しては、一度分解して、丁寧に灯油もしくはパーツ・クリーナー等を使うことで、ほぼ固着したインクを除去することができます。中古のリソグラフを購入した場合、まずこれらのクリーニングをすることが重要かと思います。このクリーニングに関しては、また追って説明させていただければと思います。

 そして次回は、実際に自分がどうやってリソグラフを手に入れたのか、そして当初、どれだけ大変だったのか、について、お伝えできればと思います。

 

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