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ストラスブールの夜と朝。

その日の夕飯は一人じゃなかった。私はよく得たいの知れないチベット餃子なるものをフランス人とドイツ人の女の子と一緒に待っていた。
出会いは30分前、宿泊先のホステルの部屋に到着したら友達同士のお泊まり会のような光景が広がっていて、“Hi! What's your name?”とフレンドリーに話しかけられてしまったこと。相部屋とはいえあまり体験したことのない雰囲気に驚きつつも、誘われるままディナーについてきてしまった。しかも二人は本当に友達同士らしい。

ホステルにはエアコンがなかったから、こんな窓を全開にして寝た。映画に出てきそう

ストラスブールはドイツに近いから、二人が落ち合うにはちょうどよい場所なのだと言う。なんと素敵な話だろう、得体の知れない日本人が混じってしまってよいのだろうか。
などもくもく考えていたら餃子が到着した。具は野菜らしいのだけど見た目は焼き小籠包みたいだ。
箸を使っておもむろに餃子を持ち上げると軽く拍手が起こった。考えてみたら海外で箸を使うのは初めてかもしれない。二人ともツルツルの餃子を箸で掴むのにかなり苦戦し、最終的には手を油まみれにしながら食べていた。

「あのビール、日本のでしょ?」そうフランス人の女の子が指した先を見ると、見慣れたアサヒの缶が壁に並んでいた。そこからお互いの国のビールの話に。フランスではラズベリー味の甘いビールが人気らしく、ビール大国ドイツではそんなもの聞いたことないという。帰る前までにはどっちも飲んでみたいな、なんて考えながら会話に参加していたらあっという間時間が過ぎていた。楽しい。

デザートにアイスを食べるべく一緒に歩いた夜のストラスブールはなんだか特に一番キラキラして街に見えた。すでに夜9時頃だったかと思うが、テラス席で楽しそうに飲む人々が通りの両脇を占める。大きな教会があったので「あれが有名な大聖堂?」と聞くと「違う違う、大聖堂はこの2倍ぐらいの大きさだよ。」「せっかくだから見ていこうか!」という。陽気なメリーゴーランドの横を通り過ぎると鐘の音が聴こえてきた。

眼の前にそそり立つ本物の大聖堂は本当に大きかった。こんなところで思い出すことじゃないが、大きくて丸いステンドグラスを見ると幼い頃に父と見に行った神戸のルミナリエが頭をよぎってふいにウルっときてしまった。さすが大聖堂だ。

翌朝、どうしても中に入ってみたくて再び大聖堂へ向かった。明るい空の下で見るとおびただしい数の彫刻が施されていることがわかりこれまた圧巻だ。

内側から見ると、ステンドグラスから漏れ入る光がとてつもなく美しいことがわかった。外から見るとステンドグラスは大きくても地味な色合いなのに、それらがパーッと鮮やかに色づいて散りばめれたキリスト教の物語が浮かび上がり、まるで万華鏡に入ったかのようでうっとりしてしまう。

あまりにも美しくて、いつか母にも見せたい光景の一つになった。ストラスブールにわざわざ来たのはこのためだったのだが、本当に来て良かった。

さて、アルザスを離れる前にもう少しワイン観光を。

樽の底が2m近くある大きさ

こちらは病院の地下にあるワインセラー。樽の大きさにも驚くが、15世紀からワインが入ったまま残っているものすごく古い樽もあり、歴史を感じるスポットだった。数日前に訪れたボーヌのホスピスのように、この病院もワインの売上が治療を支えたらしい。荷物が多すぎて併設ショップで販売されるセラーオリジナルのワインを泣く泣く諦めたことはまだ少し後悔。
最後はずっと食べたかったアルザス料理で締める。シュークルートなんとかと、マッシュルームのタルトフランベと、ゲヴュルツトラミネールのグラスをオーダー。“Good Choice!”と笑いかけてくれる店員さん、嘘でもちょっと嬉しい。
しばし待つと謎の団子状の食べ物が到着。こんなもの頼んだっけ?とポカーンとしてしまったが、シュークルート「なんとか」は、団子を指していたらしい。キャベツの煮物を想像していたので見た目は全然違うが、油で揚げられた外側はカリッと、中はキャベツのシャキシャキ食感、広がるまろやかな酸味がなんともいい。ハチミツのような甘さがあるゲヴュルツトラミネールがよく合う。

タルトフランベは薄焼きピザなのだが、全面に塗られたホワイトソースにはヨーグルトのような酸味が感じられて、酸っぱいもの好きの私にはたまらない食文化なのだと実感した。
幸せな気持ちのままストラスブール駅へ。ここからTGVに乗り込み、6時間の旅を終えるといよいよボルドーだ。
駅の売店で先ほどのかわいいワイングラスを発見し迷わず購入したのだが、なんと箱はなく、頼りない薄さの不織布一枚を巻きつけて紙袋に入れた状態でハイ、と渡された。いかに割らずに日本まで持ち帰るか、新たなチャレンジになりそうだ。

写真: (2枚目と5枚目以外) Kodak Ektar H35

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