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Trieste

あれこれ沈思しつつメディアの波に身を投じていると、心の琴線に触れる詩にめぐり合った。
イタリアの詩人ウンベルト・サーガが、その生地であるトリエステ(Trieste) を謳いあげた詩。

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Trieste (トリエステ)

Ho attraversato tutta la città.
Poi ho salita un'erta,
popolosa in principio, in là deserta,
chiusa da un muricciolo:
un cantuccio in cui solo
siedo; e mi pare che dove esso termina
termini la città.

町をざっくり横切って
急峻な坂道を登れば
軒先ひしめく合う箇所もあれば
がらんとした場所もあり
やがて低い塀に囲まれた
ちょっとした場所に
わたしは一人腰掛ける
塀の終わる場所はまさに
町の終わる場所なのだ

Trieste ha una scontrosa
grazia. Se piace,
è come un ragazzaccio aspro e vorace,
con gli occhi azzurri e mani troppo grandi
per regalare un fiore;
come un amore
con gelosia.

トリエステには無愛想な優しさがあり、
この町を気に入れば
まるでそれはプレゼントの花束には不似合いに
大きすぎる手と、碧い目をした
気難しく気性の荒い不良少年のようだ。
まるでジェラシーに満ち溢れた恋心のようだ。

Da quest'erta ogni chiesa, ogni sua via
scopro, se mena all'ingombrata spiaggia,
o alla collina cui, sulla sassosa
cima, una casa, l'ultima, s'aggrappa.

この場所から見れば、どの教会もどの道も
雑然とした海辺か、もしくは
町の天辺に立つ家が、なんとか張り付いている岩山か
そのどちらかに通じている。

Intorno
circola ad ogni cosa
un'aria strana, un'aria tormentosa,
l'aria natia.

どこにもかしこにも
一風変わった空気が、苦味を帯びた空気が
この町独特の空気が満ちている。

La mia città che in ogni parte è viva,
ha il cantuccio a me fatto, alla mia vita
pensosa e schiva.

どの街角も生き生きとしたこの私の町には
哀愁を帯び恥じらいに満ちた私の人生のための
ちょっとした場所が用意されている。
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秀逸なリズムとライムを持つこの原文の詩に下手な訳を入れることなど無粋きわまりないことなのだが、敢えてその愚行に及んでみることにした。

トリエステは北イタリアの東端、スロベニアとの国境にあるアドリア海に面した港町。数年前にクロアチアで夏の休暇を過ごした際、スロベニア側からトリエステまであと3キロという地点まで車で行ったことあるのだが、時間の関係で越境してトリエステに至ることはなかった。

背後には山地が迫り、その山地と海の間あるわずかな土地に帯状に町が伸びる。坂道は急峻で、そのどの地点どの時点で振り返っても、家々の屋根と紺碧の海がかならず見渡せる。

そんな雰囲気の町に、ゲルマン、スラブ、ラテンなど様々な文化が衝突し醸成された一種独特でちょっとツンとした、しかし無愛想ながらも包容力もあるそんな空気が漂っているのだろう。

なんと、まさにそれはわが町神戸の景色、かつての神戸の空気ではないか!

冬の名残がすっかり消えて、草木が芽吹くほどに風が凪いだら、
萌黄の館の裏手にある砂防ダムの堰堤あたりに腰掛けてサーガのこの「トリエステ」を朗読すれば大阪湾でさえ、紺碧のアドリア海に見えるかも知れないな。

もちろんイノシシには気をつけながら。

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