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夢の中の彼女

夢の中の彼女は今日も完璧だった。

彼女は僕が高校生の時から夢に現れはじめた。

彼女はいつもどこかに寝そべっていて、
今日の場合はソファの上だった。
ここは彼女のアパートなのだろうか。
窓から刺す光が彼女の頬に筋を作っている。

僕がその寝顔に見とれていると、
彼女はいつものように完璧なタイミングで目を覚ました。
こっちをじっと見つめてくる彼女の顔が完璧すぎて僕はいつもすぐに言葉が出せないでいる。
すると彼女が
「コーヒーでも飲みに行く?」
と僕に尋ねた。
「そうだね」と僕が返すと、彼女は白いTシャツの上にカーディガンを羽織って外に出た。

夢の中も季節は秋なのだろうか。
あまりにも心地よい空気で季節がわからないくらいだが、たしかに木々は紅葉している。

夢の中の喫茶店はレンガでできていて、少し暗めの内装だ。彼女は1番奥の光がさす席に着いた。僕はカフェ・オ・レを頼み、彼女はウィンナーコーヒーを頼んだ。
僕たちの間に会話は無く、聴こえるのは喫茶店の音楽だけ。
この夢の中では僕は彼女をリードすることもできなければ、自分から語りかけることさえできない。
僕ができるのはただ彼女の顔を眺め、時間の経過に身を任せることだ。

喫茶店の丸くくり抜かれた窓の外には海が見えていた。
彼女が「そろそろ夕日が沈むから海辺を歩きましょう。」
というので僕たちは喫茶店を出た。


海辺の空はピンク色に広がっていた。
もう少しで海に落ちていきそうな夕日に、彼女の顔がオレンジ色に照らさせていて、
僕はその完璧な美しい横顔を眺めていた。
こんなに長く見ていても僕は彼女の顔が覚えらない。
なぜなら彼女の顔は会うたび少しずつ変化しているからだ。二度と同じ顔の彼女には出会えない。

彼女は夕日を眺めたまま僕に言った。
「あなたのことは貴方が17歳の時からずっと好きよ。これからも。あなたは?」
僕は「僕もだよ」と答えた。

彼女は全てが出来すぎていて完璧だった。

夕日はもう完全に沈みそうだ。

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