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まもりますか

「部下が恥ずかしそうにしていたよ」

打ち合わせが終わって外に出ると真っ暗。
チャリで仕事場に戻ろうと走っていると、ふと一軒の店が気になりました。

緊急事態宣言下で、並びの飲食店が休業中で灯りが消えているせいか
間口の狭い入口から漏れる灯りに思わずチャリを止めました。

中をのぞくとエプロン姿の初老男性がゴルフのクラブを手にしています。
ゴルフショップにしては狭いし、中も雑然としています。看板には「修理」の文字。

普段なら決して気にならない店。ゴルフに興味ないわけではありませんが、打ちっぱなしに一回いった程度で、ほぼ縁がありません。ただ、最近ゴルファーの映像コンテンツ制作を手伝うようになったので、きっと脳のRAS(網様体賦活系)が働いたのでしょう。

おそるおそる店内に足を踏み込み、小声で声をかけます。「こんばんは」

用もないのに入ってしまったため、用件を訊かれる前に「自分はゴルフド素人でただ気になったからのぞいた」ことを正直に伝えました。

「ゴルフの修理って、どういうことですか?」

「シャフトを入れ替えるとまっすぐ飛ぶんだよ」

ゴルフボールって、まっすぐ飛ぶかどうかは、腕だけでなくクラブの性能も大きいといいます。って、こんなことおそらくゴルフをやっている人にしたら、至極当たり前のことでしょうが、なんせ素人なもんで、「へぇ~」と唸ってしまいました。

看板に修理と掲げているから、クラブが曲がったり折れたりしたら頼むかと思いきや…

「そこにあるの、新品のセット。全部直すから1週間くらいかかるよ」

新品のクラブを直す? 意味がわかりません。

ご主人によると、ゴルフクラブは見た目が同じでも一本一本、シャフトがバラバラで調整が必要といいます。

修理を待っている一本を例に見せてくれました。専用台にクラブを横にして固定し、ヘッド(ボールが当たる所)を指で弾きます。すると、ヘッドが上下に揺れ出したと思ったら、徐々に回転を始めます。

「これ、回っちゃうだろ。」

続いて、修理したクラブでやってみるとヘッドは回転せず上下運動のまま。

「おお!本当だ!すごい!」

一目瞭然、わかりやすいビフォーアフターに感動していると

「このあいだ◯◯(メーカー)の◯◯工場の連中が見に来たんで、これ(ヘッドが回る様子)を工場長に見せてやったんだよ。」

どうやら、この修理屋さんは業界でも知られた場所らしく、有名ゴルフメーカーの製造工場からも視察に訪れるといいます。(本人談)

あるメーカーの営業マンが製造工場の工場長を連れてやってきた時のこと。

ご主人はヘッドがくるくる回るのを工場長に見せながら「これだから真っ直ぐ飛ばないんだよ」と説明したところ、工場長は「何がいけないんですか?」と、理解できていなかったといいます。

その様子を見ていた部下たちは「わかっていない上司」に恥ずかしそうだったそうです。

ゴルフメーカーが目指しているのは、セットのクラブ、見た目が揃っていること。並べたとき、シャフト表面のデザインが均一であることの方が重要。

そのため、くだんの工場長はヘッドが回転するクラブが本来はNGであることを理解できていなかったというわけです。

ご主人が手直しするのと同様、シャフトを調整してから表面加工を施せばと
思いますが、大量生産するには工場のラインから作り直さなければならないのでしょう。

確かに、見た目は大事。でも、中身が的を射ていないのだったらどうでしょうか?普通の人はどうでもいいのかな。

売っている野菜や果物も同じ。ちょっとでもサイズが違う、傷がついている、虫に食われた箇所があるといったものは、市場に出荷されないといいます。

その基準って誰が決めたのか。売る側?買う側?

自然に実るものは、人間の都合なんて考えずに実るものだから無理に整列させるのもどうなのでしょうか。

だいたい虫が食うってことは、本能的に「コレは美味しいぞ」ってわかるからじゃない?だから多少虫が食っている方が甘かったりするかも。

みかんは、表面に傷がついている、色焼けしているものは、選別されてしまいます。しかし、みかんは太陽の光がよくあたる外側になっている方が美味しいそうです。

でも外側って、風をうけるから葉っぱと実が擦れて傷がつくもの。だから本当は美味しい実が売り物にならなくなるというジレンマが起こります。

見た目は大事。人の第一印象は見た目が9割。とか言って、見た目に騙されないよう見抜く目を養うことも大切。服装がきちっとしていても、なんか胡散臭い人っていますよね。詐欺師って、服装を整えている傾向にあるような。(個人の感想)

余談ですが、自分は今までに本物の詐欺師に2回出会ったことがあります。「本物」の定義は、詐欺罪で捕まった前科があるという意味です。前科の事実はのちのちわかったことですが、会ったときはもちろんわかるわけありません。ただ、身なりは整っていたし、高そうな時計をしていた記憶があります。そのうち一人は、数年後に再び塀の向こう側に行ってました。

かといって、あしからず高そうな時計をしている人すべてを巻き込むつもりありません。統計をとったら、高そうな時計をしている人のほとんどは、まっとうかもしれません。

目利きって、経験を積むしかないのでしょうか。わからないときは直感に頼るのがいいかもしれません。直感って、人間の生命維持装置のようなものだから誰にでも備わっています。

仕事でAかBかで迷ったとき、だいたいどっち選んでも結果は一緒だといいます。何かの実験で、2択で迷って1時間考えたとしても86%は、最初にピンときたものを選ぶといいます。ということは、迷うくらいならその1時間を他のことに使った方が有益かもしれません。

話がフェアウェーから離れていくので、一旦ティーグランド(第1打を打つスタート地点)に戻します。修理職人のご主人によると「自分は悪いクラブは悪いとっきり言うからゴルフメーカーからすると嫌な存在じゃないか」と言います。なので、ホームページも無いし、メディア取材も受けないといいます。

では、お客さんはどうやってご主人の存在をしるのかといったら、ほぼ100%口コミだそうです。ある外国人選手のゴルフクラブも手直ししているそうです。有名選手は、スポンサーのメーカーから道具を提供されています。しかし、新品とはいえ、ヘッドがクルクル回るようでは勝てません。選手は個人的にご主人に調整を依頼しているそうです。

その外国人選手が大きな大会で優勝した際、メーカーが祝勝パーティを開きご主人も招かれたそうです。メーカーが招いたのか、選手が招いたのかわかりませんが、自分は黒子なので前に出ることはないそうです。

メーカー主催の祝勝パーティですから「我が社のクラブを使って優勝した」と謳う仕組みだそうです。

一本一本、手作業でやるので時間がかかるという職人技。使う人によって結果が変わるものだから、アナログで作るのがいいのかも。

職人臭が強い話は個人的には大好物です。ついご主人の武勇伝に聞き入っていたら閉店のお時間。店じまいしながらも話し続けます。店頭のワゴンなど重そうなものの移動を手伝おうとしたら「いいよ、順番ってのがあるから」といいます。

職人はルーティンも守るんだな。だからこそ職人になれるってものか。noteも毎日アップしないとな。


沖縄出身のお笑い芸人さんが命名してくれたペンネーム/テレビ番組の企画構成5000本以上/日本脚本家連盟所属/あなたの経験・知見がパワーの源です