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毛布#24『体調不良/“甘く、繊細な魂”を祝福する』


最近の“体調不良”

Twitterでも少し書いていたのだけど、ここ最近体調があまり良くなかった。
熱があったりではなく、どうにも怠くて眠くてしょうがない日が続き、朝起きてもスッキリしない。
気圧なのかホルモンバランスなのか何なのか、原因がなんであれ、野生の経験則として、こういう状態は起こる時は起きて、そして過ぎ去る頃には、何かそのとき気づくべきことや、必要な学びを残していってくれるように思うので、完全に「招かれざる客」という感じでもない。なのだけどしんどいものはしんどく、色々滞ることにまた呻きながら過ごしていた。

そんな時、NEUT MAGAZINEの記事を読んだ。

#IAMWHOLE

ブライトンを拠点に活動するラッパーがはじめたプロジェクトで、メンタルヘルスのスティグマをなくすためのキャンペーンだそうだ。
敬愛する、HIGH(er)magazine / HUG inc.をやっている haru.さんが寄稿しているのを見て読んでみたのだけど、「体調不良」という今の自分の状態にぴったりで、そして#IAMWHOLE のキャンペーンとそのハッシュタグの文字をみていたら、なんだか、もう頑張らなくても良いのだと思った。

もう頑張らなくて良い。ちゃんと、社会は変わろうとしている。

「体調不良」と書くときに、本当はそれがどう考えてもメンタル込みの不調であることはわかっている。だけどそれを大っぴらに書く勇気がない。
なぜか。それを言うことで自分に不利益があると無意識に考えていたのだと思う。内なるスティグマ意識。それを責める必要はないけれど、やはり、偏見を自分の中に内面化して生きているのはしんどい。

だけど、#IAMWHOLE - 私は完全な存在なのだ/私は何も欠けていない という文字を見ながら、その言葉の響きには覚えがあると思った。

人は誰しも穴ぼこだらけでいびつな形をしているけれど、誰かといるときに湧き上がってくるもので、そのいびつな穴も満たされ、惑星の表面に水が張ったように、まん丸な円のようになる。(毛布#10より)

前に毛布でも書いたように、人は、いろんな凸凹があろうと、完全にまんまるな円にのようになれる。“WHOLE”というのは、まさにそんな感じだ。

私は何も欠けていないのだなと思えた。メンタル不調も、また自分の一部。
そして、もうそれがばれてしまっても良いような社会になろうとしているのだと思った。
この世界が大きな湖だとすると、冷たかった大きな湖全体が、ちょうど良い感じの温度の温泉(ぬるめ)になるにはまだ時間がかかるかもしれない。
だけど、自分が浸かっている周りの水温は少しずつ上がってきている。
そんな気がした。

カミングアウト?

私は図太いのかひ弱なのか昔からわからない感じで、結構体調を崩しがちだ。
それは身体的症状として出ることもあれば、とにかく怠くて起き上がれないとか、夜起きていられないとかそういう何とも説明し難いものも含む。
最近はみんなの大好きな仮想敵の「気圧」がいるので全てを気圧のせいにしているけれど、自分がとにかく今不調ですというのを、不調をあまり知らなそうな(と思える)ピンピンした(ように見える)他者に説明する言葉は、いつもなかなか見当たらなくてそれだけで萎れてしまう。

萎れながらも、「タフじゃなければ生き残れない」と自分を叱咤激励しながら、叱咤しすぎて疲労骨折してまた倒れる、みたいなことを定期的に繰り返している。

本当はこの時点でカウンセリングなどに気軽に行ければ良いのだけど、色々あってそれはできていない。

その「色々」の一つには、自分の弱さを世間に向かってさらけ出すことへの恐怖もあると思う。
自分が自分の弱さを認めるのはやぶさかではないのだけど、それを社会に向けて公言するとなると、それを言うのは少なくとも、あまり安全で安心だとは思えないような。

***

大学生の頃、オーストラリアからの留学から帰ってきた頃、あまりにも日本社会に帰ってきたことに馴染めず、文字通りの意味で生きているのが辛かった時期がある。

歩いている時は、いつもこのまま倒れて眠ってしまいたいとそればかり考えていたし、死にたいわけではないのだけど、消えてしまいたいといつも思っていた。

とりわけ電車が苦痛で、電車の中で座り込んでしまったこともある。

ある日、あまりにも毎日それが続くので、大学病院の精神科を予約して行ってみた。

その時の願いとしては、一番考えていたのは「この状態に名前をつけてほしい」というものだった。
今のこの苦しさが何なのかわからない。この症状の「正体」がわかれば、病名さえわかれば楽になると思っていた。

