昔勤めていた会社は、いかにも「会社」という感じで、私もサラリーマンらしく働いていた。

ある年に事業部単位で行う大きな忘年会があり、場所は結婚式の二次会でも使えそうな、華やかな銀座の会場。
若手から30歳ぐらいの先輩までが忘年会の運営をすることになり、私もそこに加わった。

偉い人の話を聞き、乾杯をし、円卓で食事をする。その流れの中に、ちょっとしたゲームが挟まれていた。色々なクイズを出題して、円卓ごとに回答をするというもの。正解が多かったテーブルには賞品が用意されていた。

基本的にクイズは「役員の◯◯さんの趣味は何でしょう？」といった、これまたサラリーマンらしい内容だったのだが
その中に「部長以上の幹部に人気なAKBのメンバーは誰でしょう」という問題があった。当時AKB総選挙が盛り上がっていたので、これについては面白いと思った。役員個人の趣味よりよほど興味がある。
AKBのクイズは事前にアンケートが必要なので、それを当日の受付時に行うことになった。

そして、私は会場の受付担当に。
普通の社員は普通に受付。来た人の名前を線で消していく。偉い人が来たらこう聞いた。

「部長お疲れ様です。あ、この中で好きなタイプ誰ですか？」なんちゅー唐突な質問だ。

残念だが人数を絞らないとバラけるので、前田敦子、大島優子、篠田麻里子、小嶋陽菜の4人の中で選んでもらうことになった。峯岸みなみや柏木由紀が好きでも認められない。
名前だけでなく顔写真付きの資料も用意した。おじさんは名前と顔が一致しないかもしれないので。

まずは1人目。
「篠田麻里子やな〜」

なるほど、たしかにこの人はクールな女が好きそうだ。ふむふむ。

続いて2人目。
「篠田麻里子」

3人目。
「篠田麻里子」

4人目。
「篠田麻里子」

5人m（以下省略）

20名ほどにアンケートをとった結果、なんと9割以上が篠田麻里子と答えたのだ。
ちなみにお偉いさんに関西人が多く、一人一人見ていくと「たしかにこの人篠田麻里子が好きそうだな」と思った。当時の篠田麻里子は『上からマリコ』という曲を出すぐらいだし、クールで自立していそうなイメージ。偉い人はああいう自分に媚びなさそうな女が好きなのだろうか。

クイズで正解発表をすると、篠田麻里子の圧倒的な強さに会場もざわついた。この日の宴会のことはこれしか覚えていない。思い出ってそんなもんだ。どこに行って何もしても、1日のことを丸々覚えてるなんてことはなくて、大抵印象的なところだけが残る。篠田麻里子がいなければこの日のこともすっかり忘れていたことだろう。ありがとう篠田麻里子。