見出し画像

【SCP考察】SCP-3480「オリンポス山」について考えたこと

SCPというシェアード・ワールドの世界について、私は最近ようやく本格的に触れ、あらためてその魅力を楽しんでいます。この世界が嫌いな方もいるでしょう。しかし、私は好きです。想像の翼は創造へとつながる。まさしく、これこそが私がSCPに強い興味を抱く理由です。

特にお気に入りなのが、YouTubeチャンネル「404studio_ゆっくりSCP解説」さんのSCP解説動画。この製作者様には強くお礼を言いたいくらいに、その魅力を大いに伝えてもらいました。各動画のサムネイルも素敵です。

中でも傑作と考えているのが、「オリンポスシリーズ」と銘打たれて始まったシリーズの最終章。難解なSCPとして知られるSCP-3480「オリンポス山」を解説したこの動画です。独自考察の深さが、私の興味を大いに換気しました。

よって、ぜひとも私のSCP-3480、ならびにSCP-2000を始めとする類縁のSCPに関する妄想を聞いていただきたく、このnoteを執筆しました。ご意見やご感想は、私のツイッターまでお知らせいただければ幸いです。

また、本稿は上記のオリンポス山解説動画、ならびにオリンポスシリーズ動画としての「現実改変とは?」「マリアナ海溝から回収された文書」「SCP-1422『イエローストーンの怪』」「SCP-2000『機械仕掛けの神』」の視聴を前提にしています。

さらに、私はまだSCP初心者の素人ではありますが、いくつかの関係があるかもしれない(と妄想する)SCPの話題も取り上げます。その点にご留意いただき、ゆったりゆったり読み進めていただければ幸甚に存じます。

そこそこ長い原稿になりましたので、「今北産業」という3行での説明を求めておられる方は、ぜひとも目次から「まとめ」にジャンプしてください。その内容が面白そうであれば、やはり、ゆったりゆったり読み進めていただければと思う次第です。

SCP-3480「オリンポス山」とは

画像1

動画でも「超難解」と表現されており、実際にほかのSCPとのかかわり、神話や民俗学をモチーフとした知識がふんだんに詰め込まれている「オリンポス山」は、掘れば掘るほど難解で、かつ面白いSCPといえるでしょう。

現在のギリシャ共和国内に存在する実在の山であるオリンポス山を舞台に、限りなく奇妙で、壮大で、スナック感覚で人類が滅ぶ脅威が展開されます。

さて、SCP-3480の報告書、ならびに序文で挙げた動画において、実体であるSCP-3480-2は平行宇宙である「外宇宙ALEPH」から来ていることが明らかになりました。動画において、この鍵を握っているのがSCP-2000「機械仕掛けの神」ではないかと推察されています。

先ほど「スナック感覚で人類が滅ぶ」と申し上げましたが、まさしく機械仕掛けの神は、その意志によって基底世界や平行世界の人類の命運を左右できる立場にあるわけですが、その支配については非常に慎重に進めている点が特徴的です。

とりわけ、5つの実例として報告書で示されている「敵対的なSCP-3480-2」、その3番目の事例であるSCP-3480-2-8は、オリンポス山を管理するエリア13の機動部隊を全滅させたにもかかわらず、立ち直れないレベルでの終焉シナリオの実行は5体目であるSCP-3480-2-19に譲っています。

代わりに、SCP-3480-2-8が実行したのは、ギリシャの特定の都市および島について、全人類の記憶や歴史から抹消するというものでした。本件こそは動画内において言われる「残った謎」であり、次項でさらに掘り下げていくこととします。

動画へのアンサー「サラミス島にあるもの」

画像2

動画において、基底世界の人類がその記憶から消された島というのは、サラミス島(サラミース島)ではないかと考察されていました。数字からも大いに連想されるところであり、説得力を感じる示唆であるように思います。

