見出し画像

あふれますか

「かわいいよ~!」

あちこちから、野太い声援が飛ぶ。80年代に一世を風靡したアイドル3人が4年ぶりのステージで輝いていた。

アリーナ席では、永遠の少年(少女)ファンが目をキラキラさせて見つめている。こちらもほっこりしながら、後ろの方から余計な心配をした。

力を込めて振るサイリュウム…

「おいおい、そんなに振ったら、明日、肩が上がらなくなるよぉ。」

アイドルコンサートでお約束の、デコデコキラキラの扇子…

「手作りしたんだろうな。キンキラのモールは、どこで買ったんだろう。ドンキかな、100均かな?結構時間かかったんじゃない?」

会場で買ったばかりの限定グッズセットで身を固めている人…

「保存用とプレゼント用に、あと2セット買っておいたら?」

かつてヒットチャートにぎわせた曲がてんこもり。全員一丸となり、総力戦で声援を送る。

コンサート中、昔だったら、ステージ上から「みんな、立って~!」と煽るところだが、時折「そろそろ座ろうか、水分補給しておこうか」を、ファンを気遣ってくれる。最後まで突っ走れるかは、ファンの体力次第だ。

優しい彼女たちは、すぐに涙ぐむ。1曲目に登場した時から客席の風景を見て、涙腺が緩みっぱなしだという。

曲と曲の間のMCタイム。「もう、いい歳なんで、すぐ泣いちゃうのよ。」と一人が言った。すると「私なんて、最近、ニュースを見ていても泣いちゃう。」「そうそう!私も!」と盛り上がる。

AKBとか坂道系のコンサートでは見られない盛り上がり方だろう。行ったことないけど。

後半では、ひとりが泣きはじめ、歌が始まらなかった。泣き終わり待ちだ。
歳を重ねていくと、涙もろくなる。

涙は、悲しい時だけでなく、嬉しくても出る。感情が揺さぶられた時だ。

嬉しいというポジティブな感情と反するように思われるが、高ぶった感情を抑えて、均衡を保とうとする作用という説がある。

さらに、スポーツの試合などで勝者が感涙している姿を見て、涙が出ることがある。これは、他者への共感。

涙腺決壊には、「感情抑制」と「共感」が絡んでいる。

脳で、感情抑制をつかさどっているのは前頭葉だが、老化で最も早く機能低下が起こり始める部位でもある。

歳を重ねて経験値が高まり、共感力が鍛えられ、他人に起こったことでも自分ごとのように共感しやすくなるが、並行して、感情抑制力が低下していくので、コントロールが効きにくくなり涙が流れやすくなるという仕組みだ。

アイドルたちは、しきりに年齢の話をしていたが、ファンにしてみれば、青春の日々に帰れる、タイムマシンのような空間だから、できれば歳の話は控え目にして欲しいと思った人もいるかもしれない。

コンサート中、自分にとっては、「歳を重ねると涙もろくなる問題」よりも、もっと「なるほど!やっぱりな!」という、発見があった。

開演前、入場待ちの列を見て、女性アイドルのコンサートにしては、割と綺麗めな女性が目についていた。但し、大柄な人が多い。中には自分より背が高い人もいる。何人か見て思った。女性として誇張気味のルックス。そうか、そうだったのか!

以前、はるな愛さんが言っていたことを思い出した。「子ども頃、毎日松田聖子さんを聴いて、振りマネをしていた」 新宿二丁目界隈で、松田聖子さんは時代を超えて絶大な人気を博しているという。「ぶりっ子」と揶揄されたこともある、あの「女の子、女の子」した仕草は、憧れの的なんだろう。

さらに蘇った記憶。アーティストのMISIAがデビューして間もなくの頃だった。あるタレントさんのスタイリストさんから、MISIAのライブがあるから行かないかと誘われた。今はもう無くなってしまったが、新宿の歌舞伎町にCODEという500人くらい入る大箱のクラブがあった。その日は、イベントのゲストとしてMISIAがライブを行う予定だった。

中に入ると、すでにたくさんのお客さんで賑わっていた。はじめは、「MISIAって、男性に人気なんだな~」くらいの印象だった。実際、会場を一周してみると、男性ばかりだった。

ライブ中は、通勤ラッシュのような押し合いへしあいぶり。フロアの群衆は、右へ行ったり左へ行ったり。その際、足を蹴られたり、踏まれたりしたのだが、相手がとても丁寧にあやまってきた。「MISIAのファンって礼儀正しいな」と思った。さらに、後方ではステージが見えにくいので、背の高い男性が、小柄な男性を肩車しているペアが何組かいた。「MISIAのファンって、思いやり精神なんだな」などと、のんきに思っていたが、終演後、そのイベントがゲイナイトであることを知って膝を叩いた記憶がある。

確かに、世界では、大ブレイクのカギって、ゲイカルチャーの支持を受けるかどうかが大きい。いわゆるゲイ・アイコンになるかどうかだ。

レディ・ガガ、ケィティ・ペリーをはじめ、マドンナ、マライアキャリー、ブリトニー・スピアーズなども、ゲイカルチャーで火がついたともいわれる。なので、アイドルのみなさんは、ゲイのファンを大切にしていると聞く。重要顧客だ。

マーケティングの話でいうと、日本ではおよそ8%がLGBTを公言しているという。市場規模は6兆円。NHKの調査によると、LGBTの中でもカミングアウトしていない人が、6%以上いるそうなので、市場規模はさらに大きいのだろう。


コンサートに来ていたファンの中には、綺麗系だけでなく、マッチョだったり、無駄毛のお手入れが行き届いたホットパンツの方、友達同士、揃いのピアスをつけている人など、さわやか系の方々も多くみられ、納得した。

アイドルの3人がステージで涙ぐむ姿には、すっかり心が温まった。しかし、自分ももらい泣きするまでには至らなかった。前頭葉の感情抑制機能は健在だった。

そして、ステージの終盤、アンコールの曲が流れているとき、ふと左の方を見ると、同じ列に見覚えのある顔が目に飛び込んで来た。ひさしの大きな帽子を目深にかぶっているから正面からでは誰だかわかりにくい。しかし、真横からだと横顔がはっきり見える。元・国会議員の女子プロレスラーだ。

曲に合わせ、かすかに体を揺らしている。そして、帽子のひさしからのぞいた目じりにキラりと光るものが。この曲に思うところがあるんだろうな…

柔道家として世界選手権でメダルを取り、その後、柔道界とは距離をとり、プロレスの世界へ。さらに、政界にも進出… 今は、何をしているんだろうか。

目じりに光るものを見て、思わずもらってしまった。不覚にも涙腺が緩んだ。アイドルのお三方には申し訳ないが、自分の涙腺決壊ポイントは意外な場所に潜んでいた。フォール一本。秒殺だった。

沖縄出身のお笑い芸人さんが命名してくれたペンネーム/テレビ番組の企画構成5000本以上/日本脚本家連盟所属/あなたの経験・知見がパワーの源です