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6月に見た映画②

引き続き、6月に見た映画の感想の続きを書いていきたいと思います。例によってネタバレありですのでご注意ください。

6月に見た映画①はこちらです。

ヴァスト・オブ・ナイト

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トワイライト・ゾーン的な怪奇系ドラマシリーズの体裁を取りながら、深夜ラジオのような手触りを感じる唯一無二の魅力があるSF映画。どこか懐かしいSF映画のようにも見えるけど、デヴィッド・フィンチャーを彷彿とさせるグラフィカルさや町の規模感を実感させる長回しの使い方、電波に乗った声や音をきっかけに出会う事のなかった点と点が繋がっていく偶然の面白さ、謎を解き明かしていく快感、電話交換手やラジオ局のレトロな美術など全てが新鮮でセンス・オブ・ワンダーに溢れた一級品である。しかも監督のアンドリュー・パターソンは今作が長編デビュー作というのも驚きである。そして登場人物達が語る未来の話は僕達にとっては今の話になる。未知との遭遇を果たした彼らが連れ去れた先にあるのはどんな世界なのだろうか。彼らが語る未来が待っているのだろうか。これは昔懐かしい映画ではない。今を語る映画なのだ。

ペイン・アンド・グローリー

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体の衰え、ゲイとしての自分、母親の面影、ドラッグから救えなかったかつてのパートナーとの再会、仲違いしていた俳優との交流…一線を退いた名監督がこれまでの人生の中で抱えてきたあらゆる痛みはドラッグに逃げ込んでもずっと付きまとってくる。彼が痛みから救われる唯一の方法、それは全ての痛みを表現に昇華することだけだ。そんな表現者の苦悩やゲイとしての自分、独特な死生観などをスペインの情熱的な色彩と絵画的なショット、グラフィカルな映像表現で見事に映し出す大傑作。そしてパーソナルな所に踏み込んで行けば行く程に現実との境目が曖昧になっていく快感もまた格別だ。ペドロ・アルモドバルの映画を見るのは今作が初めてだったが、彼の作家性を知る意味では今作がベストな気がする。アントニオ・バンテラスの哀愁漂う渋い演技も素晴らしかった。

音楽

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ロトスコープで作られたアニメーション作品はこれまでにいろいろ見てきたが、ここまでアニメ的なデフォルメデザインと実写的な動きが違和感なく一体となっているのは初めてだと思う。そして7年かけて作られたという手描きアニメーションの躍動感と音楽を奏でたいという初期衝動が親和する様は見事としかいえない。ただあまりにも世界観がシュール過ぎて面食らってしまう。主人公がリコーダーを吹きながら他校のヤンキー達の妨害をかわして、そのままライブ会場でも衝動にまかせたままリコーダーを吹き続けるという展開に何を思えばいいのかさっぱり分からないしクスリともしなかった。あとフォークシンガーだったキャラクターがロックに目覚めるという展開もロック至上主義的な押し付けを感じる。別にフォークだっていいじゃないか。もっと音楽そのものを捉えてこそ「音楽」というタイトルが生きてくるのではないだろうか。

ほえる犬は噛まない

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犬から始まる笑っていいのか分からない不条理なブラックコメディ。商業高校を卒業した冴えない経理係や妻からの小言に悩まされながらも賄賂を使って大学のポストを狙う夫、妊娠したことで退職せざるを得なくなった妻、犬を食べる警備員、不気味なホームレスなど団地に住む個性的な人々の葛藤や行動を見ていると善人か悪人かを明確に分けることが出来ない。なぜなら彼らは格差という不条理で歪な世界でなんとか生きていこうともがいているからだ。そんな姿に人間の複雑さを垣間見ることが出来る。その代わりに犬達は酷い目に合うけど(笑)ポン・ジュノって長編デビュー作から変な映画作ってるなと思いつつ、「パラサイト 半地下の家族」に通じる系譜を感じることが出来た。あと今作のペ・ドゥナって能年玲奈に似ている気がするのだがどうだろうか?

ソニック・ザ・ムービー

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おぞましいデザインの青いハリネズミが動き回る予告編を見た時、誰もが大事故になると思ったはずだ。しかしあの「おぞましいデザインの青いハリネズミ」はちゃんとソニック・ザ・ヘッジホックになって帰ってきた。オープニングからゲームへのオマージュが散りばめられ、愛嬌たっぷりなソニックとちょっとボンクラな主人公とのバディ感やハイテンションなDr.ロボトニックに思わず笑みがこぼれる。そして昨今のアメコミヒーロー映画的なアクションの見せ場も豊富だし、孤独な魂がかけがえのない友情を手にするハートフルな着地もしっかり決める。突出した何かがあるわけではないが誰もが楽しめるファミリームービーとして100点だと思う。あとジム・キャリーのハイテンション演技はやっぱり最高である。最後にはテイルズも登場するし、続編が楽しみだ。

エジソンズ・ゲーム

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直流を推し進めるエジソンと交流を推し進めるウェスティングハウスの覇権争いをトリッキーな演出で描いていく伝記映画。自分の発明を守るために汚い手段を取るエジソンの切実さや紳士的に立ち向かうウェスティングハウスの葛藤はなかなか見応えがある。そう、これは電気を巡る戦いでもあると同時に2人の男達の強い想いのぶつかり合いなのだ。そしてウェスティングハウスが電気の覇権を握り、エジソンは発明王として歴史に名を刻む事になる。そんな2人がようやく出会う場面は彼らにしか分からないやり取りでお互いを称え合っているようにも見えた。そして電気の時代の幕開けを博覧会でのパフォーマンスと史上初の電気椅子による死刑執行のクロスカッティングで見せる演出など攻めてて面白かった。ただ少し不満なのはテスラの扱いだろうか。トリックスターの魅力に乏しい。

風の谷のナウシカ

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意外と見ていなかったジブリ作品(厳密には違うけど)その1。戦争のメカニズムと環境破壊というテーマやナウシカが体現する調和と力強い女性像、宮崎駿による躍動感溢れるアニメーションと壮大な世界観、久石譲のパワフルな劇伴などスタジオジブリ製作のアニメ映画を形成する要素や座組みがこの時点で完成されていることに驚く。30年前の映画なのに今見ても全く色褪せて見えないのだ。そして今作最大の魅力は滅びゆく世界や滅びの象徴にある圧倒的な美しさだと思う。腐海に沈む大地や王蟲、巨神兵、トルメキアの巨大兵器などは人々に災いを運ぶ存在なのに、まるで滅びを待ちかねているかのように恍惚としてしまう。こうした倒錯した美意識や対比を見せてくれる映画は問答無用で好きになってしまう。ただ少し不満を挙げるとあまりにも壮大すぎて物語が駆け足になってしまっている所が気になった。

もののけ姫

「もののけ姫」の感想はこちらの記事に書いています。

というわけで6月に見た映画は17本でした。やっぱり映画館で新作映画を見るのは楽しいですね。映画館に行けなかった数ヶ月は本当に悶々としていたし、仕事の能率もガタ落ちだったので…改めて映画館って大切な場所だなと思いました。7月も沢山いい映画と出会えますように…。

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