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【鑑賞ログ数珠つなぎ】ブラインドネス

ある作品を観たら、次はその脚本家や監督、役者の関わった別の作品を観たみたくなるものである。まるで数珠つなぎのように。
前回:『千と千尋の神隠し』

https://note.com/marioshoten/n/n97827d9322f5

【数珠つなぎ経緯】

本当にこじつけでしかないけれど、今生きている世界から突然全く違う世界へ放り出された人間の様子を観察するという意味では、『千と千尋の神隠し』も『ブラインドネス』も共通するかもしれない。

ただ「千と~」は千尋ひとりが湯屋の世界に行くのに対し、「ブラインドネス」は全世界が突然失明してしまうという謎の感染症が蔓延った世界に行くという意味で少し違う。アニメと実写という点でリアリティもある。

なぜ今ごろ2008年の映画『ブラインドネス』を見たかというと、「100分deパンデミック論」という番組がキッカケである。タイトル通りパンデミックに関する本を紹介するのだが、高橋源一郎さんが紹介していたジョゼ・サラマーゴ著『白の闇』にとても興味を持ったからだ。

本当は本を読みたかったのだけど、調べていると映画化されていると分かり、しかも木村佳乃・伊勢谷友介の日本人キャストがいるではないか!そして配信もやっている!とのことで再生ボタンをプッシュしたのだった。

【あらすじ(引用)】

とある都会の街角。日本人の男が運転する車が交差点で立ち往生していた。突然目の前が真っ白になり、完全に視力を失っていたのだ。親切な男に助けられ家まで送り届けられるが、そのまま車を持ち去られてしまう。男は妻に付き添われ病院に。医者は、眼球に異常はなく原因はわからないと告げるが、各地では失明者が続出していた。車泥棒も、そして、診察した医者までも。驚異的なスピードで“ブラインドネス”は感染していった…。

https://movie.jorudan.co.jp/cinema/12826/

【感想(ネタバレあり)】

「100分でパンデミック論」で本の紹介を聞いたときから、怖くて怖くて仕方なかった。今あるコロナの世界とも近いものがあるけれど、誰もが目が見えくなってしまう世界は想像がつかない。

ブラインドネスでは見える者が見えない者を閉鎖した精神病棟に隔離し、最低限の食物や設備しか与えない。彼らを世話する人間は誰もいない。主人公である女性は目が見えているにも関わらず、失明した夫に付き添い、施設に潜入する。見えることを隠しながら患者たちをサポートするが、日に日に増える感染者に施設は荒れ、物資は不足していく。遂には独裁者が現れ、惨劇が繰り広げられる。

見えない恐怖と見えてしまう恐怖が痛いくらいに伝わってくる。
自分が見えなくなったらどうするだろう?目が見えないながらも欲望を剝き出しにして弱肉強食の世界で生きていけるか。家族は、仲間は、大切な人のことを想えるだろうか。
たった一人見える側に立ったとしたら?いつ失明してもおかしくない恐怖と戦いながら、人々が動物のように本能のままに生きる姿をどう見つめ、どう援助できるのか。そもそも援助しようと思えるだろうか。

番組ではラストの説明はされていなかったので、どう終わるかハラハラしながら見ていた。ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか、そのどちらでもないのか……

どのくらい日数が経ったかも分からないが、施設を出た女性と夫そして数名の仲間は荒廃した街を目の当たりにする。街にいる人たちはみんな目が見えないが、奪い合ったり、寄り添い合ったりして何とか生きている。
女性の家にたどり着き、束の間の休息を得る仲間たち。彼らは見えなくても絆と安心を感じていた。むしろこのままでいいという者さえいた。
ある朝、最初の感染者である日本人男性(伊勢谷友介)は「目が見える!」と叫ぶ。感染症が治ったのだ。自分も目が見えるようになる!と歓喜する面々。そんな中、女性はひとり覚悟を決めた表情を見せて終わるというラストだった。(本も同じなのかな…?)

高橋源一郎さんは『白の闇』のタイトルについて、普通は黒の闇ではないかの指摘に対し、見えているのに見えていない、ということを言いたかったのではないかと考察していた。

それを聞いて思ったのは、結局見えていても見えていなくても人間が起こす問題はさして変わることはなく、奪い合いであり、暴力であり、差別であり、戦争であって、根本をきちんと「見」なれば解決しないのだと言われているような気がした。

本当に大切なものが見えていますか?
本当に必要なものを見ていますか?

やっぱり本も読んでみようかな。

【次の作品】

久々に舞台を見たので。
モダンスイマーズ『だからビリーは東京で』

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