藁にもすがるような気持ちで病院に行ってみた私は、そこで運命の出会いを果たすことになる。

勇気を出して診察室に入ったところ、滅茶苦茶に感じが悪い医者に当たったのだった。

まず、忙しかったのか、チラ、と顔を上げて、初っ端から思い切り面倒臭そうに対応された。
こちらもなんとかせねばと自分の感じていることを説明するのだけど、終始無表情で「はぁ。」という感じだった。

こちらが痺れを切らして、「何の病気なんでしょうか?」と聞いたら、一言、「性格ですね。なのでなかなか変わらないです。」と言われた。

衝撃だった。私はてっきり一時的な「症状」だと思っていたのに。

「性格」だったら、治らないではないか。
(今はそう思わないけど、当時のうら若きまりこはそう思った)

そのまま診療を終えられそうだったので、慌てて食い下がる。

「え、カウンセリングとかは受けられないんですか……?」

医者は私を見た。

「保険効かないんで、30分で1万円とか……結構かかりますけど。受けます?」
と、また面倒臭そうに返された。

学生でお金がなかったので、1万円は大金だった。じゃあ良いです……と我ながら割とあっさり諦めたのを覚えている。

とにかくしんどいから薬を出してくれと頼むと、「ま、軽い抑うつ傾向ですね。じゃあ出しときますけど」と処方されて、薬をもらって帰った。

帰り道、当時の若きまりこは、呆然としながら歩いていたのを思い出す。
薬の成分をネットで調べてみて、医者の投げやりな態度(当時はそう思えた)にショックを受けていたのもあって、怖くなって結局飲まずに帰り道で捨てた。

それ以来病院には行っていないので、他のお医者さんはどんな感じなのかは知らないけれど、その後何度も思い出した。
もしあの時、滅茶苦茶感じの良いお医者さんが出てきていたらどうなっていただろうか、と。

その後、社会人生活を挟み、あるときあまりにもセルフエスティームが欠如しているのが辛くなってきたので、私はバタ足から泳ぎの練習を始めるように、生きやすくなるためのひそやかなプロジェクトを始めた。それが良かったのかどうだったのかわからないけど、あの時の医者があそこまで感じの悪い医者じゃなかったら、また全然違う道のりになっていたかもしれない。
どっちが良いかなんてわからないけれど、そう。

今私はこうしてここにいるし、私はこのバージョンの道のりで満足している。

何はともあれ、ハレルヤ。

“Sweet, Sensitive Souls”

先週、愛する「ルポールのドラァグレース」がエミー賞を受賞した。

(まさか3週間連続ルポールの話をすると思っていなかったでしょう。毎日妹をつかまえてルポールの話をしています。)

インスタグラムの公式アカウントに投稿されたルポールのスピーチを、何度も聞くこととなる。(11月に来る大統領選への投票を呼びかける、短いけれどとても大事なことが詰まっているのでぜひ聞いてみてほしい)

「...For tonight, the only political statement I wanna make is this - Love. Love for our LGBT brothers and sisters, love for black queens and brown queens, and love for the United States of America, where a little gay boy with nothing more than a pussycat wig and dream can build an international platform that celebrates sweet, sensitive souls everywhere.」
「今夜、政治的発言はたった一つ、これだけ・・・・・・愛。
LGBTの兄弟姉妹に愛を。
ブラック・クイーン、ブラウン・クイーンに愛を。
アメリカ合衆国……小さなウイッグと夢の他には何もない、一人のゲイの男の子が、優しく、繊細な魂を祝福する国際的なプラットフォームを築くことができる国に、愛を。」

このスピーチの中の、“sweet and sensitive souls”という言葉を聞いたときに、いろんな人の顔が浮かんできた。

優しく、柔らかで、あたたかく、そして繊細なたましい。今まで出会ってきて、いつも、その人達のままでいてくれてありがとうと思っている人たち。

そして、その魂のあり方を祝福する。
それは私も自分の作品や発言はそうでありたいと心が自然と思っていることで、作品は結局は全てそれにつながっていく。

Sweet and sensitive.
優しく、繊細な。
そんな人達を思い浮かべて、その言葉を口にしてみるだけで、何だか心強くなれるから不思議だ。

気づけば「体調不良」はマシになっていた。そしてやっぱり、ダウンしたらダウンしたなりに、ライフレッスンという置き土産があるのだなと思った。

何はともあれ、ハレルヤ。


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