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ライターの僕が本気で取り組んでいる、文章力を鍛えるためのアホな試み。

ほぼ毎年、エイプリルフールが来ると、普通に書いたら「そんなことあるかい!」とツッコまれそうなネタをFBに投稿する。

毎回意識しているのは、いかに4月1日だということを忘れて没入して読んでもらえるか。その結果、どれぐらいの人が信じてくれるか。

4月1日が来ると、エイプリルフールが来た、そう簡単に騙されないようしようと警戒する人も多いだろう。その壁を突破するために特に重要なのは、文章の世界に引きずり込むことだと思う。

引きずり込むとは、読み始めた瞬間から「この後どうなる!?」と先が気になって仕方がない展開にして、読後にも余韻を残すという意味だ。

そのために必要なのは、言葉によって読者の想像力を喚起すること。一節読み進めるごとに、まるで映画を観ているかのように、次々と脳内にイメージが湧いてくる。次の展開が気になって、貪るように読んでしまう。そういう文章が僕の理想だ。

これは映像にはない文章が持つ最強のパワーで、小説でもノンフィクションでも、没入感のある文章に出会うと、脳みそにスイッチが入ったようにページをめくる手を止められなくなる。読書好きの人には共感してもらえると思うけど、これが病みつきになる体験なのだ。

そういう文章は小説家の専売特許ではなくて、ライターにも必要だと思う。「読み始めて、読み進めて、読了して、なにかを感じてもらう」というゴールは、小説家もライターも一緒だ。

没入感のある文章を書くトレーニングをするのに、ウソをついても非難されないエイプリルフールはもってこいである。

ありえないようなウソを書いて信じてもらうためには、自分の想像力をパンパンに膨らませて、そのイメージを損なわないようなリアリティのある言葉を選ばなくてはならないし、友人知人のコメントなどで成果もよくわかる。

ちなみに僕は事前になにか準備したり、書いた後にじっくり推敲したりはしない。4月1日、その日に思いついたことを一気に書き上げて、アップする。その分、脳みそをフル回転させなくてはならないから、いいトレーニングになると思っている。(毎回だいたい1時間ぐらいかかる)

今回は↓のネタを投稿した。テーマはエイリアン。ありえない設定だから、はいはい、と読み飛ばした思った人もいると思うけど、大丈夫?と心配してくれるコメントが12個ぐらいついて、なかには本気で「腕を切り落とすことになるよ」と忠告してくれた人もいたから、自分としてはまずまずの出来。でも、もっと怖くできたはず。

思いつくままに書いているので、楽しんでもらうというより気味の悪い読み物になったこと、心配させるような内容になったことは反省。来年は、違うテイストにしようと思います。それでは以下、お楽しみください。

数カ月前、まだ上下半そで短パンの時期にマイベイベーが道端で小さな卵を拾った。調べたところ鳩の卵のようだった。フェイスブックにも投稿したから、憶えてる人もいると思う。

鳩の卵の孵化は難しく、素人がやろうとしてもたいてい孵らないと書かれていた。難しいことはできないので、「万が一でも生まれてきたらいいなあ」とベランダの植木の土の上に置いておいた。

それからしばらくして、気づいたら卵自体がなくなっていた。カラスが持っていっちゃったかな。たいした思い入れもなく、卵の記憶は薄れていった。

数日前、マイベイベーが植木に水をあげている時に、パパ!見て!と嬉しそうな声をあげた。なに?とのぞきこんだら、エアコンの室外機の裏側に、卵が転がっていた。

目を疑った。マイベイベーの手のひらに乗るぐらいだった卵が、マイベイベーのこぶしより大きくなっている。しかも、白かった卵が灰色と濃い緑が混じったような不思議な色になっている。

マイベイベーが指で触ろうとしたので、とっさにダメ!と言って止めた。ビクッとしたマイベイベーが、怒られたと思ったのか、顔をゆがめて泣きそうになった。

パパが見てみるから、と言い、人差し指で慎重に卵に触れると、ペコペコしている。気味の悪い触り心地で、思わず、うわっ、という呟きが漏れた。

ひっくり返してみようと、少し力を込めて卵を突くと、微かに「ベチャッ」という音がした。裏側が割れていて、なにかが割れ目から飛び出している。大きなクモの足のように見える。

マイベイベーに、「お部屋の中に入ってなさい」と言うと、不服そうに「なんで!?」と口を尖らせた。いいから入ってなさい!と、小さな体を部屋の中に押し込み、ベランダの窓を閉めた。

「出てきちゃだめだよ!」という言葉が思わず強くなる。
ただならぬ雰囲気を感じたのか、マイベイベーは真面目な顔になって頷いた。

恐る恐る、卵に向き直る。なかに何が入っているのだろう。
怖いものみたさもあって、もう一度、指で突いてみることにした。卵は微動だにしない。でも、怖い。明らかに、鳩じゃない。

そーっと指先を近づけていく。

あれ? 一本だけ卵から飛び出しているクモの足のようなものが一瞬、微妙に動いた気がして、指をひっこめた。指を止め、しばらく見つめる。動かない。風に吹かれて揺れただけかもしれない。

また、卵に向けて指を伸ばした。カサカサ。クモの足のようなものが、卵のからを引っかくように動く。
……生きてる? と思った瞬間だった。

ギェピーッ

卵の殻が一気に割れて、奇妙な音とともに、なかから何かが弾け飛ぶように出てきた。そしてそれは、僕の左手の人差し指の先に巻き付いた。突然の事態に、声が出ない。

色はクリーム色で、クモというよりカブトガニのような見た目だけど、尻尾らしきものが生えていて、それが異常に長い。しかも乳白色だ。

慌てて指先を振る。とれない。むしろ、絞り上げるように尻尾が指先に巻き付いてくる。なんとか振り払おうと、右手で身体をつまむ。妙に柔らかい。気にせず、一気に引きはがす。

ギェピーッ

この異常な生物の鳴き声だとわかった。身体が少しずつ浮かびあがってくる。でも、尻尾が離れない。いてっ!尻尾の先にある針状のものが僕の指先の皮膚に突き刺さっている。

ゾわぞわぞわと全身に鳥肌が立ち、僕は身体を持った指先に力を込めた。

ギェピーーーーッ

ブチブチっという感触とともに、尻尾と身体がちぎれた。身体を足元に叩きつけ、踏みつけて、ぐりぐりとつま先を動かす。同時に、先っぽが僕の指にのめりこんでいる尻尾を引き抜いた。鋭い痛みが、神経を刺激した。

引き抜いた尻尾が、クネクネとまるで意志があるように動いている。気味が悪くなり、また足元に放って、念入りに踏みつけた。

足を退けると、その生き物はぐちゃぐちゃになり、形を失っていた。急いで部屋に引き返し、空のペットボトルに水を入れて、排水溝に流した。

……あれはなんだったんだろう。

調べてみても、似たような虫や生物は見当たらない。
一瞬の接触だったから、記憶も曖昧だ。でも、あの体験は夢や幻じゃなかった。左手の人差し指を見ながら、そう思う。

刺されたところが、プックリと卵型に腫れ始めたのは数日後だった。

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