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第105回 日本陸上競技選手権大会 中長距離種目Review

6/24-27に大阪・ヤンマースタジアム長居で開催された第105回日本陸上競技選手権大会の中長距離種目をYouTube動画で観戦しました。1カ月後に迫った東京五輪の代表選考会も兼ねた大会であり、熱戦が繰り広げられました。

競技結果

【男子】
800m 田母神 一喜(阿見AC)1’46”48=PB
1500m 河村 一輝(トーエネック)3’39”18
5000m 遠藤 日向(住友電工)13’28”67
3000mSC 三浦 龍司(順天堂大)8:15.99=日本新、大会新、PB
②山口 浩勢(愛三工業)8’19”96=PB
③青木 涼真(ホンダ)8’20”70=PB
【女子】
800m 卜部 蘭(積水化学)2’03”71
1500m 田中 希実(豊田織機TC)4’08”39
5000m 廣中 璃梨佳(JP日本郵政G)15’05”69
②新谷 仁美(積水化学)15’13”73
3000mSC 山中 柚乃(愛媛銀行)9’41“84=大会新、PB
※ 太字は今回東京五輪代表に内定

◆800m

800m競争は、トラックを2周することから、別称「Two Laps」とも呼ばれます。トップスピードを維持して周回を行う苛酷さ、レース中の激しい位置取り、一瞬のスパートタイミングの判断の巧拙が結果を左右する繊細で奥の深いレースです。

映画化もされた川島誠の小説『800 TWO LAP RUNNERS』(1992)でその魅力が描かれています。

寸評①:男子800m

レースは成長株の源裕貴選手(環太平洋大)が先導し、1周目52秒の好LAP。バックストレートからスピード勝負となり、ラスト100mの直線で脱け出した田母神一喜選手(阿見AC)が、新鋭の金子魅玖人選手(中央大)、この種目の第一人者で、日本記録(1’45”75)保持者の川元奨選手を振り切り、自己新記録(PB)で初優勝を飾りました。

田母神選手は、福島の強豪・学法石川高校出身で、同級生に相澤晃選手(旭化成)、阿部弘輝選手(住友電工)、一学年下には、遠藤日向選手(住友電工)、二学年下には半澤黎斗選手(早稲田大)など錚々たる面々が揃った「学法石川、最強世代」の一員です。

中央大学卒業後は、800mで五輪出場を果たした横田真人氏が代表兼コーチを務めるTWOLAPS TCでトレーニングを積んでいます。

寸評②:女子800m

田母神選手と同じTWOLAPS TCでトレーニングを積む卜部蘭選手(積水化学)が、後半スプリント能力を活かして抜け出し、1500m(2位)の雪辱を果たしました。五輪参加標準記録には届かなかったものの、2019年以来2年振り2度目の優勝を飾りました。

実力者の広田有紀選手(新潟アルビレックスRC)が自己新記録で2位に入りました。1時間後に5000m決勝レースを控える田中希実選手(豊田織機TC)は、前半は後方集団で進め、後半に追い込み3位に食い込みました。

◆1500m

『トラックの格闘技』、1500m競争は私が偏愛するレースです。通称センゴ。その魅力については、以前のnoteにも書きました。

寸評③:男子1500m

荒井七海選手(ホンダ)が5月に行われたアメリカ・ポートランドの競技会で3’37”05の日本新記録を樹立しました。小林史和選手(NTN)が2004年にマークした3’37”42を17年振りに更新する快挙ですが、それでも五輪参加標準記録(3’35”00)を突破するには、この日本記録を上回る必要があります。

レースの前半は、高校生の佐藤圭汰選手(洛南)が積極的に引っ張り、前回優勝の館澤亨次選手(DeNA)が引き継いで前に出るも、残り1周のペースアップ合戦で失速。好位置でレースを進めた河村一輝(トーエネック)が最後の直線でスプリントを爆発させて、先行する森田佳祐選手(小森コーポ)らを抜き去り、初優勝(3’39”18)を飾りました。

