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切子に野花

臨時休校中の娘が父親と近所の公園に遊びに行って、小さな紫色の花を摘んで帰ってきた。本人は「あさがお」と言ってるけど、ツルニチソウといって、空き地とか畑の脇とかにも咲いているような野の花である。(花に詳しい母に聞くと大抵わかる)

昔から小さなきれいなものが好きな娘は、まだよちよち歩きの2才くらいの頃から、保育園の帰りにおばあちゃんと野花を摘んで「ままにぷれぜんと」と言ってくれたりして、たまらなく愛おしかったのを覚えている。

もう6才にもなると色々と自分の好みも出てくるし、やれることも増えてきたから、この日はあえて細かい指定はせずに「好きなグラスに活けていいよ」と適当に食器棚を指さしたら、「これ使っていい?」とニコニコしながら持っているのがわが家にひとつだけある江戸切子だった。

今では独身貴族ならではの買い物だなぁと思うけど、日本酒を好んでいた二十代に出会った小振りで梅の模様が彫られたピンク色の江戸切子は、結局そんなに使われる頻度は高くないまましまわれて、その後自分の志向がどんどん用の美にむかっていったこともあり、ザ・美術品というか、ハレの品である江戸切子はなおさら出番がなくなって食器棚に眠っていたのだった。

私だったらまず選ばない、花の印象と喧嘩するような濃い色の、凸凹した模様のある切子。娘はぱっと選び、摘んできた野の花を挿したら、なんともかろやか、今っぽくて、春で。こんな風にものの命を蘇らせてしまう自由な心よ、いつまでも伸びやかに!


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