サラミス島といえば、ギリシアとペルシアの命運をわけた戦いであり、サラミスの海戦が行われた場所としても知られています。そして、このサラミス島の神話をたどることで、「機械仕掛けの神が隠したかったであろうもの」も見えてくるでしょう。

もともと、サラミス島は違う名前でした。まだギリシア神話の時代です。サラミスは河の神であるアソポス(アーソーポス)と、地方の河の神ラドン(ラードーン)の娘であるメトーペーのあいだに生まれた女性でした。

彼女は海と地震の神として知られるポセイドン(ポセイドーン)にさらわれて、彼とともに暮らし、子どもをもうけます。これがキュクレウスであり、彼は島の王となって、島の名に愛する母サラミスの名を冠しました。

動画内において、機械仕掛けの神のコアとなっている「神」とは、このサラミス、あるいはキュクレウスではないかという洞察がありました。

本件に関しては、2つの可能性を提示します。すなわち「キュクレウス説」と「ポセイドン説」です。

動画へのアンサー「サラミス島にあるもの」[キュクレウス説]

キュクレウス説については、最も理解が進みやすいと考えます。彼こそがこの島の王であり、歴史の始まりを告げた存在といっても過言ではないでしょう。キュクレウスは人々を悩ませる大蛇を討伐したことで信望を得て王となり、同時に彼自身も半身半蛇の「蛇の化身」として描かれることにもなりました。

蛇というモチーフは、非常に重要です。特に、SCP世界においては、アブラハムの宗教……すなわちユダヤ教、キリスト教、イスラム教に関連する事象は多く出てきます。これらの宗教における蛇がかなりユニークな扱いであることは、多くの人が知るところでしょう。

とりわけ重要なのは、「蛇はアダムとイブをだまし、知識の木の実を食べさせた」と創世記に描写されている点です。蛇そのものが悪い存在とユダヤ教、カトリック、および正教会は捉え、蛇の背後に悪魔がいるとプロテスタントは捉えますが、いずれにしても蛇は「まつろわざる異質なもの」の象徴です。

他方において、蛇は信仰の対象でもありました。ユダヤ教の唯一神であるヤハウェについては、時代によっては体の一部が蛇になっているものが存在しました。さらに、キリスト教でも、蛇は地を這うことを強制されましたが、人間に与えられたような呪縛までは課せられませんでした。

もとより、世界各地で蛇への信仰は多く見られます。なぜなら、蛇は脱皮する生き物の代表格であり、新生や復活の象徴たりえたからです。

こうしたことから、教義によって蛇への扱いは異なり、異端として有名なグノーシス派では蛇への信仰が公然と受け継がれていました。また、自分の尾をくわえる巨大な蛇は「ウロボロス」と呼ばれ、ヘレニズム世界では世界の創造の単一性と完全性を示すものであり、中国の陰陽思想にも影響を及ぼしました。SCP-2481「大羿射日」では、中国神話の伏犠は蛇神として設定されていますし、現実世界でも蛇身人首の姿として描かれることもしばしばです。

先に触れたサラミスの海戦においても大蛇が現れ、信託はそれをキュクレウス本人であると告げ、ギリシア軍の士気を高めました。

そんなキュクレウスは、サラミス島に「聖域」を持っていたと、『対比列伝』(英雄伝)で知られるプルタルコスは記しています。その聖域が基底世界のサラミス島にあったとすれば、キュクレウスという「世界を覆い尽くす蛇」にとって、大いに重要な何かがあったでしょう。

動画へのアンサー「サラミス島にあるもの」[ポセイドン説]

神の格式という点において、ポセイドンは最高位に限りなく近い存在です。彼は全物質界を支配する存在であり、「海のゼウス」とまで呼ばれました。そもそも、彼はその全知全能の主神たるゼウスの兄であり、冥界を司るハデス(ハーデース)の弟にあたります。

