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第5話 熱いブラジルの夜

第1話 (みんなの文藝春秋でも取り上げていただきました)

Today's Pick
Yuck 'Glow & Behold'

 ブラジルでの初めてのライブはサンパウロで、企業スポンサー企画のライブ1本のみだった。世界の反対側まで1本のライブの為に、経済的ではないと思うかもしれないけど、こうゆうコーポレート系のライブはギャラがすこぶるよかったみたい。特に忙しかった2011年、6月はバルセロナのプリマヴェーラフェス、マドリッドのフェスと続き、グラストンベリーフェス出演前のタイトなスケジュールだったにも関わらずこのオファーを受けた。金の為にね!
  6月20日マドリッドからロンドンヒースロー空港へ到着。前日フェスに出演して帰ってきたところだった。その足のまま半日空港でブラジル、サンパウロ行きの飛行機を待った。
 6月21日早朝、サンパウロに到着。ホテルに到着したが早すぎるのでチェックインできない。そのまま朝ごはんをいただく為、お食事エリアへ直行。奥になぜかクリブスのメンバーが座っていた。軽く会釈。彼らはツアーで来ており、出発するところだった。
 長距離の飛行機移動は辛い。前年から大陸を挟んでぶっ通しで続くライブ遠征生活は皆さんの想像を絶するほど過酷です。日本遠征なんて比じゃない。可愛いもんじゃ。ぼんやり、フラフラと私はスーツケースを持ってレストランへ入った。そうしたらどうゆう訳かスーツケースが引っかかり、ワイングラスやお皿が綺麗にセッティングされたテーブルもろともひっくり返してしまった。私は非常に疲れていた、これは本当。注意散漫おっちょこちょいな性格のせいかしら?いや私のせいではない、疲れのせいだ。恐ろしいガラスの破壊音がして青ざめたが、なぜかウェイトレスがクールと言って私に向かって「いいね」した。すごく感心したような彼女の笑顔に困惑した。そして見上げるとクリブスの奴が失笑していた。
 数時間後、サウンドチェックのために早々箱へ向かった。サンパウロはとにかく渋滞がひどかった。
 企業が企画したパーティーだったから普通にチケットを買って見に来れるライブではなかったらしい。キャパも小さい箱だったので来たくとも来れないたくさんのファンの方からSNSで批判を受けた。熱い。ライブも大盛況で、お客さんが真剣に狂っている。熱い。
 最前列にいた女の子の肩に、私と同じダイヤモンドのタトゥーが全く同じ所にインクされていてメンバー皆驚いた。私の真似なのか、偶然なのかは未だ不明。どちらにせよ熱い。

 ブラジルのトランプと呼ばれているボルソナロ大統領はこのコロナ禍でも個性的なまつりごとで笑かしてくれる。感染死が増えたことについて突っ込まれると「だから何だ? 俺にどうしろと? 俺の名前はメサイアだが、奇跡は起こせない」と逆ギレ。面白がったら不謹慎なのだけど、トランプ同様にキチガイすぎて笑うしかない。開発重視で加速した、人間によるアマゾンの森林火災にも知らんぷり。地球qからの肺と言われるアマゾンの熱帯雨林なのに、今回の問題を国内問題だから黙っていろという姿勢。トランプ同様にあんたが大統領になったのはおっとろしい大国際問題じゃ!と千鳥口調で言ってやりたい。

 そして熱いブラジルは追っかけも熱かった。

それは渡伯2度目の時、2013年セカンドアルバム「Glow & Behold」のプロモ中だった。
 セカンドアルバムではリードシンガーのダニエルが脱退し、新しくエドをギターに加えていた。ヴォーカルはオリジナルメンバーでギターのマックスが担当することになっておりバンド内のダイナミックスが大きく変わった時でもあった。
 セカンドアルバムあるあるだが、ファーストの成功の後、必ずバンドは次のレコーディングにたくさん金を使う。それはヤックも例外ではなかった。ヤックの場合、ダニエルと言う大きな存在が抜けてしまった事への穴埋めと、ローファイに仕上げざるをえなかった前作があるので、次はしっかりレコーディングしたいと願うマックスの意向だった。レコーディングはニューヨーク州郊外の昔教会だった宿泊施設付きスタジオでクリス・コーディー氏をプロデューサーに向かい入れ行った。当然ファーストの宅録とのコストは雲泥の差だっだ。

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左からマックス、ジョニー、私

 そんな背景があるもんだからプロモ活動には余計にレコード会社の力が入る。この時はイギリスのモンスターバンド、ジ・エックスエックスのサポートでサンパウロに飛んだ。
 今回のホテルはサンパウロの閑静なエリアにあった。1人で歩くにも危険を感じない。近くの広大な公園もコンテンポラリーでスケートランプもあって居心地が良かった。
 ホテルに帰ってジョニーとエドの部屋に遊びに行った。談笑していると部屋の電話が鳴った。ジョニーが受話器をとったがなんだか様子がおかしい。
「まり、お願い、ちょっと代わって」
と言われて出てみると女の子が向こう側にいた。飲みに行こうよと言っている。全く訳が分からない。気味が悪いのでまたジョニーへパス。電話の主はどうやらファンの女子らしくロビーから電話しているとのこと。何とビツクリギヨウテン!やばいだろと言いつつも、ジョニーとエドは女子と合流する事にしたそうな。
 ロビーには5、6人ほどの女子が待っていた。私はハヴ・ファーンとかって別で食事に行った。ジョニーには
「明日のライブには来てもいいけど、絶対に楽屋には入れないで」とは念を押しておいた。
 ライブ当日、サウンドチェクが終わり楽屋で昨晩の話になった。飲みに行ったがお目当の子ができてキスしたかしないだか、実際いつもの事なのであまり聞いていなかった!ジョニーが昨日の女子の中のひとりのFacebookページを見ていた。
 彼女のページには「夢はロックスターと結婚する事」と書いてあった。こいつだいぶ痛いじゃん、って皆んなで笑っていたらその女子達が楽屋に入ってきた。ほんと勘弁してくれ。というのも、ダニエルがいた頃は出演前は関係者以外、自分たちの彼女も楽屋NGというルールをマックスと作っていた。女は時として面倒くさいからである。ジョニーはシングルだったから相手が来ることもなく、私の相手はバンドマンなので割と気を使っていて問題はなかった。当初は厳しいわぁとも思ったが、楽屋に人が増えるとなかなかリラックスはしづらい。演奏前に人と接する事で余計にストレスがかかったり、感情の波ができる。どこの馬の骨だかわからんやつを、しかも演奏前に楽屋に入れるのは非常識極まりない。ノー・レスペクト・ワッツ・ソー・エバーである。

