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聖樹

児童養護施設で働いていた頃、クリスマスが近づくと、子どもたちと一緒にツリーに飾りつけをしました。

倉庫にある、「クリスマス関係」とラベルのされた段ボール箱を開けると、代わり映えのしない、少しくすんで、曲がった飾りたちが押し込まれていました。

家庭で不要になって、寄付されたクリスマスツリーたち。行き場を失った者同士が出会うみたいで、少し切なかった。

小学生でも、高学年になると、さすがに白けモードでしたが、小さな子どもにとっては、クリスマスは楽しいイベントでした。

わたしも子どもと一緒に飾りつけをしたり、寄付された洋服をリメイクして、クリスマスパーティーで着るドレスを作ってやったり、忙しい日々を過ごしたもんです。

そんな児童養護施設の思い出の中でも、特に忘れられないのが、地元の企業から送られる沢山のクリスマスケーキです。

子どもも職員も、なんと一人3個から4個がノルマと課せられる数のケーキが送られてくるのです。しかも、毎年。

これでは、子どもたちに感謝の気持ちが生まれるはずもありません。貰う側の気持ちとか事情は置き去りです。

施設長たちと相談、翌年からは子どもたちの意見を参考に、図書券や文房具などの寄付に変更してもらいました。

今年もあとわずかです。クリスマスの時期になりましたので、それらしい俳句を詠んでみたいと思います。


折り紙の飾りで彩る聖樹かな

まるで七夕祭りと見紛うようなお手製の飾りには、苦笑したもんです。新しい飾りを買うことができず、子どもたちが折り紙で工夫をしていました。

それでも、暗くなって、ライトを灯したクリスマスツリーは綺麗でした。


手作りの聖樹の下の贈り物
午前零時聖樹の下の贈り物

子どもたちの手作りの聖樹の下には、子どもたちが就寝した後に、職員が贈り物を置いたものです。

それを知っている子どもたちは、夜中にこっそりと覗きに来ては職員に叱られて、はしゃいで部屋に駆け戻っていました。

「聖樹の下の」「聖樹の下に」、助詞の使い方によっては、誰の視点の俳句か違ってくるように思います。子ども目線で詠みました。


遠くから幼き聖歌「星の世界」

「星の世界」は讃美歌ですので、もしかして季重なりとなるのでしょうか。

遠くの方から、可愛い子ども聖歌隊が歌う「星の世界」が聞こえてきましたよ、という俳句です。


讃美歌の声の揃ひて病室に

ところで、看護学生の時、クリスマスが近くなると、有志の学生が讃美歌を歌いながら、希望する人の病室を訪問しました。

お仕着せは嫌いなわたしでしたが、受け持ち患者さんに「待ってるから」と言われると、まさか参加しない訳にもいきません。

ド音痴なわたしは、厳かな口パクで参加した次第です。それでも、彼女は喜んでくれて、こっそりと「おひねり」をくれました。

おっと、ここで俳句の先輩からアドバイスがありました。

自分のやや抵抗のある、心の部分が少しでも見えないと単純な句に聞こえてしまいます。「連れられて」とか「口パクで」とか入るといいのかな、、と。フムフム。

ということで、一句。

実習の夜口パクの聖歌隊


聖夜の記憶、それは全てが楽しいものばかりではありません。でも、忘れられない聖夜があります。それは、スペインのサラマンカにある病室で過ごした聖夜です。

初めてのスペイン。初めてスペインで迎える聖夜。めちゃめちゃ楽しみにしていました。まさか、病室で迎えるなんて(苦笑)。

それでも首の手術をして、牽引していた錘が取れて、ギャッジ座位が取れるようになっていたわたし。語学学校の仲間や先生、バルの飲み友だちたちが、聖樹と食べ物を持って、お見舞いに来てくれました。

クリスマス前に、退院ができる人は退院していたので、病室にはわたし一人でした。

小さな聖樹を飾り、彼氏のギターに合わせてクリスマスソングを歌って、特別な夜を過ごしました。

医者や看護師が怒らないかって?

夜の9時過ぎに、看護師がワゴンを押して、「珈琲?それとも、オレンジジュース?」とクッキーとドリンクの夜食を配るような病院です。憐れな日本の女の子を囲んで、彼らも一緒に聖夜を祝ってくれました。

まあ、女の子という年齢ではありませんでしたが、20才を過ぎた辺りでグッと大人っぽくなるスペイン女性から見ると、おぼこい女の子でした


讃美歌の声とギターの病室よ

この讃美歌の句、詠んだものの、下五が一文字足らず、とりあえず「よ」をつけました。どうも困った時に感嘆したくなる癖があるようです。

でも、俳句の先輩のアドバイスがあり、次の句となりました。

賛美歌とギターと友の病室かな

やはり、友だち(友)が入ると、病室でギター伴奏に、友だちと歌った讃美歌がありありと思い出されます。

最後にもう一句。こちらは俳句の先輩の合格点を頂きました(笑)。

サラマンカ聖夜の病室ギターの音