ポセイドンはゼウスに反乱を起こしたこともあるほど、強大な力と峻烈な気性を持っていました。彼はまさしく大洋そのものの威風をたたえており、「人間を懲罰する大自然の顕現」であったといえます。

ギリシア世界は海の世界であり、海運は死命を分かつ一大事業であり、それは今日でも変わりません。そういうこともあって、今も昔も大いに信仰を集めています。

人間に時に優しく、時に苛烈である。アブラハムの宗教の唯一神にも通じる神の特徴には、ポセイドンからの影響が見られるでしょう。であればこそ、機械仕掛けの神による「人類の選別」というものは、まさしく「ポセイドン的」ともいえるふるまいです。

ポセイドン説の有力な後ろ盾となるのは、あるひとつの記述です。それは「マリアナ海溝から回収された文書」に書かれた、切ない締めくくりの言葉へとつながります。次項でそれを明らかにしましょう。

マリアナ海溝からのささやき「どうか、彼らが私を洗い流さないように」

画像3

Tale「マリアナ海溝から回収された文書」は、投稿された時期こそ古いものの、「再起動する世界」を描いた趣深い内容です。このTaleにおけるメインテーマは「崩壊する世界」「生き残りによる世界の再起動」であり、文書を書いた男は、生き残りのSCP財団職員に「家が水に沈む」と言われました。ゆえに、彼はこのように書き残します。

どうか、彼らが私を洗い流さないように。
(中略)
我々を忘れないでくれ。

ですが、彼は、彼らは、大多数の人々に忘れられました。問題は世界再生のプロセス、ならびにこの文書が発見された場所です。世界再生のプロセスを額面通りに受け取るならば、どうやら「大洪水によって世界中にあふれたSCPを一網打尽にし、一新した世界に再び『生産』された人類が文明を構築する」ということになるでしょう。

ノアの方舟伝説を想起させるものではありますが、そのルーツのひとつが、海と地震の神であるポセイドンです。彼は、「大陸を沈ませる」「山脈を引き裂く」「大地震を起こす」といった洪水から地殻変動まで、あらゆる「大掃除」ができる神でした。

そして、マリアナ海溝から回収された文書、ならびにSCP-2000で示された人類再生の手順も、限りなく「ポセイドン的プロセス」に従っているように感じられます。

また、この文書について、男は「峡谷に投げ捨て」ました。しかし、発見された場所は地球において特に深い場所とされる「マリアナ海溝」です。かつて地上だった場所が、深海中の深海になっているわけです。かくて世界は洗い流され、かつての人類は、生命は、何もかもが滅びました。この神の裁きともいえる事象は、島の王よりも海の神(かつ王の父たる強き神)のほうが似合っていると考えられる部分です。

鍵を握る「プロトコル・クロノス」

画像4

SCP-3480はオリンポス山が舞台なだけあって、数多くのギリシャ神話的な要素に満ちています。SCP-3480-1が出現した際に取られる措置である「プロトコル・クロノス」も、まさしくそのひとつであり、動画において提起された謎の解決を、より押し広げる効果を持っていると考えます。

そもそも、なぜ「プロトコル・クロノス」という名称なのでしょうか?

クロノスという神は、先に挙げたハデス、ポセイドン、ゼウスといった偉大なる神たちの父です。山よりも大きい巨大な神、ティーターンの長でした。クロノスは、彼の父であるウラノス(ウーラノス)の性器を切り取って追放し、その権力を奪取しました。とてつもない巨神といえるでしょう。

そして、大地と農耕の神である彼は、ローマ神話の農耕神であるサトゥルヌス(サートゥルヌス/サターン)と同一視されます。

「我が子を食らうサトゥルヌス」という、フランシスコ・デ・ゴヤが描いた衝撃的な絵画は、まさしくこのクロノスをモチーフにしています。なぜなら、クロノスは追放した父ウラノスと同様、彼もまた自らの子にみじめに権力を奪われるという予言を受けたため、子が生まれるたびに「我が子を食らう」のを繰り返していました。