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 とりをxxに迎えたフェスであるから関係者はすこぶる多かった。大部屋のリエゾンにはラップトップに向かってカチカチしている大人がざっと10人くらい座っていた。そこがヤックとxxの楽屋の境界線にもなっていた。セキュリティーももちろんたくさんいた。
 「ヘイ、まり、彼女の名前は誰それで」とジョニーから女子一味の紹介を受けたが怒り心頭、ハイつって楽屋を出て行く私。まじ外行けやと思いつつもイベント始まりました。幸か不幸かその時はインタビューなどのプロモもなく、暇。楽屋くらいしか居るところないですがね。
ライブはちらほら見えるヤックのファンも盛り上げてくれてなかなかなサイズの箱だったけれど満員御礼。xxのライブも最高でステージングも2人の動きやムードある演出が確立されていてすごく感激した。
 ライブ後、その女子達がセキュリティーによってツマミ出された事を聞いた。どうやらxxの楽屋へ押しかけて行ったらしい。始めから目的はxx。男子らまんまと使われた訳ですわ。どうやら追っかけ常習犯らしく、顔も割れていたらしい。ホテルの部屋番号から特定してくる辺りから犯罪組織か!くらいな調査能力の鮮やかさ。
 「だから言ったじゃん、私らだけのライブじゃないんだし、超ダサくない?めちゃくちゃ恥ずかしいわ」と私の説教に「こんなにちやほやされた事ないから気分良くなったんだよ〜」とか言うエドの顔をどつきたい衝動に駆られた事は一度や二度ではありませぬ。

アルバムについて

XXのアルバムをピックすると思いきや今回は自分らのを出してみました。どんなバンドにとっても二作目と言う壁を乗り越えることは難しく、ダニエルという人材を失った代償は高くついた。バンドを続けると言うことは外から見るよりもかなり複雑です。
今作はマックス、ジョニーの3人とプロデューサーのクリス・コーディーを迎えたレコーディングだった。ニューヨーク州北部、ウッドストック近郊の森の中、ドリームランドと言うスタジオで2、3週間ほどいたのかもしれない。スタジオは教会を改造したもので、ライブルームは本殿のナチュラルなでかいリバーブがあり、アナログギアも素晴らしい。デスクやアウトボードコンデンサーマイクと言ったビンテージ名器も売りだ。クリスはギアの豊富さでここに決めたらしい。私が自宅で撮るボーカルとまるで違う声の美しさに驚いたのを覚えている。ドラムも豊富で、オーナーがこれでもかとシンバルや、ベースを追加で持ってきてくれたのを覚えている。アンプも古いフェンダーチャンプやプリンストン、ベースマンなど掘れば掘るほどお宝が出てきた。
丘の上にそびえ立つ教会、そこから下ると別宅があった。別宅で3人、共同で暮らしたが、ここ数年一緒に寝起きを共にしていたので、全く違和感はなかった。
バッキングのトラッキングはここで全て録音した。ドラムとベースを一緒に撮ったのだが、3人でなんども繰り返し楽曲を演奏し、いいところを編集して組み立てて行く方法で、私たちにはこれがいいテイクか悪いテイクかもはや分からないぐらい弾かされた。ギターのオーバーダブ作業になるとマックスとクリスが軟禁状態で、時々様子を見にいくと、割と渋い雰囲気になっていた。
ミックスに関して、すごくこだわったベースの音もだいぶ下に埋もれていた。めちゃくちゃ素敵な音だったのに、と思うが、ベースだけ聞くわけではないしね。なんなら私はベースとドラムだけでも聞けるけど。クリスがポップに仕上げた分しょうがないのであろう。マックスの間に合わなかったリードボーカルは後日、マンハッタンのスタジオで撮られた。
制作から仕上がりまですごく手の入った渾身の第二作です。聴いてね!

第2話 第3話 第4話

作者について
土居まりん a.k.a Mariko Doi
広島出身、ロンドン在住。ロンドン拠点のバンド、Yuckのベーシスト。ヤックでは3枚のスタジオアルバムとEP、自身のプロジェクト、パラキートでは2枚のスタジオアルバムとEPをリリースした。
ピクシーズ、ティーンエイジ・ファンクラブ、テーム・インパラ、アンノウン・モータル・オーケストラ、ザ・ホラーズ、ウェーブス、オールウェーズ、ダイブ、ビッグ・シーフなどと共演しロンドンを拠点に国際的にライブ活動を展開している。
2019年初のソロアルバム「ももはじめてわらう」を全セルフプロデュースでDisk Unionからリリース。モダンアートとのコラボ楽曲など活動の幅を広げている。




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第4話

 
 
 

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