マガジンのカバー画像

『愛は光にみちて』

7
冬の一日、私は東京の郊外にある某大学を訪れる。そこは子供のころの私の遊び場であり、行き場のないときの逃げ場であった。これはその折に出会ったシスターの話しと、その後に起った不思議な… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

『愛は光にみちて』短編1/7 #秘密の塀

 東京の西郊M市にあるカトリック系の大学。木深い森にかこまれた広大な校地。北にゴルフ場、…

マリア・サキ
3か月前
2

『愛は光にみちて』短編2/7 #K教授

 目の前の景観がひらける。起伏にとんだキャンパスは冬枯れの芝生に蔽われ、点々と立つ柊が木…

マリア・サキ
3か月前
1

『愛は光にみちて』短編3/7 #チャペル

 夏の日の思い出、  それがK教授との、たったいちどきりの思い出だった。  あの階段は屋根…

マリア・サキ
3か月前
1

『愛は光にみちて』短編4/7 #シスター

 そのとき扉があいた。繊細な光は濫妨な陽光にかき消された。まるで宝石匣の蓋を直射日光の下…

マリア・サキ
3か月前
1

『愛は光にみちて』短編5/7 #戦禍

「シスター。私はいま嘘を……」 「よろしいのです。主は私たちの罪をお赦しになっています」 …

マリア・サキ
3か月前
3

『愛は光にみちて』短編6/7 #魔術師

 かすかな衣ずれの音──シスターはゆっくりと席を立ち、ふたたび祭壇にむかった。私は顔をあ…

マリア・サキ
3か月前
1

『愛は光にみちて』短編7/7 #海を渡る蝶

 シスターは目路に熄えた恋人を見送りつづける、そんなうるんだ瞳を私にむけた。  私はといえば、昔話しに聞き旧した〝木の葉にかわった小判の話し〟を思いうかべていた。が、彼女のくれたあつい眼差しは私の蛇足を咽元で押しとどめ、揶揄することを宥さなかった。修女は物語の第二幕を語りはじめた。   #海を渡る蝶  その夜のこと。いつものように賑わう酒場のなかに、いつもとようすのちがうひとりの男がいた。男はうつろな目で、悪夢にうなされる譫言のように、おなじ話しをくり返していた。男は漁師