しかし、最後の子であるゼウスのみ、クロノスの妻でゼウスの母であるレアー(レイアー/レア)が偽って石を飲ませ、命を助けました。隠れて成長したゼウスはついにクロノスから兄弟たちを救い出し、末っ子でありながら最高神の栄誉を勝ち取ります。

クロノスは怒り、我が子たちとの戦いを挑みます。このとき、ゼウスたちはオリンポス山に布陣し、クロノスはオトリュス山に布陣しました。全宇宙が打ち壊れるほどの規模で10年続いたこの戦いは、「ティーターノマキアー」として語り継がれます。

そして、クロノスは敗北し、彼を始めとしたティーターン族は不死身であったため、奈落たるタルタロスへ永遠に幽閉されることになり、オリンポスの神々による世界の支配が始まりました。

現れた「神」を撃つということ

SCP-3480-1が出現する「ホワイト・イベント」は、明らかに神々しい存在の出現であり、あらゆる敵対存在を罰する神の威光に満ちています。このSCP-3480-1が大地に降りることでSCP-3480-2となるわけですが、少なくとも神が降臨したことに変わりはありません。そう、オリンポスの神が。

その脅威を排除し、収容するための試みとしての「プロトコル・クロノス」は、とても示唆的な名称と言わざるを得ないでしょう。してみると、基底世界における財団は、ひいては現在の文明の人類は、実は光栄あるオリンポス神ではなく、「いずれ敗北するであろう巨人としてのティーターン」としての立場にあるのかもしれません。

そして、機械仕掛けの神は、まさしくこのティーターノマキアーを「正常に」遂行している可能性も考えられるでしょう。

補遺1:「外宇宙ALEPH」に関する雑感

画像5

友好的なSCP-3480-2に対して行われたインタビューにより、彼らは平行世界たる「外宇宙ALEPH」から来た、当地のSCP財団職員であることが判明しました。その世界は滅ぶことになったといいます。

ですが、彼もまた機械仕掛けの神によって作られた、「基底世界における失敗作・異常な人間」「平行世界における正常な人間」なのかもしれません。少なくとも、現実改変能力を基本的な要素として所持しているのは、基底世界の目から見れば「超人」であることに疑いの余地はないからです。

そして、外宇宙ALEPHという名称にも注目すべきでしょう。ALEPHとは、ヘブライ文字の1番目の名称です。Aやαといった存在のヘブライ語版ですね。中東地域ではこれらの言葉の親近性が高く、アラビア文字にもアリフというものがあり、エジプトにおける発音ではアレフといいます。まさしく「最初の文字」なわけです。

加えて、このアレフは、数学分野において重要な意味を持ちます。それがヘブライ文字アレフに由来する「アレフ数」です。アレフ数は数学の集合論において、無限集合の濃度ならびに大きさを表現する数として使用されます。無限集合は「無限でありながらも異なる濃度がある」ため、アレフ数が用いられるのです。

これはとても楽しく、奥が深い示唆を持ちます。これを外宇宙の名称に定めたのは、「いったいどこの誰」なのでしょうか?

かつ、基底世界から見た平行世界はいったいどれだけの数があるのでしょうか?

無限は無限であり、有限ではありません。機械仕掛けの神が全平行世界の征服を企図するならば、そのためには「無限の機械仕掛けの神」であらねばなりません。しかし、少なくとも現時点では有機体としての「有限の機械仕掛けの神」であるように見えます。

ただ、この問題を解決する可能性が存在します。それが動画でも説明されていた財団超科学3種であり、特に重要に感じられるのが「擬リーマン多様体」です。擬リーマン多様体が単に地下空間を広げるだけでなく、「さらに優秀な頭脳」によってn次元に広がる無限次元への進出を可能にしたならば、機械仕掛けの神は「全概念を統べる神」にすらなれるかもしれません。

