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【読書】『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』

雑誌の書評で知った坂本龍一さんのエッセイ『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』はタイトルの秀逸さもあり私をすぐに本屋さんへと走らせました。

口述筆記なので坂本さんが今私のすぐそばで語りかける声が聞こえてくるような気になります。もうお空にいらっしゃるなんて信じられない。そしてこの貴重な声を残してくださったことへの感謝…

第一章にはガンと生きる、と見出しがつけられていてに病院食の味気なさなど切々と綴られています。どんな病気にかかっても、少ししかいただけなくても、だからこそ美味しいものが食べたいものだと思いました。良いお医者様やスタッフがいる医療施設にお世話になりたいのと共に、美味しい食事が提供されることもこれからもっと重視されてもいいのかも。

食餌療法など代替医療を試されたり病気の発見から再発から、細かく闘病の辛さが語られていて命への切実な思いが文面から溢れて読むのが辛い箇所もありました。

話はご両親を見送られた頃に戻ったりNYに移住されたことに触れられたりしながら人生が巻き戻されていき、東日本大地震災で陸前高田市を訪れられた話などもされています。原発に強い懸念を表したり環境問題にも関心を寄せメッセージを発してこられていました。

世界中に親交のあるアーチストがいるのは想像通りですが、ガン患者仲間としてつんくさんと交流されたり若手の学者さん斎藤幸平氏にFacebookで直接連絡したら坂本龍一のなりすましと思われてスルーされた話も面白く読めました。

映画音楽での活躍についても深く知ることができ、その後『母と暮らせば』を鑑賞し長崎の原爆の悲しみを吉永小百合と二宮和也さんの演技と静かな坂本龍一さんの音楽から感じました。闘病中にもこのような作曲をなさるとは。

また、60歳のお祝いにパートナーから始めてベビーグランドピアノを買ってもらった話を読んだ時には私レベルのピアノを弾いて夢はグランドピアノを買うことということが恥ずかしくなりました。バッハを好まれた坂本さんの静謐な曲に耳を澄ましています。

ヨーロッパから中東からアジアまで世界を駆け巡られた坂本さんが晩年にわたしの故郷奈良を訪れられたエピソードにも胸が熱くなり、その箇所を何度も読んでは次の機会には同じ場所に立ちたいと強く願っています。

この本の表紙がまた渋く、朽ちたピアノの写真。もちろん本文でも触れられています。一時期所有されていたハワイのお宅に置いてあった古いピアノで、「自然に還すための実験」として野ざらしにし、ご自身の生命と重ね合わされているのが切なすぎて。偉大なアーチストと同時代に生きていたことを辿るたびのような本でした。

朝から少し重い記録になりましたが皆様残暑にお気をつけて良い日曜日をお過ごしください。

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