最近は国内競技会でも、ようやく3分30秒を切るスピードレースが定着してきました。あと一息で世界のトップレベルが見えてきます。

寸評④:女子1500m

注目は、5000mの五輪代表内定済の田中希実選手(豊田織機TC)です。自身の持つ日本記録(4’05”27)を上回る五輪参加標準記録(4’04”20)突破を目指して、前半から独走しました。2位以下に大差を保って大会二連覇を飾ったものの、タイムは4’08”39と今一歩及びませんでした。

2位には、後半スプリント力を発揮した卜部蘭選手(積水化学)が自己新記録(4’10”52)で入り、3位は、これも自己新記録(4’13”49)をマークした井手彩乃選手(ワコール)でした。

◆5000m

長距離(Long-distance)種目の中で最も距離が短く、800m/1500mが主戦場の中距離ランナーが参戦してきたり、マラソンを目指す長距離ランナーがスピード持久力強化の一環で取り組んだりする傾向も見られます。

世界では3000mを過ぎてからハイスピードで押し切るレースが主流です。世界記録(男子:12’35”36、女子:14’06”62)との差もある競技です。

寸評⑤:男子5000m

出場選手に豪華メンバーが揃い、好記録が期待されたレースでしたが、ペースメーカー役のクルガト選手、カベサ選手(共にオープン参加)が作るペースに次々と振り落とされ、残り1000mの段階で、食らいついたのは、大器の遠藤日向選手(住友電工)ただひとりになってしまいました。

遠藤選手は、そのまま独走で初優勝を飾ったものの、13’28”67と自己記録(13’18”99)、五輪参加標準記録(13’13”50)に及びませんでした。2位には勝負強い松枝博輝選手、3位にはラスト頑張った前年優勝の坂東悠汰選手の富士通勢が入り、10000mの五輪代表に内定している相澤晃選手(旭化成)は僅差の4位でした。ベテランの佐藤悠基選手(SGH)が6位に食い込み、健在ぶりをアピールしました。

遠藤選手は、中学時代から頭角を現し、福島・学法石川高校時代には、世代最強の名を欲しいままにしていた逸材です。実業団の住友電工に進んでからも順調に成長を続けており、2019年2月には5000mの室内日本記録(13’27”81)を樹立しています。

寸評⑥:女子5000m

女子も実力者が揃い、注目のレースでした。10000mの五輪代表に内定済で、5000mの参加標準記録(15’10”00)もクリアしていた、廣中璃梨佳選手(JP日本郵政G)、新谷仁美選手(積水化学)が順当に1位、2位を占め、10000mに続く2種目での五輪代表内定を獲得しました。

既に五輪代表内定済の田中希実選手(豊田織機TC)は、僅か1時間前に800m決勝を走り終えた後の苛酷なコンディションの中、3位に食い込む地力を見せつけました。若手成長株の萩谷楓選手(エディオン)が4位でした。

◆3000mSC

別名”サンショー”。SCとは、英語のsteeplechaseの略で、トラック1周に配置された水壕を含む5つの障害を飛び越えながら周回するレースです。

障害物の高さは、男子が91.4cm、女子が76.2cm。水濠は、男女とも最深部の深さが0.7メートル、長さが3.66メートルです。

寸評⑦:男子3000mSC

若き日本記録保持者、20歳の三浦龍司選手(順天堂大)の独壇場のレースでした。ラスト1周に入る前の水壕を越えた直後にバランスを崩して転倒するアクシデントがあったものの、そこから立て直して一気にスピードアップすると後続を大きく引き離し、1か月前に自身が打ち立てた日本記録を更新する8’15”99でゴールしました。

この種目は、走力に優れる選手たちの参戦で近年レベル向上が目覚ましくなっています。2位の山口浩勢選手(愛三工業)、3位の青木涼真選手(ホンダ)も自己記録を更新して、五輪参加標準記録(8’22”00)を突破したため、三人が五輪代表に内定しました。

寸評⑧:女子3000mSC

2006年の90回大会から新設された比較的新しい種目です。

実力No.1、第一人者の山中柚乃選手(愛媛銀行)が、終始レースを主導し、大会新記録、自己新記録の9’41”84をマークして初優勝を飾りました。五輪参加標準記録(9’30”00)の突破はなりませんでした。

2位には、2019年優勝の吉村玲美選手(大東文化大)、3位には藪田裕衣選手(大塚製薬)がそれぞれ自己新記録で入りました。


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