外宇宙ALEPHはそのための「実験場」を包括して総称する、「デウス・エクス・マキナ」としてのミームなのではないでしょうか。

補遺2:エリア13とサイト13

画像6

オリンポス山の周囲はエリア13と規定され、民間人の立ち入りはギリシャ内務省による封鎖措置の形で厳しく制限されています。この「13」という文字を見たとき、プリミティブな筆者の頭は「悪魔の数字」「ゴルゴ13」といったものを連想しましたが、いくつかの候補の後に興味深い相違点に思い至りました。それがSCP-1730「サイト-13に何が起こったか?」です。

あるとき、SCP財団が完成させなかったはずのサイト13が突然出現します。それは、平行世界のひとつにおける当地の財団がつくったものでした。しかも、その世界において、SCP財団は世界オカルト連合に半ば吸収合併され、収容よりも処分や破壊を優先する組織となっていました。サイト13はそのための建物であり、「ボディ・ピット」と呼ばれるSCPの破壊装置が備えられていました。

同じ13の文字を関する財団関連の施設および地域が、このように「人間の業」を感じさせるもので共通しているのは面白みがあります。"What Happened to Site-13?"は、あるいは"What Happened to Area-13?"として、繰り返し前の世界で叫ばれたのかもしれません。何しろ、滅びたことがあるのは確実なので。

そして、このサイト13の壁には、「Not my body(自分の体ではない)」という痛切な叫びが書かれていました。SCP財団の可能性と、「あるいは実験を繰り返す基底世界のSCP財団も似たようなものではないか」と考えさせるとともに、それが「神の意志によるものか」「あるいは神に罰されるための『プロトコル』なのか」という思念が深まります。

補遺3:その人類は真に人類であったか

画像7

基底世界は、こちらの世界に限りなく近い存在です。少なくとも、人類は同じ姿をしています。しかしながら、「人類の定義が完全に変わってしまった」世界が描かれたSCPがあります。それがSCP-3936「職務に忠実であれ」です。

あらゆる現実改変に耐えられるように設計された除外サイト01の職員たちは、ある日、「すべての人類が、自分たちの人類ではなくなっていたこと」「そして、自分たちこそがSCPに値するイレギュラーな存在になったこと」を知り、自らを終了させることを選びました。

除外サイト01に突入してきた「機動任務部隊」が見たものは、「人類とは似ても似つかない2本の腕と2本の脚を持った生物の死体」でした。そう、現実が書き換わったその世界において、人類はもはや一般的な人類ではなくなっていたのです。

ところで、基底世界における人類とは、私たちが知る人類なのでしょうか。何もブライト博士やジェラルド博士を持ち出す必要はありません。Dクラス職員を惜しげもなく使い、とてつもない富を災厄に対して投入し、時として図抜けた超人性を見せる「人間的なもの」が現れる世界……。

しかも、すでに複数回滅び、SCP-2000による再起動が行われているということを踏まえても、まことに考えたくなるところです。とはいえ、「そこは変わらないから『基底世界』なのよ」という感じでもありそうですが。

補遺4:この惑星は真に地球であったか

画像8

他方、もっと疑いを持っているものもあります。すなわち、「SCP-3480が存在するのは、太陽系第3惑星の地球なのか?」という点です。

知っている方も多いと思いますが、「オリンポス山」という地名には、ギリシャの山以上に高い知名度を持つものがあります。それが火星に存在する最大の楯状火山「オリンポス山」です。高さは約27,000メートルあり、エベレストの3倍にもなります。まさしくオリンポス神の威容をたたえた超弩級火山です。

このオリンポス山に発想を得て、ダン・シモンズ氏の『イリアム』に代表されるハイペリオン四部作はつくられました。「地球化された火星に住むギリシア神話の神々と英雄たちは、激烈な闘いを繰り広げていた」「遙か数千年もの未来、地球化された火星のオリュンポス山の麓に住む学師ホッケンベリーは、ギリシア神話の神々やアキレウスら英雄たちが、ホメーロスの『イーリアス』さながらに戦うトロイア戦争の動静を観察していた」という説明文からも、スケールがえげつないことがおわかりいただけるでしょう。

もちろん、ここでSF小説の話をするつもりはありません。問題は発想です。すなわち、SCP-3480が存在するオリンポス山はギリシャのオリンポス山ではなく、火星のオリンポス山なのではないか。基底世界は地球ではなく火星にあるのではないか。先の項目に押し広げて考えれば、この火星に住む基底世界の人類、財団職員も含む人間種は、まさに巨大なティーターンなのではないか、ということです。

そもそも、地球は「地にありし球体」ゆえに地球です。そこに住んでいるのであれば、火星だろうと金星だろうと地球と呼ぶ蓋然性があります。してみると、「火星は先進文明が終末戦争で絶滅した光景」という妄想が、なるほど、実に深い味わいを伴ってきます。

補遺5:真なる「我らの壊れたる救済」

画像9

平行世界のみならず、同一宇宙における多種の惑星の支配について、機械仕掛けの神が考えているとしたら、どうでしょう。そして、神であるにもかかわらず、冗長にも見えるプロセスを踏んでいるのはなぜでしょう。

この問いかけについて、SCP-2510-DEL「我らの壊れたる救済」が答えてくれるのではないかと考えています。このSCPは、メタ的に言えば、作成者の永久BANによって「永久に壊れて」しまいました。

しかし、SCP-2510-DELによって描かれていた「壊れた神の教会」には、不倶戴天の敵が存在します。それが「サーキック・カルト」です。機械の神MEKHANEと神喰らいの神ヤルダバオートの果てなき戦いは、SCP-2510-DELのメインテーマでした。

SCP-2510-DELの報告書には、ヤルダバオートとその信者によって支配された平行世界がいくつも出てきます。すなわち、SCP-610「にくにくしいもの」に満ちた世界です。ヤルダバオートの勝利したこの世界には、壊れた神の教会も、財団も、すべて残っていません。機械文明は滅びました。

そうしたつながりから見ていくと、SCP-2000たる機械仕掛けの神がMEKHANEと同一視されるかはともかく、「機械仕掛けの神が敗北した世界」もかなりの数が存在するのではないでしょうか。少なくとも、容易には覆せないほどの屈辱を味わった状況が現出しているからには、「無計画にダイスを振るわけにはいかない理由」の存在を感じずにはいられません。

であるからこそ、「人間は自身を高める武器か」「それとも食料か」「あるいは神を超克して歩み始める者か」というテーマさえも浮かんできます。ブライト博士とSCP-963の関係はまさしく超越者のそれですし、SCP-2000において描かれた「クレフ博士ならぬクレフ博士」もまた抗った一人なのかもしれません。

また、機械仕掛けの神をして「容易ならざる敵」が財団ではなく「にくにくしいもの」なのだとしたら、むしろそちらからサラミス島の所在を隠す必要があったのでは、とも考えます。

「オリンポス山」まとめ

画像10

● サラミス島には、機械仕掛けの神の「聖域」があるかもしれない
● 機械仕掛けの神には、海神ポセイドンが秘められている可能性がある
● 現生人類は「やがて『異常』として駆逐されるべき存在」と見られているのではないか

ところで、ヤルダバオートは本来はグノーシス派の教義で言うところの「無知蒙昧な偽の神にして造物主」なのですが、血肉をもって数多のSCPを生み出す基底世界の人類、ならびに上位存在としてSCP世界を観察する私たちは、実にヤルダバオート的な気がしますね?

ともあれ、1万字近い原稿をお読みいただき、ありがとうございました。無論、序文のすすめにしたがって、まずはまとめからお読みいただいた方にも感謝を。内容が気になったならば、興味の湧いた見出しの項目だけでも、ぜひお読みください。良き日々と、楽しき時を。